ずっと貴方を・・・(ボロミア40歳、ファラミア35歳)


 今度の敵は今までのオークとはまるで違っていた。空から襲いかかるナズクルに対しては厳しい訓練を経て選ばれた数百人の兵士も全く戦う術がなかった。襲われて逃げ惑うところをオークに殺され、指揮を執ることも不可能になっていた。川を泳いで渡って逃げ、対岸にたどり着いた時、数百人いた味方はたったの4人になっていた。自分と弟のファラミアと他の兵士2人・・・たった4人・・・何かを考える気力も残っていない。

 数百人いた兵士の中、生き残ったのはたったの4人、父の期待に反して自分はその4人の中に入ってしまった。どんな死に方が一番楽だろうかといつも考えていた。オークに剣で切り刻まれるか、ナズクルに空から突き落とされるか、それとも川で溺れて死ぬか、どれも恐ろしかった。死をいつも身近に感じていながら、それでも恐ろしさに体が震えている。
 自分は15の時ミナス・テリスから遠く離れたイシリアンに行かされた。その時はなぜ自分がそんな場所に行くのかまるでわからなかったが、今ならば父の考えが手に取るようにわかる。ミナス・テリスにいたら、執政の次男である自分を利用して、謀反を企む者が出るかもしれない。正規の軍隊も危ない。その隊が強くなるほど反乱が起きた時の危険も大きい。それで選ばれたのがイシリアンだった。モルドールのすぐ近くに位置するイシリアンはかっては豊かな土地でたくさんの村もあったが、今では住む人もなく、野伏達が守るだけの場所になっていた。そこならばたとえ謀反を起こされても兵力はたかが知れている。そんな気持ちだったのだろう。

 かってはゴンドールの首都として栄えたオスギリアスの街も今は破壊され廃墟となっていた。どこを見ても崩れた建物ばかり・・・そしてファラミアは歩くのさえ困難なほど疲れ果てていた。俺は残った2人をミナス・テリスに行かせ、休めそうな場所を探して火を起こした。いつのまにか夜になり、あたりは真っ暗になっていた。

 ふらふらになりながら、廃墟と化した街を歩いた。3ヶ月前突然父に守備兵と一緒にオスギリアスを守るように命令された。いままで一緒にいたイシリアンの野伏と行動を共にすることは許されず、たった一人で、500人もの守備兵の指揮を執らなければならなくなった。それまでは100人ほどの野伏の指揮を執っていただけだった。イシリアンとオスギリアスでは兵士の数も戦い方もまるで違っていた。なんのためにわざわざ自分が・・・ここが一番危険な場所だからに違いない。事実毎日続くオークとの戦いで、半数以上の者が命を落とした。3日前兄のボロミアが200人ほどの兵士を連れて応援に駆けつけてくれたが、それがかえってあだとなった。ナズクルの攻撃で、ほぼ全滅生き残ったのはたったの4人という最悪の事態を招いてしまった。なぜ生き残ってしまったのだろう。父は自分がここで死ぬことを期待していたかもしれないのに・・・

 濡れた服を火で乾かし、ファラミアと2人で座り込んだ。弟と2人きりになれたのは何年ぶりだろうか。子供の頃俺にまとわりついて離れなかった弟は15の時にイシリアンに行かされた。俺は何度か訪ねて行ったが、弟が20歳になり、野伏の大将として活躍し始めてからは、イシリアンへ行くことは固く禁じられていた。年に数回ミナス・テリスで会うときすら、必ず誰かに監視されていた。執政の跡継ぎは長男の俺だけであり、実の息子であっても弟は謀反を起こすかもしれない危険人物、父の考えは徹底していた。

 兄ボロミアと2人だけで、焚き火にあたっている。長い間胸に秘めていた思いを伝えるのは今しかない。決して許されない思い、でも今言わなければ伝えられないまま死を迎える。明日ミナス・テリスに戻っても父はまたすぐに自分を危険な場所に行かせるだろう。兄とは別の場所へ・・・今しかない・・今言わなければ・・・

「兄上、お願いがあります」
「どうした、急に改まって・・・」
「私は長い間ずっと貴方のことを愛していました。一度だけでいいです。私を抱いてください」
「お前、今、何を言った!俺達は男同士で兄弟だ。自分の言っていることがわかっているのか!」
「わかっています。私はイシリアンでずっと男同士で愛し合い、抱かれてきました。兄弟で・・・いけないことはわかっています。でも私は兄上にずっと憧れ、愛し続けていました。子供のころからずっと・・・私はまたすぐに戦場に行かされ、今度こそ命を落とします。死ぬ前に本当に愛した人に抱かれて、その温もりを感じたまま死にたい・・・そう思うことはそんなに悪いことなのですか」
「まだ死ぬと決まったわけではないだろう」
「兄上には私の気持ちはわかりません!いつも疑われて危険な場所に行かされ、死に怯える毎日・・跡継ぎとして大切にされている兄上にはわかりません!父上が私に望んでいることは兄上の役に立って死ぬことです」
「いい加減にしろ!父上がいつそんなことをお前に言った。それはお前の勝手な思い込みだ。それに俺はお前を抱きたいなどと思ったことはない。弟として大切に思っているだけだ。大体お前は男同士の関係で愛だのなんだの余計なことばかりかんがえている。そんなことはただ欲望を解消しているだけだろう。俺は今まで数え切れないほどの男を抱いているが、愛していると思ったことは一度もない!」

 長い沈黙が続いた。

「イシリアンでお前の相手は1人だけか、ずっと続いているのか?」
「そうです。私は兄上のようには考えられません」
「よくしてくれるか」
「ええ、まあ」
「そうだろうな、その男は俺が昔さんざん脅してやったから・・・」
「何を言ったのですか?」
「弟を傷つけたり悲しませたりしたら殺してやると・・・」
「兄上!」
「そんなこと決してないだろう・・・イシリアンに初めて行った時は驚いた。いつも何かに怯えてうつむいてたお前が、生き生きとして自信にあふれていた。まわりのやつやその男がよっぽどよかったからだろう。そんなふうに愛されていながらなぜお前は俺を追いかけようとする。俺達はもう子供ではない。自分の立場とかいろいろあるのだ。いい加減わかってくれ」
「わかっています、わかっているけどでも・・・」
「お前は疲れているのだろう。俺が見張っていてやるから少し寝ていろ。ろくに寝てもいないから余計なことばかり考える」
「わかりました・・・」

 ファラミアはすぐに寝てしまった。余程疲れていたのだろう。寝ている弟の髪をそっとなでた。

「ファラミア、知らなかったよ。お前がそこまで追い詰められていたなんて・・・父上がお前をどう扱っているかしっていたけど、まさかそこまで考えていたなんて・・・俺は結局お前のために何もしてやることができない・・・愛しているよ、本当は俺のほうがずっとお前を抱きたいと思っていた。でもそれを言ってどうする。俺はお前のために何もできない。イシリアンに行った時あいつにさんざんいろいろなことを言った。弟は寂しがりやで臆病で不器用で、すぐに思いつめるし、信じられないくらい一途で真っ直ぐで、俺とは全然違うから絶対に傷つけるな・・・本当は俺がいつもそばにいて抱きしめて守ってやりたかった。でもそれができないから・・・」

 寝ているファラミアにそっと口づけをする。最初は軽く、それから思い切って強く口づけし、舌を入れた。寝ているファラミアも舌をからませてくる。

「最初で最後の口づけだ。これくらいいいよな。愛している、誰よりも愛している・・・」

 俺とファラミアは暗闇の中2人だけで立っていた。大洪水に襲われ、水の中でもがいていたが少しも怖さは感じなかった。西の空から光が差し声が聞こえた「滅びの日は近い。北の谷へ向かい、折れた剣と小さき人の持つものを求めよ」

「兄上、今夢を見ました。洪水の中声が聞こえ北の谷へ行くようにと」
「俺も同じ夢を見た。これはよい知らせだよ。北の谷にきっと俺達を勝利に導くすばらしい武器があるに違いない」
「そうですね。同じ夢を見るなんて初めてですね」
「俺は父上に話してすぐに北の谷へ向かう。お前はイシリアンに戻っていろ」
「でも父上がなんて言うか」
「俺がうまく話しておく。オスギリアスは別の隊に守らせる。俺にだってそれくらいの権限はある。お前はイシリアンで少しでも敵の数を少なくしてくれ。お前はそこにいるのが一番いい」
「わかりました。兄上、私はもうひとつとてもよい夢を見ました」
「どんな夢だ」
「兄上が愛していると言って口づけしてくれました」
「俺はそんなことはしていない。それは夢だ、夢に決まっている」
「最初から夢だと言っています」

 ミナス・テリスに行っていた者が馬を連れて戻って来た。ファラミアを抱きしめ、別れを告げる。お互い皮の鎧を身につけていたが、その体の温かさも胸の鼓動も伝わってきた。ファラミアは聞こえないほどの小さな声でつぶやいた。

「ずっと貴方を愛していました・・・」

 俺は何も言わず、抱きしめている手に力を入れた。


                             −おわりー


後書き
 Jeroen様からのリクエスト「ずっと貴方を・・・」というタイトルで書いてみました。ずっとという言葉が入っているのでお互いに思いながらも結ばれない、でも心はつながっているという感じにしたかったのですが・・・気に入っていただければうれしいです。


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