約束の場所(6)
「お前とアレクサンドロスはいつも一緒にいるのだな」
「はい、ただアレクサンドロス王子がオリンピュアス王妃とお会いする時、神殿の祭りに参加する時は、私は離れています」
「あれは息子までディオニュソスの狂乱に巻き込んでいるのか。あれはもはや祭りと言えるようなものではない、狂った女どもが獣を引き裂き酒を飲み、踊り狂っているだけだ。そんなものにアレクサンドロスを連れていくとはおぞましい。わが息子はそれについてなんて言っておる」
「何も言ってません。アアー王様、そこは・・・・」
「よい声を出して・・・だんだん感じるようになってきたか、かわいいやつ・・・・」
フィリッポス王は手に油を塗り、裸にした私の体をあちらこちらなでまわした。同じような行為が繰り返され、いつのまにか私も反応して喘ぎ声を漏らすようになっていた。
「フフフ・・・まだ一人前になってないというのに、なんと反応しやすい体を持っていることか。どうだ気持ちいいか」
「ああー・・・・王様・・・」
太い指が差し込まれ、もう片方の手はまだ大人になりきってない私のその場所をもみしだく。
「アレクサンドロスもお前にこのようなことをするのか、お前の体をどこまで知っている」
「いいえ、私達はそのようなことは決して」
「隠さなくてもよい、いずれ息子もお前に夢中になるだろう。そうしたらアレクサンドロスに言うのだ。けっして母の言いなりになってはいけないと・・・」
「はい、わかりました」
そしてまた繰り返されるあの行為。少しずつ慣れたとはいえ、やはり苦痛は大きく、そして何よりもアレキサンダーを裏切っている自分が悲しかった。
フィリッポス王に呼び出されるのは月1度程度のことであった。王には他にもたくさんの王妃やお気に入りの小姓がいたので私との行為が頻繁に続いたというわけではない。だがそのことをオリンピュアス王妃に気づかれているのだろうか、王に呼び出された翌日は、たいていレオニダスに酷く鞭で打たれることが多かった。アレキサンダーの目の前で、いつもと違うことを気づかれないため、歯を食いしばって痛みに耐えようとするが、それでも耐え切れずに悲鳴が漏れてしまう。
「あと少し、あと少し我慢すれば、昨日のことはなくなる。痛みを我慢して、きのうのことを忘れるんだ」
自分自身にそう言い聞かせ、泣き叫ぶのをこらえた。何かを支えにしなければ、大声を上げてしまうだろう。
「ヘファイスティオン、ヘファイスティオン、しっかりしろ!」
隣で寝ているアレキサンダーに揺り起こされた。
「またうなされていた。夢でも見たのか」
「ごめん、起こしてしまって・・・・」
「そんなに怖い夢を・・・・」
「違う、ただ鞭が怖くて・・・・・」
どれほど口をつぐみ、痛みに耐えようと決意しても、恐怖と苦痛と緊張の連続で私の心は壊れそうになっていた。何度も夢にうなされては飛び起きていつまでも震えていた。
「やっぱり、ちょっとひどすぎるんじゃないか。うなされるほど・・・・」
「違うよ、僕が弱すぎるから少しのことで夢を見てしまう」
「ヘファイスティオン、お前はいったい何をそんなに怖れている。なにか理由があるのか」
「なにもないよ。ただ僕が弱いから鞭ぐらいで怖がって・・・スパルタという国の少年は、もっと小さいうちから厳しく鍛えられているから、強くなれると聞いている。僕ももっと強くならなければいけないよね。君を守れるぐらい強く・・・」
「お前はもともと体が丈夫じゃないだろう。そんなに無理しなくても・・・」
「お前が家に帰ってくるのも久しぶりだな」
「うん、いろいろやらなければならないことが多いんだ。今日は祭典があって僕の用はないからこうして家に戻ってきたけど・・・」
「いつもアレクサンドロス王子と一緒にいるのに重要な祭典には出させてもらえないのか」
「僕の家は大貴族や将軍の家柄ではないし・・・あ、こういうこと言ってはいけないよね」
「家の中では何言ってもいいさ。宮殿内ではお前と顔をあわせることが会っても、落ち着いて話すこともできない。今日はゆっくりしていきなさい」
「でも、アレキサンダーが戻って来た時、僕がいないと・・・」
「アレクサンドロス王子はそんなにお前を好いているのか・・・・だがな、ヘファイスティオン、お前について気になる噂を聞いてしまった。フィリッポス王がお前にまで手を出し、レオニダスには酷い扱いを受けていると・・・もし、お前が宮殿であまりにも辛い思いをしているのなら、思い切ってこの国を出て行くことも考えているのだが・・・」
「フィリッポス王が僕に・・・それは嘘です。誤解です。フィリッポス王に呼び出されていろいろなことを聞かれているだけです。レオニダス先生のすることだって・・・スパルタの子供はもっと厳しい訓練を受けて強い兵士になると聞いています」
「お前は体も弱く兵士には向いていない。私と同じように書記官の仕事をすればよいだろう。お前ほどの才能があればマケドニアを出てどんな国でも仕事を見つけることができる。たった一人の子であるお前が兵士となり、もしものことがあれば・・・」
「いいえ、僕は兵士となります。そしていつもアレクサンドロス王子のそばに控え、全力で命を守ります。手紙を早く読み、外国の書物を読めるだけでは命を守ることはできません。僕はアレクサンドロス王子が大好きです。だからいつも側にいて守りたい・・・」
私の目から涙がこぼれていた。泣きじゃくりながら言葉を続けた。
「僕はアレキサンダーにふさわしい家柄ではなく、身分もなく・・・・いつも嘘をついて一緒に暮らして・・・でもアレキサンダーが大好きなんだ。ずっとそばにいて・・・いつか本当のこと知られてしまったら、ただ命を守るためだけでいい。そばにいたいんだ。そのためには強くならなくては・・・・誰よりも強い男になってアレキサンダーを守らなくては・・・・大丈夫だから心配しないで・・・・」
私が何を言いたいか父にもわかったのだろう。父は私を抱きしめてこう言った。
「もうよい、何も言うな、お前の気持ちはよくわかった。だがな、ヘファイスティオン、この先お前の気持ちがむくわれなくなる日がいつかくるかもしれない。そんな時は必ず私のもとに戻ってくるのだ。よいな。家族でこの国を出よう。お前ならどこの国でも生きていける。お前がアレクサンドロス王子を思う気持ちと同じくらい、私とお前の母親もお前を思っている。それだけは忘れるな」
父に抱かれながら私はむしろアレキサンダーよりも幸せなのかもしれない、という考えが頭をよぎった。王子に対してなんて傲慢な考えだろうと感じながらも・・・・
−つづくー
後書き
身分は低くても両親の愛情を受けて育ったヘファの方が幸せかもしれません。フィリッポス王やオリンピュアス王妃も息子に対する愛情はあるのだが、それがひどく歪んだ形のものになってしまっているので・・・
2006、2、20
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