約束の場所(8)

ミエザの宿舎で生活するようになると、アレキサンダーやカッサンドロス、フィロタスなどには毎週のようにたくさんの荷物が届けられた。荷物だけでなくアレキサンダーには母オリンピュアス王妃からの手紙もたくさん届けられたが、そのほとんどはきちんと読まれず、開けられていない荷物と一緒にそのままにされることが多かった。私達には毎日覚えなければならない課題がたくさんあり、急用でない手紙などはついつい後回しにされてしまうのだった。手紙だけでなく、フィリッポス王は自らも度々このミエザを訪れ、レスリングなどの教練を見ていった。もちろんどの教練でもアレキサンダーの強さはずば抜けていて、フィリッポス王は満足げな様子で見学していた。しばらくの間はそのような形で、穏やかな日が続いたが、ある日怖れていたことが起きた。ミエザを訪れたフィリッポス王に呼び出されたのだ。

「フィリッポス王、どこまでいかれるのですか」
「もう少し離れた場所まで行かなくては・・・お前とて、アレキサンダーや他の者に知られたくはないだろう」
「は、はい」

この言葉で、なんのために呼び出されたのかわかってしまったが、逆らうわけにはいかない。私は数人の護衛の兵士を連れただけのフィリッポス王の後ろを歩き続けた。やがて私達は古い神殿の前に立った。ミエザも元は神殿だった場所を修理して使っているのだが、そこはまったく手入れもされていなく、荒れ放題になっていた。護衛の兵士は外で待ち、私とフィリッポス王だけが神殿の中に入った。

「つい最近、小姓の一人が杯に毒を盛った。すぐに気づいて吐き出したが、まだ吐き気が続いている。14,5の小姓に殺されかけるとは・・・あれほど目をかけてかわいがり、一族の者も取り立ててやったのに・・・すぐに拷問にかけ、一族の者全てを見せしめに処刑した」
「そんなことがあったのですか」
「手紙に書いてあったはずだ。読んでないのか!」
「アレキサンダーは手紙の量が多すぎて読みきれないとぼやいていました」
「息子のことはどうでもよい!お前にはオリンピュアスから届けられる手紙はすべて目を通し、内容を報告しろと言っておいたではないか!」
「しかし、まだアレキサンダーが読んでもいない手紙を私が開くことは・・・・」
「お前の主君は誰だ!この俺に忠誠を誓ったのではないか!」

フィリッポス王は激しく怒り出した。私はあわてて跪き、泣きながら許しを求めた。

「お許しください。私の配慮が足りませんでした。すぐにもどってすべての手紙を読み、ご報告します」
「もうよい、目を離せば小姓などすぐに裏切る。ちょうどここは神殿跡、これ以上の裏切りをなくすためには神に生贄を捧げなくては・・・早く来い、お前達中に入れ!」

王の声に答えて外にいた数人の兵士が神殿の中に入ってきた。

「フィリッポス王、いかがいたしましたか」
「この者が謀反を起こした。ただちに処刑を行うから服を脱がせて押さえていろ!」
「お待ちください。彼はアレクサンドロス王子のご学友では・・・」
「何があったのかわかりませんが、ここですぐ処刑ということではなく、まずペラに戻られて裁判を・・・」
「その必用はない、いますぐここでだ!神に捧げる生贄が必用だ。まだ歳若く賢く美しい少年。神はさぞお喜びになるだろう」
「お許しください」
「お待ちください、彼を生贄になど、どうかお静まりを・・・」
「早く用意をしろ、言うとおりにしないならば、お前たちも同罪、全員ここで処刑する!」

フィリッポス王の一言で、誰もが口をつぐんだ。私はたちまち服を脱がされ、兵士達の力強い手で押さえつけられた。

「うつ伏せにして、足を広させ、動かないように押さえていろ。体に槍を突き通し、串刺しにして神に捧げる。その槍をかせ」
「お願いです、やめてください!たすけて・・アレキサンダーが・・・たすけて・・・・たすけて・・・」
「どれだけ泣き叫び、わめき声を上げてもここには誰も来ない。大人しくして覚悟しろ」
「アレキサンダー・・・アレキサンダー・・・」

私はわけがわからなくなり、泣き叫び続けた。体の一番敏感な場所に槍の穂先が当たるのを感じた。

「ギャー!・・・・アアー・・・・うわー!・・・・」

鋭い痛みで気が狂ったように叫び続けた。それはもう人間の声ではない。生贄にされて殺される獣と全く同じ声で絶叫した。あまりの痛さに叫び声を上げ続け、やがて息絶えた・・・・というように感じた。





「ヘファイスティオン、ヘファイスティオン・・・・」

声が聞こえ、意識を取り戻した。体を強く揺さぶられ、下半身には鋭い痛みが走る。私はまだ生きていた。生きていた・・・だが槍で貫かれるのと同じ格好でいままた犯されている。

「少し、驚かせ過ぎたか。あんなに泣いて、怖かったか」
「たすけて、たすけてください」
「だがどうだ、恐怖と苦痛の後には素晴らしい快楽が待っているだろう。お前の体は血で満たされ、痙攣をおこして激しく震え、普段とは全く違う・・・・お前も感じているだろう・・・・ヘファイスティオン、愛している・・・・こんど王に逆らったらまた同じ罰を与えよう・・・この次はもっと長い時間槍で体内を突付かれ・・・・くくく・・・ハハハハ・・・やっぱりお前は最高だ。逆らってもがけばもがくほど最高の喜びを与えてくれる・・・苦しいか・・・まだ血が流れているから苦しいだろうよ・・・・もがき苦しむ顔のなんて魅力的なことか・・・・王妃や他の小姓など問題ではない・・・・・」
「おねがいです・・・もうこれ以上・・・・」

搾り出すような声で懇願しても王の耳には届かなかった。再び激しく刺し貫かれ、叫び声を上げて意識を失った。





「王は槍の穂先を折っていた。最初から殺す気ではなかったらしい」
「しかし、こんな子供に酷いことを・・・・かわいそうに・・・」
「小姓に裏切られたことがよほど・・・」
「だからと言って彼にはまったく関係ないだろう」
「静かに、誰かが聞いているかもしれない。下手をすれば俺達も酷い目にあう」
「王は気が狂っている。普通の神経でこんなことするか」
「フィリッポス王は人が変わられた。あの目に矢が刺さって以来・・・・」

話し声が聞こえ、目を開いた。

「大丈夫か」
「殺す気ではなかったようだ。槍の穂先は折られていたし・・・」

私はぼんやりと血で染まった槍を見た。確かに先は尖ってはいない。だがこんなものを体の中に入れられ死ぬほどの恐怖と苦痛、そして屈辱を味わった。まだ体はガタガタ震え、目から涙が流れていた。何かしゃべろうとしても叫び声を上げ続けた喉は痛く、うまく言葉にならない。

「フィリッポス・・・・おう・・・は」
「もうペラに戻られた。お前の手当てをするよう俺達に命じて・・・・」
「ぼくを・・・ころそうと・・・・」
「いや、殺すつもりではなかったはずだ・・・・」
「こわい・・・アレキ・・・・たすけて・・・・」

私の考えも言葉もごちゃ混ぜになっていた。いろいろな感情が押し寄せて何をどうしたらいいのか、まったくわからなくなっていた。

「おい、ちょっとおかしくなっているぞ」
「無理もないさ、殺されかけたんだから。恐怖でおかしくなってもしょうがない」
「何も言わないで、落ち着くまで少し休め。喉はかわいてないか」
「アレキ・・・アレキサンダー・・・・・」
「アレクサンドロス王子のことか」
「誰にも・・・・なにも言わないで・・・・僕はミエザに戻って・・・・いいのかな」
「いいんだろうけど、歩けるのか」
「早くミエザに戻らなければ・・・・もどらないと・・・・もうみんな今日の教練を終わらしてもどってくる・・・・」

私は立ち上がろうとした。激しい痛みに襲われ、2,3歩歩いただけでその場にしゃがみこんでしまう。

「無理するな。しばらく休んで・・・」
「はやくもどらないと・・・はやく・・・」
「しょうがないなあ、途中まで負ぶってやるからミエザに近づいたら自分の足で歩け」
「ありがとうございます」

夕暮れの中、一人の兵士に背負われてミエザに戻っていった。

「一人で大丈夫か、重いなら途中で変わる」
「少しも重くない。まだ楽に背負えるほどの子供だというのにこんな目にあって・・・」
「フィリッポス王はどうかしている。今の王の時代は長くは続かないだろう」
「おい、余計なこと言うと命が危ないぞ」

兵士達の言葉をぼんやりと聞いていた。フィリッポス王が私に見せて怖ろしい狂気、それはまた繰り返されるかもしれない。けれどもここから逃げ出すこともできない。アレキサンダーと約束したのだから・・・・



                                                  −つづくー



後書き
  フィリッポス王、かなり酷いことしています。こんなことされたらきっと一生トラウマとなって残るだろうと思うようなことを・・酷い王です。
 2006、2、27


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