偵察(4)
「ヘファイスティオン様、お湯をお持ちしました」
部下の声にはっと我に返った。今私は薄い夜着を身につけているだけ、しかもほとんどはだけて裸同然の格好であった。私よりアレキサンダーの方がまだきちんと衣服に体を包まれているが、いまここで顔を出すわけにもいかない。
「わかった、湯はそこに置いてお前はもう行ってよい。ご苦労だった。夜が明けるまでは誰も私の部屋に近づかないようにしてくれ」
「かしこまりました」
私達はしばらくの間話すのをやめ、ただお互いの顔を見詰め合っていた。二人とも息を殺して部屋の外の気配をうかがう。
「行ったようだ、もう顔を出してもいいか」
「王である君が湯を運ぶのか」
「俺だっていざとなればお前を運べるくらいの力はある」
アレキサンダーが部屋の外に出て、湯の入った大きな容器を部屋の中に引きずって入れた。容器は人が入れるほど大きいが、湯は底の方に少したまっているだけだ。
「たったこれだけか」
「船の中だから仕方ないだろう。急がないと湯が冷める。早く入ってくれ」
「お前が俺の体を洗ってくれるのか」
「もちろんだ」
アレキサンダーは衣服を脱いで湯の中に座った。私はその髪を洗い始めた。日の光に輝くまぶしい金の髪、湯で湿り気を与えるとよい香りがあたりに漂った。神の子アキレスもきっと同じ金の髪を持っているに違いない。光り輝くその髪を丁寧に洗い、くしで梳かした。
「お前のこの黒髪も素晴らしい」
アレキサンダーの手が私の長い髪を掴んだ。
「湯が冷める。一緒に入れ」
「まだ、君の髪を洗っている途中だよ。それにこんな狭い所に二人で入るのは・・・」
そのつぼのような容器は一人がやっと入れるくらいの大きさである。それでも彼は髪を掴み、私の体を引き寄せようとする。仕方なく夜着を落とし、つぼの中に入った。体はぴったりと重なり合い、ほとんど身動きすることもできない。彼の手が底にたまった湯をくみ上げ、私の肩や頭にかけてくる。そのたびにお互い小さな笑い声をあげ、やがて大声をあげて、狭いつぼの中でお互い湯をかけあうようになっていた。少ない湯は部屋中にまかれて、たちまちなくなってしまった。私達二人はやっと気がついてつぼの外に出た。
「アレキサンダー、どうしてくれるんだ。まだ君の髪しか洗ってないのに、湯はなくなって、おまけに部屋中水浸しだ」
「お前だって楽しんでいただろう。また湯をもらうか」
「だめだよ、夜が明けるまで誰も部屋には近づくなと言ってある」
「じゃあこのままでいい。こんな熱い場所だ。すぐに乾くだろう」
私達は一人用の狭いベッドの上でじゃれあった。お互いの体を心ゆくまでさわりあい、感じやすいところを舐めあった。今までこんなに長い時間をかけて愛し合うということはなかった。まだ十代の頃、アレキサンダーが王になる前は、わけもわからずにただ夢中になって抱き合い、むりやり体を結合させていたような気がする。20歳で彼が王になり、私達の体も大人になったが、戦いの日々が続き、人目を忍んで急いで抱き合うことが多かった。戦いで勝利を収め、彼がダレイオス王の宦官バゴアスを見つけ、族長の娘ロクサネと結婚すると、私達の触れ合う時間はますます短くなった。今は何も気にすることなく愛し合うことができる。アレキサンダーもそれがわかっていてすぐに挿入してはこなかった。指を入れてかきまわし、充分準備ができているというのにそれ以上のものをくれずにじらしていく。
「アアー、アレキサンダー・・・はやく・・・」
「入れて欲しいのか、ヘファイスティオン・・・・まだまだだ・・・俺はお前が俺をもっと欲しがって乱れる姿を見たい」
「たのむ・・・もうだめだ・・・」
彼は濡れた先端を私の入り口に押し付け、ただその場所でこすりつけるだけである。私の体はびくびく震え、固く立ち上がった先端からは今にも激しい勢いで粘液が飛び出しそうであった。
「お願いだ、アレキサンダーこれ以上じらさないでくれ」
「喘いでいるお前の顔は最高に美しい」
「やめてくれー、は、はやく・・・・」
ズブリという鈍い音とともに後ろから鋭い痛みが走った。なんと心地よい痛みであることか。私は嬌声を上げ、心ゆくまでこの痛みを味わった。
「アー、イイ・・・もっと・・・もっと」
「もっとどうして欲しいんだ、ヘファイスティオン」
「もっと強く・・・アアー」
「そんなにいいのか、俺のことどれくらい愛しているか」
「愛している・・・・アアー」
この例えようのない素晴らしい痛みは神が与えてくれたものであろう。皮膚がこすれ突き刺される痛みに喘ぎ声を上げ続けた。いつ自分が達していたのかも気づかないまま喜びの中で意識は遠くなっていった。
気がついたとき、アレキサンダーは私の背を優しくなでていた。
「ヘファイスティオン、大変だったか」
「いや、素晴らしかったよ」
「俺もだ。ロクサネやバゴアスが相手ではああは興奮しない。やっぱりお前が一番だ。それに今夜はお前と一緒に朝まで寝られる。このまま裸で寝てもいいか。お前の肌触りを夢の中でも楽しみたい」
「いいよ、君と一緒に朝までいられるのは初めてだ」
「愛している、ヘファイスティオン・・・誰よりも・・・」
「私も君を愛しているよ、自分自身よりももっと強く、アレキサンダー」
アレキサンダーはうれしそうに微笑み、私の体を抱きしめ、足を絡ませ、唇を重ねたまま目を閉じた。私も目を閉じた。今私達は愛し合うそのままの姿で眠りに付く。これ以上の幸せがあるだろうか・・・・?
波の音が聞こえる。船のゆれが強くなってきたようだ。かなり南の方まできているようで、部屋の中は蒸し暑い。喉が渇いて水が飲みたいのだが、私の体にはアレキサンダーの手や足が絡まり、動くことができない。彼はやすらかな寝息をたてているが、正直言って私は少しも眠っていない。
「アレキサンダー、このままの格好では寝られないから、少し腕をどかすよ」
けれども、彼の手は強く私を抱きしめ、ぴくりとも動かない。
「こんなに強く抱きしめなくても僕はどこにも行かないよ。ずっと君のそばにいる・・・わかったよ。眠れなくてもしばらくこうしているよ。君はずっとこうやって愛する者を探し続けてきたんだろう。こんなにも激しく・・・僕は決して君を裏切らない。この手を振り解いたりはしないから安心しておやすみ、アレキサンダー・・・僕の王・・・・私のいのち・・・」
もう一度唇を重ねた。外はまだ暗い。時々船は大きく揺れるが、アレキサンダーは目を覚まさない。長い夜になりそうだ。
−つづくー
後書き
どんなに愛し合っていてもあの格好で寝るのはちょっとと私なら思ってしまうのですが、ヘファは違うようです。大王の全てを愛し受け入れる覚悟でいますので・・・
2005、11、8
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