偵察(15)
激しい泣き声が聞こえる。体を振るわせ、全身から搾り出すような悲しい声。この声は彼の声。死んだ私にすがりついて泣いているのだろうか・・・・そうではない、私の体にはまだ感覚が残っている。泣きながら私の体を舐めている者がいる。足の裏に舌先が触れる感触がある。
「アレキサンダー・・・・」
呼びかけても返事はない。舌先は私の足をたどり、太ももにある鞭の傷跡に達した。
「アレキサンダー・・・ううー」
「すまない、起こしてしまったか」
少し体を起こして辺りを見回した。薄暗い部屋のベッドの中、彼も私も何も身につけてはいない。
「いま、なにを・・・」
「じっとしていろ、お前の傷跡は俺が全部治してやる!」
「君がこんなことを・・・・」
「黙ってじっとしていろ!お前の傷は俺が全部治してやる。酷い傷跡だ・・・・俺が無理をして敵を追ったりしたから、お前は捕虜になり、こんなに酷い傷を負ってしまった・・・・痛かっただろう・・・苦しかっただろう・・・俺には耐えられない・・・こんなこと・・・・でもお前は耐えて俺の元に戻ってきてくれた。お前の姿を見つけて、お前が息をしているのがわかってどれだけ俺が喜んだかわかるか!全ての神に感謝した。俺のヘファイスティオンを返してくれたことを・・・・」
「アレキサンダー・・・」
「それなのにお前は俺を避け、心を閉ざしていた。またお前を失ってしまうのが怖くて、医者や見張りの兵士にいろいろ命令したよ。お前の部屋には危険なものは決しておかず、絶えず動きを見張り、逆にいくら飲んでも無害な粉をさも薬草のように見せかけて置いておけと・・・どんな手段を使ってもお前を死なせたくはなかった」
「・・・・僕は君が思っているような人間ではない・・・・鞭の痛みに耐え切れず、次に拷問で何をされるか怖くてたまらず、敵を誘惑して自分の体を差し出した。プライドも自尊心も何もかもなくしていた・・・・」
「プライドも何もかもなくしているなら、その体を俺にも差し出せ。俺が何をしてもじっとして動かないでいろ!いいか、王の命令だ。何をしても絶対に動くな!」
彼は私をうつ伏せにねかせて乱暴に尻を押さえつけた。敵に陵辱された心の傷も、同じやり方で治そうというのだろうか、あまりにも乱暴なやり方だがアレキサンダーらしいとも思った。彼の指が穴の周りに触れているのを感じて体がビクっと反応した。あの時の恐怖を体は感じ取り、激しく震えだした。私は目を閉じてその瞬間を待った。
「アアー、ううーん」
思いがけない感触が体中を走った。穴を無理やり押し広げられ、そこに鋭い痛みが走ることを覚悟していた。だがそこに触れたものはもっと熱くて柔らかく、ねっとりとしたものだった。初めても快感に嬌声を抑えきれなくなった。ねっとりとした舌の感触が全身に広がった。彼は私のその部分を丁寧に舐めていた。穴の周りをゆっくりとまわり、そして押し広げたそこにためらうことなく舌をすぼめて差し込んでくる。
「アレキサンダー、やめてくれ・・・・王である君がなぜそんなことを・・・・」
「どうだ、いいだろう、気持ちいいだろう」
「だめだよ、こんなこと・・・・アアー・・・ヒイイ・・・」
彼の舌先は固くなった私のものへと移動した。何度も舌先をこすりつけ、口の中に含んではまた外へ出す。
「もうやめてくれ・・・我慢できない・・・・君を汚してしまう・・・・」
「出せばいい・・・・お前の汚れも苦しみも俺がすべて飲み込んでやる・・・・全部吐き出してしまえ」
私は必死にこらえようとするが、その意志に反して体はすっと軽くなり、彼の口の中で全てを吐き出してしまった。
「どうだ、ヘファイスティオン、たまにはこういうのもいいだろう」
「こんなこと・・・・王である君を・・・・汚す様なまねを・・・・」
「今の俺はただマケドニアの王というだけではない。アジアを征服し、巨大な帝国の王でもある。俺の偉業は伝説となって語り継がれ、後世では神と一緒に祭られるかもしれない。その俺が生涯ただ一人の男に対してだけ、その体のあらゆる部分に口付けをし、体液すら飲み干した。もしお前が自分の穢れた者だと恥じ、死に急ぐのであれば、それは俺に対する、いや神に対する侮辱であり冒涜だ。この俺が口をつけたのだ。二度と自分を穢れた者とは思うな」
「アレキサンダー・・・・君は・・・・」
「俺は強引でわがままな王だ。相手をしようと思ったらそれなりの覚悟が必要だ。つまらないことを気にせず、早くいつもどおり相手をしろ!」
私はまたうつ伏せになった。彼の手が強く体を押さえつけている。
「俺は自分勝手な人間だけど、暴行を受けたお前が同じことをしてどれだけ苦しむかは想像できる。でもわかっていても我慢はできない。いいな」
彼のものが私の体を刺し貫いた。傷口はたちまち裂け、血が流れているのを感じる。あまりの痛みに何度も絶叫するが彼の動きは止まらない。少しの動きでも、槍で突き刺されるような痛みを感じる。長い間のたうちまわり、悲鳴を上げ続けた。だがそれも体の一番深い奥まで達すると不思議と痛みは和らいできた。
「ヘファイスティオン、わかるか、俺が今どんな喜びに満たされているか。俺はお前と違って、幻影では満たされない。お前は俺の幻影を見ても、それで救われるかもしれないが、俺はそうじゃない。幻影なんかではちっとも満たされない。今ここにいるお前を感じて声を聞いて体に触れて、匂いをかいで・・・あらゆる方法でお前を感じていなければだめになってしまう。俺の愛は常に目の前にいなければだめだ。わかるか・・・・わかってくれ・・・・もう二度と俺から離れないでくれ!」
あまりにも激しい彼の思いを全身で受け止めながら、不思議と私は静かな眠りに入った。私もまた満たされていた。
まぶしい光が差し込んできた。うっすらと目を開けると、すぐそばにすわっていたアレキサンダーが窓の方へと歩いていった。
「アレキサンダー」
振り向いた彼の顔は朝日の中で光輝いている。だがその顔には涙が溢れていた。
「アレキサンダー、どうして・・・・」
「なんでもない!ただ・・・・寝ているお前の顔があんまり穏やかで、うれしそうに笑っていたからついうれしくなって・・・・もういやな夢を見なくてすむようになったのだな。どんな夢を見た」
「それが・・・」
私は口をつぐんだ。笑っていたかもしれないが、けっしていいとは言えない夢を見ていたからだ。
「どんな夢を見た、俺に話せないのか」
「君に話したら怒るよ」
「俺達の間に秘密はないはずだ。なんでも話せ」
「いい夢ではないよ。・・・・私は大勢の観衆の前でさらしものになり、鞭で打たれる拷問を受けていた」
「そんな夢を見てお前は笑うのか!」
「鞭を手にしていたのは君だったから・・・君から受ける拷問だったら負けたくないと思った」
「なんだそれは!お前は俺のことをそんなふうに思っているのか!・・・・まあ俺がお前にしてきたことを考えれば無理もないから・・・」
「偵察の旅をしてわかったことが二つある。一つはこの世界にはまだまだ自分の想像もつかないような生き物がいて、いろいろな国があるということ、もう一つは、君と一緒にいる限り、私は絶えず危険な目に合い、悪い夢を見てうなされるということだ」
「俺と一緒にいるのはいやか」
「いやだと言っても君は許してはくれないんだろう・・・・危険な目にあうことも、怖い夢を見ることも悪いことではない。すべては君と愛し合うために与えられた試練だと思うことにするよ」
「そうか、やっぱり俺のことを本当に理解できるのはお前だけだ」
彼は笑い出し、私もつられて笑った。
「この偵察の旅が終わって、無事戻ったら俺はお前を宰相に任命する。最高の地位の者だと皆の前で宣言する。そうするとまたやっかむ者が出てきて、お前はまた嫌われるかもしれないが・・・・」
「嫌われ者の役をすることは慣れている」
「それから、いつの日か俺の望みどおりの国を作り上げて、王位を子に譲ったら、俺達はまた二人で旅にでないか。今度は本当に二人きりの旅で、いろいろな世界を見てみたい」
「まだこの偵察の旅だって終わってないのに、君はそんな先のことまで考えているのか・・・・帰り道だってまだまだ何が起こるかわからないのに・・・・」
「試練がお前を強くし、俺達の絆を深めてくれる」
私はこっそりため息をついた。彼と一緒に旅をして、共に生きていくには、身に降りかかるすべての災難を一夜の悪夢としてとらえ、乗り越えていかなければならないだろう。
−完ー
後書き
7000ヒットのノンタ様よりのリクエストで書きはじめた「偵察」。書いている間にいろいろなことを思いついてしまい、随分長くなってしまいました。それにこの終わり方、果たしてこれはハッピーエンドといえるのかどうかも不安です。ノンタ様、いかがでしょうか?
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