第5話『ゴメンねぇ、強くてっ!』
 
 
 
 
「―――『暗黒界の尖兵ベージ』でダイレクトアタックっ! これでお前のライフはゼロだ」
 ベージの手にする槍の穂先が相手プレイヤーの身体に突き刺さり、その残りライフを容赦なく奪い去り―――
「俺の勝ちだ」
 シンの勝利が確定した。
「そ・・・・・・そんな・・・・・・」
 初戦。その敗北。それはつまり―――
「補習・・・・・・補習は嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 1週間の長きに渡る補習を確約された対戦相手がその場から逃げ出そうとしたところで、背後から投げつけられた何かに足を絡め取られ、その場に転がる。
「ルール違反はいけないよ、キミ」
「―――ミ、ミリアリア先輩!?」
 右手の中のダーツをイイ笑顔で弄びながら現れた栗色の髪の女生徒にシンは目を丸くした。
「シン君、おっす。いいデュエルっぷりだったねー。―――と、はい。スター・カード」
 裾をダーツで地面に縫い付けられてなお、じたばたする生徒をミリアリアは手早く拘束し、カードを奪うと、それをシンに差し出した。
「どもです。―――ってか、なにやってるんですか?」
「なにって? 運営委員? 通称『歌姫の騎士団』」
「・・・・・・はい?」
 ナニヲイッテイルンダロウコノヒトハ?
 唖然とするシンに、ミリアリアは「しょうがないなー」と言いながら事情を説明しはじめた。
「ほら。この大会って、スター・カードなくしたら補習確定じゃない。けど、みんな補習は嫌だから逃げ出そうとする。そんな人たちを捕まえて補習部屋に連行するのがあたしたちの仕事なの。―――って、ラクスさんに言われて急遽組織されたんだけどね」
「・・・・・・あの人は」
 ミリアリアの話を聞いていて、シンは頭痛を覚えた。そもそも運営委員長はアルトじゃなかったのかよ。というかなんでミリアリア先輩がそんなコトしてるんだよ。裏取引だよな、コレ。会長といいラクス先輩といい、いつもいつでも好き勝手しやがって、アンタってひとはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 そんな言葉が口から出かけたが、シンはぐっと耐えてガマンの子。そんなことをいくら叫んだところで無駄なのは分かりきっていたし、口に出したら絶対に『ゴメンナサイ』と言うまで小突き回されるに決まっている。
 なので。
「そっすか。じゃあ、オシゴト頑張ってください」
 三十六計逃げるにしかず。シンはとっとと次の相手を探すことにした。
「ん。シン君もね。負けたら狩りに行くから大人しくしてるんだよ」
 朗らかに怖いことを言うミリアリアの顔を極力見ないように、シンはこの場を後にした。
 

「―――とは言ったものの、相手がなかなか見つからないんだよな」
 1階の廊下をぶらつきながら、シンはボヤく。
 何故か自分たち生徒会メンバーは凄腕揃いだという前情報が流れていたらしく、ほとんどの生徒がシンの姿を見た途端、その場をいそいそと立ち去っていく。声をかけても完全に無視される始末だ。
「まったく。会長が余計なこと言うから」
 カードを失ったら補習というのは本当に効果覿面だった。例えばレイやルナマリア、ヴィーノといった身内と対戦しようにも、どうしても躊躇いが生まれる。
「ルナなんか補習送りにしたら殺されるよな、絶対」
 そもそもレイとは決勝トーメントで会おうなんて少年漫画のような約束をしているので闘えない。
「ったく。こーなったら狂犬だとか鬼畜だとか言われる覚悟で無理矢理申し込むか」
 また人気下がるな・・・・・・と呟いたところで、中庭に出る渡り廊下に突き当たった。
「とりあえず、外に出るか」
 その角を曲がったところで、シンはそのデュエルに出くわした。
 

「『海竜−ダイダロス』の効果発動! 『海』を生贄に捧げ、このカード以外のカードを破壊するっ!」
 辺り一面を覆っていた水をダイダロスが吸い上げ、そのまま吐き出した。激流が場の全てのモンスターやカードを洗い流す。水が引いた後にはただ、ダイダロスだけが悠然と佇んでいた。
「―――くそっ!」
 張り巡らせた策全てを文字通り水に流されて、ヨウラン・ケントは対戦相手の少年―――アウル・ニーダを睨みつける。
「そんな顔したってムダだぜ。ダイダロスで攻撃。お前のライフは―――ゼロっ!」
 ダイダロスがそのしなやかな蛇身をしならせる。そこから生まれた猛烈な尾による一撃がヨウランの身体を弾き飛ばした。
「あはははははっ! ゴメンねぇ、強くてっ! それにしてもシンのツレだっていうには弱すぎじゃねぇの?」
「―――っちくしょう」
 よほどの威力(心理的な)だったのか、ヨウランはうずくまったまま立ち上がれない。
「じゃ、とっととカード出して、補習を受けてきてよね」
 倒れ臥すヨウランにアウルが近づいた時―――
 
「俺の仲間に手を触れるなっ!」
 
 聞き知った声に、アウルは足を止めた。
「おっ。シンじゃん。何? お前もボクにやられに来た?」
「大丈夫か、ヨウラン!」
 アウルの脇をすり抜け、シンはヨウランを助け起こした。
「はは。情けないな。初戦で負けちまうなんて。やっぱお前のアドバイス聞いときゃよかった」
「もういい。もう喋るな、ヨウラン! お前の仇は俺が取ってやるっ!」
「―――シン・・・・・・」
「だからっ! ―――だから、とっととアウルにカード渡して補習受けて来い」
 それまでの熱いテンションから一転、けろりと事実を突きつけるシンだった。
「うわ。ひっでー。なにこの生徒会会計サマ」
「なんだよ。つーか、立体映像なんだからダメージなんてないだろ。ほら、とっとと立って行けよ」
「はいはい。にしてもお前、随分タイミング良かったな」
「まあ、見てたし」
「うわ。外道。マユちゃんに言ってやる」
「どっちが外道だよ、ヨウカン」
「ヨウカン言うなっ! ―――ったく。仕方ない。 ・・・・・・シン。後は・・・・・・頼ん・・・・・・だ・・・・・・がく」
 最後の力を振り絞ってヨウランはそう言い残すと、静かに瞼を下ろした。
「ヨウランっ!? おいっ、ヨウランっ!! ウソだろっ!? こんな・・・・・・こんなことって・・・・・・うわああああああああああああああああああっ!!!」
 もはや物言わぬ屍となったヨウランを抱き、シンは絶叫した。
「なあ、ボクはどーしたらいい?」
 突然目の前で始まった暑苦しい三文芝居にどう対処したらいいか分からず立ち尽くすアウル。
 そんなアウルをシンはキッと睨み上げ―――
「よくもヨウランをこんな目に・・・・・・。アウルっ! お前だけは許さないっ! お前は俺が倒すっ! 今日っ!! ここでっ!!」
 困り顔のアウルに右腕を突きつけ、シンは高らかに宣言する。
「あ。そーいうコトか。ならボクも―――は。弱っちいそいつが悪いんだよ、バーカ。ま、お前もすぐに倒してやるよ」
 ニヤリと、そこはかとなく邪悪な笑みを浮かべるアウル。
 
「「―――決闘っ!!」」
 
 2人は声を揃えて、戦いの始まりを告げた。
 その脇では、ヨウランが制服についた砂をはたき落とし、「あー、補習か。やってらんねぇ」とぼやきながら、とぼとぼとその場を立ち去っていった。
 

「ボクの先攻っ! ドローっ! ボクは手札から『アトランティスの戦士』を捨てて、効果発動! フィールド魔法『伝説の都アトランティス』を手札に加え、発動!」
 アウルはデュエルディスクのブレード部分先端のフィールドゾーンに効果で手札に加えた『アトランティス』をセットすると、たちまち2人の周りに海底に沈んだ古代都市が現れた。
「アトランティス・・・・・・。水デッキかっ!」
「水の中ならおーまかせってね。さらにボクは『ギガ・ガガギゴ』を攻撃表示で召喚!」
 アウルの目の前に水柱が立ち上ったと思えば、その中から白銀の鎧をまとった爬虫類の戦士が現れた。
 ギガ・ガガギゴ。レベル5、攻撃力2450の水属性モンスターだ。
「アトランティスが場にある限り、手札と場の水属性モンスターのレベルは1つ下がる。さらに攻撃力、守備力は200アップする。そしてボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド」
 シンは内心舌打ちする。わずか1ターン目にして、アウルは場を整えた。水デッキはアトランティスを配置することによってその本領を発揮する。
 その効果による攻撃力の底上げと、高レベルモンスターの召喚補助。厳しい戦いを強いられるだろうという予想はあるが―――それでも、少しわくわくする。
「俺のターン! ドロー!」
 相手の策を真っ向から打ち破る。それがデュエルの醍醐味だから。
「俺は手札から魔法カード『暗黒界の取引』を発動! 互いのプレイヤーはカードを1枚ドローし、1枚捨てる!」
 シンとアウルはそれぞれカードを引いて、1枚捨てる。
「俺が手札から捨てたのは、『暗黒界の刺客カーキ』! このカードが他のカードの効果によって手札から捨てられた時、場のモンスター1体を破壊する! 対象はギガ・ガガギゴっ!」
 シンの墓地から伸びたカーキ色の腕が、ギガ・ガガギゴの胸部を貫き、そのまま墓地に引きずり込む。
「―――ちぃっ! やってくれるじゃねーかっ!」
「さらに俺は、『暗黒界の狂王ブロン』を召喚! バトルフェイズ! ブロンでダイレクトアタック!」
 シンの場に現れたブロンが、その長い両の腕でアウルを打ち据える。ダメージは1800。
「―――さらに、ブロンの効果発動! 相手ライフにダメージを与えた時、手札を1枚捨てることができる! 俺はこの効果で、手札の『暗黒界の武神ゴルド』を捨てる! そして効果発動! 手札から捨てられた時、特殊召喚できるっ!」
 シンがゴルドのカードを墓地に置くとともに、墓地から金色の光が立ち上り、そこから巨大な斧を構えたゴルドが現れる。
 攻撃力2300を誇るゴルドの登場に、アウルは焦るどころか―――
「かかったなっ! リバース罠発動! 『激流葬』っ!!」
「―――なっ!?」
 突如現れた大波に、シンの場のモンスターが飲み込まれ、そのまま海中へと沈められた。
 激流葬。モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚に反応し、場の全てのモンスターを破壊する罠だ。これによってシンの場はがら空きとなってしまった。
「―――ブロンの効果発動まで待ってたのかよ」
「まぁね。お前が暗黒界な以上、絶対に追撃があると踏んでいたのさ」
 いいプレイングだ。今度こそ本当にシンは舌打ちした。このターンだけで自分は都合3枚のモンスターを失った。この巻き返しは正直つらいだろう。
「俺はカードを1枚伏せて、ターン終了」
 アウルのターン。彼はカードを1枚引き―――
「ボクは『アビス・ソルジャー』を召喚!」
 攻撃力1800のサメの半漁人風のモンスターを召喚する。
「アビス・ソルジャーの効果発動。手札の水属性モンスター1枚を墓地に送り、場のカード1枚を持ち主の手札に戻す。その伏せカードを戻せよ」
「―――甘いっ! 俺はそれにチェーンして、リバースカード発動! 『暗黒界に続く結界通路』!!」
 対象を失ったことで、アビス・ソルジャーの効果は無効となり、代わりにシンのカードが発動する。
「結界通路の効果によって、俺の墓地の『暗黒界』と名のつくモンスター1体を特殊召喚する! 蘇れ、ゴルド!」
 再びシンの墓地から、金色の武神が現れる。
「―――やるじゃねーか。ボクはカードを1枚伏せて、ターンエンド」
 両者一歩も譲らない息詰まる攻防だった。アウルが策を弄せば、シンがそれを打ち破り、アウルはさらに次の手を用意するも、シンがその上を行く―――。
 僅か2ターンの攻防だというのに、息もつけない展開だ。
「俺のターン! ドロー! 俺はこのままゴルドでアビス・ソルジャーに攻撃!」
「罠発動! 『竜巻海流壁(トルネード・ウォール)』!!」
 アビス・ソルジャーを両断したゴルドの切っ先がアウルに届く寸前、巻き上げられた海流が、アウルを守る壁のように立ちふさがった。
「このカードは『海』が場にある時発動可能。このカードがある限り、ボクへの戦闘ダメージは届かない」
 ちなみに『伝説の都アトランティス』は『海』としても扱われる。
「―――っ! 俺はカードを伏せて、エンドだ」
 現在のレギュレーションでは、相手の魔法・罠カードを破壊するカードの数はかなり絞られている。それゆえにこのカードの攻略は厄介だった。
「ボクのターン。『アメーバ』を召喚!」
 アウルが召喚したのは、僅か攻撃力300の弱小モンスターだった。その外見も青い不定形のスライム状と貧相この上ないが―――シンはこの後に来るコンボに息を呑んだ。
「アメーバだってっ!?」
「そのカオ、これからなにが起こるか分かってるみたいだな。流石。ボクは魔法カード『強制転移』を発動!」
 強制転移。それはその名前の通り、自分と相手の場のモンスターを入れ替える魔法だ。これによって、アウルの場のアメーバはシンの場に、シンの場のゴルドはアウルの場に移る。
 そしてこの時、アメーバの効果が発動する。
「アメーバのコントロールが相手に移った時も相手に2000のダメージを与える!」
 シンの場に流れ着いたアメーバが、シンに纏わりつき、その酸性の粘液がダメージを与える。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
 苦悶に歪むシンの顔をサディスティックな目で眺めながら、アウルはさらに追撃を下す。
「ゴルド、ご主人様をいたぶってやれ」
 バトルフェイズ。ゴルドの攻撃がアメーバを叩き潰す。攻撃表示のため、その超過ダメージ1800がシンを襲う。
 このターンだけで、シンは3800のダメージとモンスターを奪われた。
 いわば絶対絶命の危機だ。
「・・・・・・俺のターン・・・・・・ドローっ!」
 かといって諦めるわけにもいかない。
「は。いい加減諦めて、お前も補習受けろよ」
「・・・・・・デュエルは何が起こるか分からないんだぞ。俺は最後まで諦めない。魔法カード『地砕き』発動!」
 地砕き。相手の場の一番守備力の高いモンスターを破壊する魔法だ。ゴルドの足元が砕け、穿たれた穴に消える。
「俺はモンスターを裏側守備表示で場に伏せ、ターンエンド」
「諦めないねぇ。・・・・・・見苦しいってんじゃね。そーいうのっ!」
 アウルのターン。ドロー。
「『マーメイド・ナイト』を召喚! 守備モンスターに攻撃!」
 アウルの召喚した、優美な人魚の剣が、シンの守備モンスターを切り裂く。
「『暗黒界の斥候スカー』の効果が発動。戦闘で破壊された時、デッキから『暗黒界』と名のつく、レベル4以下のモンスターを手札に加える。来い、『暗黒界の策士グリン』!」
 グリン。手札から他のカードによって捨てられることで、魔法・罠カードを破壊する能力を持つカードだ。
「へぇ。粘るじゃんか。けど、マーメイド・ナイトの効果は知ってるよな」
「海がある時、2回攻撃だよな」
「そーいうコト! もう一発、喰らっとけっ!」
 マーメイド・ナイトの直接攻撃。さらにシンのライフが1700削られる。残りライフは2500だ。対してアウルは6200。
「で、ターンエンド」
「その前に、俺は場の伏せカードを使わせてもらうっ! 『暗黒よりの軍勢』。俺はこの効果で、ゴルドとカーキを手札に戻す」
 これで1枚だったシンの手札が一気に4枚まで回復した。
「俺のターン、ドロー!」
 そして、引いたカードを確認したシンはニヤリと笑う。
「―――引いたぞ。逆転のカード! 『手札抹殺』を発動!」
「なんだってっ!?」
 その効果により、互いのプレイヤーは手札を全て捨て、捨てた枚数分のカードを引く。
「俺が捨てるのは『ゴルド』『カーキ』『グリン』そして、『暗黒界の狩人ブラウ』!」
 シンの墓地から、金、カーキ、緑、茶の光が立ち上る。
「ゴルドの効果発動! 特殊召喚!」
 金色の光からはゴルドが現れ、
「カーキの効果発動! マーメイド・ナイトを破壊!」
 カーキ色の光は、マーメイド・ナイトを貫き、
「グリンの効果発動! 砕けろ、アトランティス!」
 緑の光がアトランティスを破壊し、その余波を受けて『竜巻海流壁』が砕け散る。
「そして、ブラウの効果で1枚ドロー!」
 茶の光が、シンに更なる手札をもたらした。
「―――くそっ!」
「ゴルド、ダイレクトアタックだっ!」
 ゴルドの振り下ろした戦斧がアウルを打ち据える。2300のダメージ。これでアウルのライフは3900となった。
 たった1枚のカードによる形勢逆転。これがこのゲームの醍醐味であり、恐ろしい所だった。
「お前の場はがら空きだ。次のターンで終わらせてやる!」
「やるじゃん。けど、手札交換で得したのはお前だけじゃないぜ」
 アウルはカードをドローし、
「スタンバイフェイズ! 『黄泉ガエル』の効果発動! 自分の場に魔法・罠カードがない時、特殊召喚できるのさ!」
 アウルの場に、天使の羽根と輪っかのついた黄色いカエルが召喚される。
「黄泉ガエル!? 手札抹殺の効果で!?」
「残念。アビス・ソルジャーの効果を使った時だよ。ま、どーでもいいけどね。ボクは『アトランティス』を発動!」
「―――2枚目!?」
 再び、場に海底都市が現れる。
「でもって、終わりだっ! 黄泉カエルを生贄に、ダイダロスを召喚っ!」
 アトランティスの効果によってレベル6となったダイダロスが召喚される。ダイダロス。ヨウランを倒したモンスター。その効果は―――
「場の海を生贄にして、このカード以外のカードを全て破壊する! シン、お前のライフは残り2500。ダイダロスの攻撃力は2600! あははははっ! ステラとかに言っといてやるよ、補習ガンバリますってねぇっ!」
「―――そんな事、言わせるもんかぁっ!」
「終わりなんだよっ! ダイダロス!」
 ダイダロスの効果が発動し、場の全てのカードが海の藻屑と消える。バトルフェイズ。ダイダロスが大きく身を捻って、その一撃がシンに届く瞬間―――
「俺は手札から『クリボー』捨てて、効果発動!」
 シンとダイダロスの間に、黒い毛玉のような可愛らしいモンスターが現れ、その攻撃からシンを守った。
「手札から捨てることで、一度だけ戦闘ダメージをゼロにする」
「往生際が悪いんだよっ! ターンエンド!」
 忌々しげに吐き捨て、アウルがターンを終わらせる。
「だったら引導を渡してやるっ! 俺のターン! 俺はモンスターを裏守備で場に伏せ―――『強制転移』を発動!」
「なっ!? お前もそのカードをっ!?」
 アウルの場のダイダロスとシンの場のモンスターが入れ替わる。
「行くぞ、ダイダロス! 守備モンスターに攻撃!」
 ダイダロスの攻撃が元シンのモンスターを破壊し、
「この瞬間『メタモルポッド』の効果発動! 互いのプレイヤーは手札を全て捨て、デッキから5枚ドローする!」
 そのリバース効果が発動する。
「―――メタモルポッド!? しまったっ!」
「もう遅いっ! この効果によって、俺の手札の暗黒界たちの効果が発動! しかも、メタモルはお前のモンスター扱いだっ! 暗黒界の住人たちの真価を見せてやる!」
 シンの墓地から、銀とベージュ、そして虹色の光が飛び出す。
「現れろ、ベージ、シルバ、そして『暗黒界の魔神レイン』! シルバの効果発動! 相手のカードによって手札から捨てられた時、相手の手札2枚をランダムにデッキに戻す!
 そしてレイン! 相手の効果で手札から捨てられた時、特殊召喚され、さらに相手のモンスターまたは魔法・罠カードを全て破壊するっ! といっても、お前の場にはカードないけどなっ!」
 アウルの前に立ちはだかる3体の悪魔族。その全てが主たるシンからの命令を待っていた。
「―――行け、ベージ、シルバ、レイン! ダイレクトアタック!!」
 3体の魔物。それぞれの獲物がアウルを捉え、その命を完膚なきまでに奪い取る。
「うわぁぁぁぁぁぁぁァぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 衝撃に吹き飛ばされ、地面に転がるアウルをシンは一瞥したあと、空を見上げる。
「―――仇は取ったよ、ヨウラン」
 シンは中空に、ヨウランの在りし日の笑顔を見た気がした。
 
 
【○シン・アスカ − アウル・ニーダ×(ライフ喪失)】
 
 
 

「・・・・・・って、勝手に殺すなっ!」
 それまで植木の影でデュエルの様子をひっそりと見つめていたヨウランがついに我慢しきれずに立ち上がった。
「あ。こんなトコにいた。ダメじゃない。負けたらちゃんと補習室にいかなきゃ」
 その途端、すっごい笑顔でダーツを弄ぶミリアリアに見つかった。いっそ逃げようかとも考えたが、はいムリです。浅はかなこと考えてごめんなさい。
 そのまま連行されて行きましたとさ。
 

「っあーっ! 負けた負けた!」
 デュエル終了後、アウルはごろんと大の字に寝転がった。
「途中まで上手く行ってたのによ。ったく、やってらんねー」
「いや、ただの運だって。あそこで『手札抹殺』引いてなきゃ負けてたっての」
「運も実力のウチだっての。―――ったく、ボクに勝ったんだから、負けんなよ」
 やれやれとアウルは上半身を起こし、制服のポケットからスター・カードを取り出した。
「ほら、持ってけ」
「ああ。お前も補習、頑張れよ―――ん?」
 アウルからカードを受け取ったシンは眉をひそめた。
「・・・・・・1枚? 2枚賭けじゃなかったのかよ?」
「は? なんで? 1枚だろ。つーコトでまたカモ探しに行くよ。じゃあなっ!」
 アウルは立ち上がり、そのままそそくさと立ち去っていった。
「あいつ、自分が勝ったら2枚奪う気だったよな。・・・・・・どうしてこの学園の連中はみんな自分勝手なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 やるせないシンの叫びが、中庭にこだました。