若葉(ファラミア15歳10歳、ダムロド90歳60歳、マブルング60歳48歳、アムロス15歳12歳)

「おい、アムロス、お前何やっているんだよ。ファラミアはまだ来たばかりだろう。一番年下のようだし、もう少し親切にできないのか」
「年下ではない。こいつは俺たちと同じ15だ。それにここがどういう所かわかっているのか!オークは弱いやつは見逃してくれるのか!弱いやつは殺されるだけだ」
「ファラミア、早く着替えたほうがいい」

 イシリアンに来た次の日の朝、僕は水を運ぼうとして転び、びしょぬれになっていた。運良く他の子が通りかかり僕の手を引いてテントまで戻って来た。

「この服に着替えろ。お前、こういう仕事は慣れてないんだろう。少しづつ覚えていけばいいよ。こんな細い手じゃ・・・いままで何もやってこなかっただろう」
「・・・」
「アムロスのことは気にするな。あいつ俺たちにもつっかかってばかりいる。まああいつもいろいろあって不安なんだろうけど・・・」
「なにがあったの」
「よく知らないけど、家族をオークに殺されたらしい・・・」
「そうなのか・・・」
「早くしろ、すぐ朝食の時間になる」

 みんなが忙しく食事の用意をしているのを僕はぼんやりと見ていた。食事は寝ているテントとは別の大きなテントに用意されていた。中には木のテーブルといすもあった。そこにいるのはきのう見た、僕と同じ年の子供10人と年をとったダムロド、きのう紹介されたマブルング、そのほかに大人の人が20人ぐらいいた。僕たち子供はみなそれぞれの服を着ていたが、大人の人はみんな同じ濃い緑色の服を着ている。誰もみな背が高く、鋭い目をしていた。

 全員が集まっていすに座ると、ダムロドが立ち上がって何か呪文のような言葉をしゃべった。みな立ち上がり、同じ方向を見て目をつぶる。ダムロドの声が聞こえるが、何を言っているのか全くわからない。僕は近くにいる子に小声で話しかけた。

「何をやっているの」
「静かに、あとで説明するから同じようにやれ」

 僕も同じように立ち上がった。アムロスだけは座ったまま別の方向を見ている。目を閉じるとダムロドの声だけが耳に聞こえてきた。意味はわからないが、その言葉は心地よく聞こえた。その言葉が終わると一斉に食事を食べ始めた。

「何をしていたの」
「朝のお祈りだよ。ヌメノールのあった西の方角をを向いてエルフの言葉を唱える。やってなかったの」
「僕は初めてだ」
「イシリアンではどの家でも必ずやっていたよ。みんなヌメノールの血を引いているから。今はもう村に人が住んでいないけど別の場所にいってもこれだけは・・・」
「うるさいな、祈りの言葉を唱えたってオークはやってくるだろう。ヌメノールの血を守ったっていいことなどない。そんな血を受け継いでいるから変なことに心を奪われて気が狂ったりする。俺はそうはなりたくない」
「アムロス、ファラミアの前で変なこと言うのはよせ!」
「わかったよ。俺は黙っていればいいんだろう」

 朝食が終わると僕達はダムロド、マブルングに連れられ、大きな洞窟の中に入った。そこは入り口は狭くてわかりにくく作ってあったが、中は驚くほど広くなっていた。一番広い部屋の前は滝になっていて、日の光が差し込んで明るくなっていた。奥の方にはたくさんの部屋があり、武器や食料などが入れられていた。そのほかにも、宝石や骨董品が置いてある部屋、たくさんの本が置いてある部屋もあって僕はうれしくなった。ダムロドはいくつかの本や紙、ペンなどを持って明るい部屋のほうに戻った。

「ファラミア、うれしそうだな。勉強は好きか」
「は、はい」
「お前にはあの部屋に置いてあったすべての本を読めるようになってほしい。エルフ語、昔の言葉、ヌメノールの言葉、遠い異国の言葉、いろいろあるが・・・」
「はい、がんばります」
「いつか、お前がわしのあとを継いでここを守らなければならない日がくるだろう。その日までに・・・」
「わかりました」

 僕はたくさんの本といろいろな言葉を聞いてそれだけでうっとりしていた。やっぱりここにきてよかったのかもしれない。こんなにたくさんの本が読めるのだから。それに僕はダムロドの言葉もその本当の意味を理解しようとせず、簡単にうなずいてしまった。あとを継ぐというのはいろいろな知識を覚えて他の人にも教え、ここにある財宝や本を守っていけとただそれだけのことだと思っていた。すぐにエルフ語の勉強が始まった。初めて聞く美しい言葉、美しい文字、僕は夢中になって覚えた。

 お昼の食事は全員で集まったりはせず、パンと飲み物だけであった。食事が終わるとマブルングは僕達をつれて森の奥の方へ歩いていく。みんなは歩いているのだが、僕だけは走らないと追いつかない。やっと少し広い場所に出たときには疲れて座り込んでしまった。みんなは二人づつ組になって剣の練習を始めたが、僕は休ませてもらった。ミナス・テリスにいた時、一応剣や弓の稽古をしていたがそれとは全く違う。とにかくみんな動きが速くて迫力があった。全く切れない練習用の剣を使っているのだが、それでも体にぶつかるとかなり痛そうだった。最初は二人づつ戦っていたが、やがて負けた者が抜け、勝った者同士が対戦するようになった。アムロスは一番背が低かったが誰かに負けるということは決してなかった。最後まで勝ち抜き、彼一人が残った。

「まだ一人対戦していないやつがいる。ファラミア早く立て」

 僕は助けを求めてマブルングの顔を見るが、その顔は険しく、やれと命じているようだった。しかたなく僕も剣をとって立ち上がった。どうせすぐに負けると思っていたが、アムロスはなかなか攻撃してこない。しかたなく攻撃に出た瞬間、思いっきり体をたたかれて倒れていた。もうこれで終わりと思ったがまた立って試合を続けるよう命じられた。また彼はすぐには攻撃してこない。でも僕はもう次にどこをやられるか気になって戦いどころではない。そんなふうにおびえている僕の様子を楽しみながらアムロスはゆっくり近づいてくる。やられる、と思って身構えても彼は攻撃してこない。何度も怖い思いをしてもう一度剣で叩かれ倒れてからようやくマブルングが止めてくれた。

「なんだこいつ、全くだめじゃないか。怖がってばかりで何もできない」
「最初から思いっきりたたくなよ。かわいそうに、涙ぐんでいるじゃないか」
「そうやっていつまでもそいつをかわいがっていればいいだろう。気に入ったのかファラミアが・・・目も髪も俺たちと違ってきれいだし、あと5年もすればそいつをめぐって争いが起きるだろう。その前に目をつけておくのか」
「いいかげんにしろ!」

 アムロスは走っていってしまった。

「あんまりアムロスのことは気にするな、あいつはかなりおかしいから」
「やっぱりあのうわさはほんとうか」
「気が狂って自分で死んだんだろう。あいつもその血が流れているから・・・」
「やめとけ、聞こえるぞ」

 夕食の前、同じように西の方へ向かって祈る。でもアムロスだけは知らん顔していた。寝るときはそれぞれ毛布にくるまってテントの中で寝る。こうして新しい生活は始まった。

 僕にとってイシリアンの生活はそんなに悪いものではなかった。今までやったことのない、水汲みや薪拾い、食事の準備や後片付けなどいろいろやらされた。服も自分で洗わなければならないし、体を洗うのも何日かに1回、ぬるくなったお湯を少し使えるだけ、食事も城にいたころに比べれば質素だったが、何よりもまわりのみんなが彼以外は親切だし、いろいろな言葉を習うこともできた。剣の練習は苦手だったがそれでもがんばってやった。ただマブルングが注意して、僕とアムロスだけは決して対戦させたりはしなかった。少しづつここでの生活にも慣れてみんなについていけるようになった。だけどアムロスだけは相変わらずだった。ダムロドやマブルングが話をしていてもそっぽを向いていることが多いし、少しでも僕が油断して歩いていると木の棒などを足元に出されて転ばされた。すぐにミナス・テリスに帰れと悪口も言われる。他のみんながいるからまだいいようなものの、彼と二人きりだったらきっと耐えられなかったと思う。ただそのアムロスが時々うなされて泣いているのも気になった。そんな時僕は彼のそばに行って気づかれないように背中をさすっていた。これだけうなされるなんてよほど怖い思いをしたに違いない。僕と同じように・・・僕もまだ時々はうなされる。父に縛られて鞭で打たれた夢など見て・・・アムロスの顔を見ていたらダムロドとマブルングが話している声が聞こえてきた。僕の耳はかなり遠くの音まで聞こえてしまう。あまり聞きたくない話しまで聞いてしまうことになる。

「ファラミアの様子はどうだ」
「だいぶここの生活に慣れてはきたようですが、本当に彼があなたの跡継ぎになるのですか」
「わしの目に狂いがなければそうなるだろう」
「頭はかなりいいのですが、それ以外のことはどうもぱっとしなくて、歩くのも遅いし、剣の腕前もまあ、かなりひどいです。ミナス・テリスの執政家とつながりを持つために彼を使うというならわかりますが、どうも野伏の大将にするのにはあまりにも・・・」
「彼はまだ自分の力を自覚してないからな。あの力が目覚めれば・・・下手に使っても危険だし・・・執政などは疫病神のように思っている」
「そうですか。でも普通の子供にしか見えないのですが・・・」
「今はまだそうだ。力などない方が彼にとっては幸せかもしれないが・・・」
「あと、アムロスにもだいぶ悩まされています」
「彼はあの中では一番強いだろう」
「そうですが、とにかく反抗的でファラミアに対してもいろいろと・・・」
「そんなに気に入っているのか」
「いえ、いろいろ意地悪を、わざと転ばせたり、悪口を言ったり・・・」
「よっぽど好きなんだろう。彼は認めたくないだろうが、それでもしかたあるまい」
「あんなことがあってもですか?」
「同じ血を引いている。同じ道をたどらないかそれだけが心配だ」

 話を聞いてしまって僕はますますアムロスのことが気になった。どうして彼は僕に色々言うのか。なんでこんなにうなされているのか?同じ血とはいったい・・・わからないことばかりだった。


                                −つづくー

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