偵察(12)

両手を固く縛られ、馬に乗せられた。アレキサンダーの声ももう聞こえない。ただ馬の走る音だけが聞こえ、自分の心臓の鼓動が異様に早くなっているのを感じる。初出陣の時から十数年、遠征に参加して数え切れないほどの戦いを経験してきた。敵との戦いだけではない。味方であるはずの側近の中にも裏切り者が出て、拷問にかけられ、処刑される様子をこの目で見てしまっている。自分はどのような殺され方をするのか・・・国や顔の様子が違っても、裏切り者や敵の捕虜に対する扱いはどこも似たようなものであろう。それでも今自分を押さえつけているこの人間が、少しでも慈悲や哀れみの心を持っていることを願わずにはいられない。

夜が明けたころ、馬は止まって地面に降ろされた。乾いた荒れた土地にところどころ草が生えているだけである。日が昇ると急に暑くなる。縛られた手を解かれ、大将らしい男が近寄ってきた。

「昼間は暑くなる。水を飲め」

私は首を横に振ったがむりやり押さえつけられて水を飲まされた。乾ききった喉に水が流れると私はそれをむさぼるように飲み干してしまった。

「殺すならさっさと殺せ!」
「こんな場所で殺したりはしない。お前の本当の名前と目的は何か、何のためにここまで来たか、聞きたいことは山のようにある。わが国の興亡にかかわることだ。簡単に死なせたりはしない。いくぞ!」

用をたすように促され、再び両手を縛られて目隠しまでされ、馬に乗せられた。暑い日差しの中、馬は私の死ぬべき場所へ向かって走っていく。それはものすごいスピードにも、じれったくなるようなのろのろとした歩みにも感じられた。





どれぐらい長い時間馬に乗っていたのだろうか。やがて馬から下ろされ、縛られて目隠しをしたまま歩かされた。冷たい石の上を歩かされている。ドアの開く音がしてどこかの部屋に入れられたようだ。むっとするようないやな匂いがする。縛られた両手の紐は解かれたが、何人もの手が私の手足を固く押さえている。話し声が聞こえるが、彼らの言葉は私にはまったくわからない。身につけていた衣服を全て剥ぎ取られ、冷たい石の台の上にうつ伏せに寝かされた。ゴツゴツした石の表面が腹や胸に当たってうめき声を上げるのだが、構わずに彼らは私の手足をひっぱって台にくくりつけ、そして目隠しをはずされた。

「少しは痛い思いをしないとお前は何もしゃべらないだろう。けっして殺したりはしないから安心しろ。お前の名前と身分、目的をどう話すか今のうちに考えておけ」

大将の男が私にもわかるようペルシャ語で話しかけ、そして彼らの言葉で命令を伝えると出て行った。残されたのは縛り付けられた私と、数人の男だけ、いよいよ始まると感じて目を閉じた。





鋭い鞭の音がして、背中に焼け付くような痛みが走った。続けて何度も打たれる。声を上げないで我慢できたのは最初の2,3回だけで、後は打たれるたびに悲鳴をあげた。手足を強く固定されていても無意識に体は動いてしまい、石の台にこすれて胸や腹、そして痛みのあまり固くなった自分自身のものが傷ついて血が流れているのを感じる。鞭は背中のあらゆる部分にあてられ、もはや絶叫し、泣き叫んでいた。

「やめてくれー!お願いだ・・・すべて話す・・・たすけてくれー!・・・アアー!うわあー!」

ありとあらゆる叫び声をあげ、助けを求めても彼らには言葉が通じない。いや、通じていてもその手を緩めることはない。泣き叫び、のた打ち回りながら私は意識を失った。





気がつくと手足を固定したものははずされ、一人の男に抱きかかえられていた。水を飲まそうとしているのだろう。激しい痛みで喘ぎながらもうつわに入った水をすべて飲み干した。この後私はまたこの台の上に固定されて拷問を受け続けなければいけないのだろうか。周りの男たちを見回した。少しでも情けをかけてはくれないだろうか。自分を抱きかかえている男の頬をなで、その手に口付けをした。自分の立場もプライドももうなくしていた。これ以上鞭で打たれるのは耐えられない・・・・そのためになら・・・・すがるような目で周りにいる男達一人一人を見た。

こういう時、言葉は通じなくても意味は伝わってしまう。私は彼らが言うとおりまた台の上にうつぶせになった。一人の男が私の上にまたがり、勢いよく差し込んだ。

「アアー、・・・・ヒイー・・・・うわー!・・・・・アアー・・・イイ・・・・」

激しい痛みで絶叫しながらも、その悲鳴に艶を入れ、腰を動かした。気をよくした男は激しく腰を打ちつけ、私のものは石にこすれて血だらけになっているのを感じた。だが鞭の恐怖で私は艶っぽい悲鳴を上げ続けた。一人が欲望を吐き出して満足するとまた次の男がのしかかってくる。激しい痛みの中、意識を失わないように懸命に耐えた。絶叫に次ぐ絶叫、だが彼らにもその声は嬌声に聞こえているに違いない。そして私自身これが痛みなのか快楽なのかすらわからなくなるほど何回も犯され続けた後、最初に出て行った大将の男が戻ってきた。

「思った通りだったか。やはりお前の方が奴隷、あの男がお前の主人、ヘファイスティオンとかいう者だったのだな」
「はい、そうです。・・・私の名前はバゴアス、ヘファイスティオン様の奴隷です」

バゴアスの名前を出して取り繕った。もう名誉もプライドも何も残ってはいなかった。鞭の痛みで精神も麻痺し、これ以上さらに過酷な拷問にかけられることに耐え切れず、奴隷である振りをした。身代わりである奴隷とわかり、彼らに快楽を提供すれば少しは情けをかけてくれて、それなりの殺し方をしてくれるだろう。

「そうか、奴隷とわかればここよりも別の場所の方がしゃべりやすいだろう。ついてこい、歩けるか」

私は首を振った。歩けば歩けそうでもあったが、少しでも同情を引きたかった。

「お前は忠実な奴隷だな。そこまでして主人をたすけるとは」
「いいえ、裏切っています・・・・私は痛みに耐え切れずに・・・・・何もかも裏切り・・・・・」

それ以上は言葉が続かなかった。目から涙が溢れ、体を振るわせて嗚咽をこらえるのが精一杯であった大将の男は私の体に衣服をかぶせ、抱きかかえるようにして歩き出した。

「しっかり歩け、別の場所で詳しい話を聞く」

その男にしがみつくようにして、足を引きずりながら歩いた。今の自分にできることはただ一つ。決してアレキサンダーの名前だけは出してはいけない。それさえ守れれば・・・・・



                                                      −つづくー




後書き
  ヘファをかなり酷い目にあわせています。痛々しい・・・
 2005、12、12




目次へ戻る