(21)裂け谷へ
エルフが住むと言う裂け谷へ向かっての旅が始まった。一行は俺と弟のファラミア、灰色の魔法使い、野伏せのハルバラド、そして海賊のギヤマンドラ、バラバ、ゴントというメンバー構成である。執政家の長男である俺が海賊などという野蛮な連中と旅に出るなど、本来ならありえないことなのだが、いろいろな事情があって仕方なく一緒に行くことになった。
「兄上、裂け谷はもう近いのでしょうか?森の木の色や形が少しずつ変わってきています。ゴンドールの森はもっと違う種類の木が・・・・」
「さあ、裂け谷という場所がどのあたりにあるのか、俺にはさっぱりわからん」
「裂け谷まではまだまだ遠い。お前さん達の足ではまだ十日ほど歩かねばならない。だがファラミア、お前はいいところに気づいた。この森はゴンドール近く、イシリアンの森とは違う。岩陰や洞窟の奥深く、闇の者オークが住みつく森ではなく、このあたりの森はいまだ太古の自然が息づき、エルフが住み着いておる。わかるだろう。木も花も小川も小道も何もかも自然のままの姿を残しながら、エルフが手入れをし、美しい調和が保たれている」
「そうですね。イシリアンの森はオークが出るから決して近づいてはいけないと言われました。もしこのような森が近くにあって、自由に歩き回ることができたら素晴らしいですね」
「そうじゃな、お前が大人になったころにはひょっとして、イシリアンの森もこのような姿になっておるかもしれんな」
ファラミアは魔法使いと楽しそうに話を始めてしまった。俺はおもしろくないから少し離れた場所を歩く。確かに森の木も木漏れ日の光も、ゴンドール近くとはかなり違っているが、俺には歌や詩をうまく作る才能などまるでないから、きれいな景色を見ても美しく表現することはできない。
「腹減った。そろそろ飯の時間じゃねえか」
「そうだ、そうだ」
「しばらくまともなもの食ってねえよな。やっぱりコックを連れてくればよかった」
海賊達が騒ぎ出した。あいつら海の上では規則正しく食事を食べているのだろうか。単調な海の上の生活では食事が一番の楽しみになり、案外豪華な物を食べているのかもしれない。
「腹が減ったのなら、ここにレンバスがある」
野伏のハルバラドがレンバスの包みを取り出した。
「なんだ、またレンバスかよ。もう飽き飽きした。違う物が食べたい」
「レンバスはエルフも愛用している食物だ。これ一口で腹いっぱいになり、一日歩くことができる。旅には欠かせない」
「わかっているよ、わかっているけどさあー、なあ、ボロミア、執政家のお前ならわかるだろう、レンバスなんかじゃ腹は膨れてもちっとも食べた気はしないって・・・」
「わかるけど、今の俺は食べることなどどうでもよくなってきた。まだ来たことのない道を歩き、知らない場所へと向かっている。それだけで気持ちは充分満たされている」
魔法使いは十日で裂け谷に着くと言っていたが、俺達は十一日かかってその日ももう暮れようとしている頃、ようやく裂け谷へ到着した。エルフが住む谷に入るには、流れの速い大きな川を渡らなければならない。ここで魔法使いがちょっとした呪文を唱え、川の流れを遅くしてその間に俺達は慌てて川を渡った。渡り終えるとすぐにまた川の流れは激しくなり、とても歩いては渡れそうにない。だが魔法使いならもう少し完璧に魔法を使って、川の流れを完全に止めるとか、川の上を飛び越えて渡れるようにしてくれるとか、何かもうちょっといい方法を考えてくれてもよさそうなのに、魔法を出し惜しみして、中途半端にしか使わない。おかげで俺達は川の水でびしょぬれになり、服を乾かすまでにかなり時間がかかってしまった。
「人間は随分いろいろな種族がいるんだな」
木の上から突然声がした。長い金色の髪をした男が高い木の上で、極めて自然な雰囲気で座っている。あれが噂に聞くエルフというものなのだろうか。人間がよじ登るのはどう考えても不可能な高さの枝に座っている。その男というかエルフはヒラリと俺のすぐそばに飛び降りてきた。その動きは体重も人の気配も全く感じさせない。
「誰だ、お前は」
「おお、レゴラス!久しぶりじゃな・・・この前お前さんに会ったのは確か・・・」
「魔法使いはいつも見ているからあまり興味がない。それよりもこの人間達、姿形がそれぞれまるで違う。ガンダルフ、どこでこれだけたくさんの人間を集めてきた」
「そんなに珍しいか。紹介しようレゴラス、左からゴンドール執政家のボロミアとファラミア、ハルバラドは知っておるな、海賊のギヤマンドラにバラバにゴント、そしてこのわしは・・・」
「執政家の人間と海賊、随分変わった組み合わせで来たものだ。それで裂け谷へなんの用だ」
「ヌメノールの秘宝が見つかるかもしれない」
「それは本当か・・・ヌメノールの秘宝、どこにあるんだ・・・あの宝は我々エルフにとっても・・・」
「重要な宝だと言いたいのだろう。落ち着け、レゴラス。まだ見つかったわけではない。そのことでエルロンド卿に話がある。案内してくれないか」
「知っているだろう」
「年寄りの魔法使いが案内するよりも、若いエルフのお前さんが案内した方が、裂け谷へ来たという気分も高まるというもの。見たまえ、彼らの驚いた様子を・・・・」
魔法使いの言葉にふとファラミアを見れば、その目はもうエルフの男の姿しか映していない。海賊達までもが、一心にエルフの方だけを見ている。
「俺ぐらいで驚かなくてもこの森にはたくさんエルフがいるのに・・・それよりも人間の種族が多いのに驚いた。あの一番年若い彼は・・・」
「ゴンドール執政家のファラミアだ」
「ヌメノールの血を引いているのか。アラゴルンの若い頃によく似ている」
「アラゴルンっていう名前、もしかしてゴンドール王族の血を引く最後の方・・・」
「ああそうだ、よく知っているな、ファラミア・・・・」
「本で読みました。ゴンドール王族の血を引くアラソルンの子アラゴルンがどこかに生きているかもしれないと・・・もしその方がここにいらっしゃるならば、すぐに父上に報告しなければ・・・もう宝探しどころではなくなります」
「待て、ファラミア!確かにアラゴルンはゴンドール王族の血を引いているが、彼は訳あっていますぐゴンドールにもどって王になる気はないようだ。このことはしばらくの間お父上には内緒にしてくれ」
「でも・・・・・」
すぐにでも走り出しそうなファラミアの腕をハルバラドがしっかり掴んでいた。俺にとっても王の血筋を引く者がここ裂け谷に住んでいるというのは大きな驚きだ。これでは宝探しどころではなくなるかもしれない。
−つづくー
後書き
指輪は途切れ途切れの更新なので、なかなか感覚が掴めないのですが、それでも少しずつ更新していきたいと思っています。
2006、5、16
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