第6話『割り切れよ。・・・・・・でなきゃ補習だぞ』
 
 
 
 
 
「『D−HEROダッシュガイ』で攻撃! ライトニング・ストライク!!」
 アスランの声に応えて、漆黒の戦士が敵モンスターに向かって疾る。ダッシュガイは相手の直前で空高く跳躍すると、そのまま空中で身を捻り、長々高度から繰り出された踵落しが敵を打ち砕く。
「―――うわああああああああああああっ!!」
  破壊されたモンスターの爆風に煽られて、相手の生徒は数メートル後方へ吹き飛ばされた。
「ダッシュガイの攻撃によって、お前のライフは尽きた。―――消えろ、雑魚」
 そこはかとなく、どこぞの白いスーツの似合うプロデュエリストな台詞を吐いて颯爽と去ろうとして―――アスランは相手のスター・カードを受け取っていなかったことに気がついた。
 なんとも締まらない話である。
 

 初日もすでに半分が過ぎ―――時刻は午後2時を少しすぎた。大会の開催時間は基本的に平常授業の時間と同じなので、本日の残り時間は後2時間くらい。
「それにしても、中々集まらないものだな」
 屋上のベンチに腰掛けて、アスランは今日集まったスター・カードを眺めていた。今手元にあるカードは、最初の1枚を合わせて計5枚。今まで行ったデュエル回数が3回ということを考えれば、まあ―――順当な数である。
 初回こそなし崩し的に全賭けになるものの、2回目以降は最低1枚は手元に残るように賭けているため、この枚数は必然でもある。
 そういえば―――とアスランは思った。
 木・金の決勝トーナメントの出場条件が、スター・カードの収集枚数だというが、例えば1日目終了時点での、各プレイヤーの取得の枚数などはアナウンスされるのだろうか。
 手っ取り早くカードを集めるには、枚数を持っている相手とやった方が効率がいいだろうし、逆に大量所持プレイヤー=強者とも言えるので、そいつを避けるという方法も取れる。
 やはり情報は重要である、とアスランが一人頷いていたところに、
「なーに黄昏てるんだ」
 気さくに声をかけられた。
「ヴェステンフルス先輩?」
 アスランに声をかけた人物―――3年生のハイネ・ヴェステンフルスは心外そうに眉をひそめ、
「だーかーらー、ハ・イ・ネ! ったく。お前もいつになったら直るんだよ。つーか、また考え事か? ハゲるぜ?」
「余計なお世話だっ! このオレンジ凸っ!!」
「ちょっ、誰がオレンジ凸だっ! 名前呼びまでは許してやるが、それだけは許さねーぞ!」
「先にひとをハゲ呼ばわりしたのは、そっちでしょうがっ! ―――それはともかく。何の用です?」
 アスランに訊かれ、ハイネは「んー別にー」と気のない返事をして、そのまま屋上のフェンスまで歩いていく。
「ただ、すげえ活気付いてるな・・・・・・ってな。お前も見てみろよ」
 言われて、アスランもハイネの隣に並んだ。眼下の景色―――屋上から見下ろした公邸中庭では、いたるところで生徒たちがデュエルをしていた。その中には、シンやレイ、キラにイザークといった見知った顔がちらほらと見て取れた。
「どいつもこいつも必死でバカやって―――いや、バカじゃないか。無茶苦茶楽しんでる。なんつーか、こんなモン見せられるとアイツの凄さがハッキリとわかっちまう」
「セイのことですか? アイツはただ自分が好き勝手やってるだけですよ」
 どこかしんみりした様子のハイネを気遣って、アスランは言った。
 ハイネはセイの前の代の生徒会長を務めていた。だからこその言葉かもしれない。
「自分が楽しんで、みんなも楽しんでる。こういうのを理想的って言うんだよな。結局、俺は会長としてなんかできてたんかなって、そう思ったんだよ」
「ハイネは立派でしたよ。―――ただ。セイがあまりに無茶苦茶で、傍若無人で、何でもアリってだけですよ」
「そーいうのも才能だって。ま、俺は卒業前にこんな盛り上がった学園を見れただけで、いやこんな楽しいことに参加できたってだけで儲けモノだな」
 に。と笑って振り向いたハイネに、アスランは―――
「というか、無事卒業できるんでしたっけ?」
 容赦なく現実を突きつけた。
「・・・・・・」
 そう。ハイネは今年の2月にバイク事故を起こし、つい先日まで入院していたのだ。当然出席日数も単位もヤバい。というか、受験の準備なんてまるで出来ていない。そんなこんなで、彼は補習漬けの学園生活を送っていたりする。
「うるせー。だから俺はこの大会で勝って、単位を手に入れんだよ。ついでに学園長に命令権使って、大学への推薦状を書かせるっ!」
 なんとも夢のない話である。もっとも、好きな子にあんな命令やこんな命令しようとしている連中よりも健全ではあるかもしれないが。
「つーことで、デュエルだ、アスラン! 持ってるカードは5枚だっけか? 丁度いい、全賭けでやろうぜ」
「全賭けだって!? そんな無茶な。負けたら―――」
「覚悟決めろよ。でもって、躊躇うな。割り切れよ。・・・・・・でなきゃ補習だぞってな」
 
 
 
「「―――決闘!」」
 

 屋上にアスランとハイネの声が響く。
「俺の先攻っ! ドローっ!」
 先手を取ったのはハイネだ。
「俺はモンスターを守備表示でセットし―――ターンエンドっ!」
「先手を取った割には消極的ですね。手札が悪かったんですか?」
「さあな」
 アスランの挑発をハイネは軽く受け流した。揺さぶりをかけて少しでも相手の手の内を読もうと思ったが、その目論見は見事に外れてしまった。
「おれのターンっ! ドロー。おれは手札から魔法カード『デステニー・ドロー』を発動! D−HEROと名のつくモンスター1枚をセメタリーに捨て、デッキから2枚ドローする。おれは手札の『D−HEROディアボリックガイ』を捨て、2枚ドロー!」
 デステニー・ドロー。D−HEROデッキ専用ともいえる強力な手札増強カードである。
「―――さらに『ディアボリックガイ』のエフェクト発動! セメタリーにあるこのカードをゲームから除外することで、デッキから同名カード1枚を特殊召喚する!」
 アスランの場に、悪魔を模した姿のHEROが現れた。守備表示。
「ディアボリックガイを生贄に―――カモン! 『D−HEROダブルガイ』!」
 ディアボリックガイとは打って変わって、シルクハットに黒スーツ、ステッキを手にした英国紳士然としたモンスターが現れた。
「D(デステニー)−HEROデッキか。つーかさ、デスティニーだったらシンのヤツが使うべきなんじゃないか?」
「またワケノワカラナイことを・・・・・・。セイといい、生徒会長にはおれたちには聞こえない電波でも受信できるんですか?」
「うわ。凸の次はデンパ扱いかよ。最近可愛くないぞ、お前」
「それはともかく。―――ダブルガイで攻撃!」
 ダブルガイが跳躍し、ハイネの場の裏守備モンスターをステッキで打ち据える。ハイネの場のモンスターは『軍隊竜』だった。その守備力は800。対してダブルガイの攻撃力は1000。よって軍隊竜は破壊される。
「軍隊竜の効果発動! こいつは戦闘で破壊された時、デッキから同名モンスター1体を特殊召喚できる! 守備表示で特殊召喚!」
 再びハイネの場には、軍隊竜が召喚される。
「おれの攻撃はまだ終わっていないっ! ダブルガイは1ターンに2回攻撃が可能なモンスターだっ! 軍隊竜を破壊しろっ!」
 再びダブルガイが軍隊竜に攻撃を仕掛ける。その途中で、ダブルガイの全身が膨張し、盛り上がった筋肉にスーツがはち切れる。その下から現れたのは、漆黒の獣毛に覆われた体躯―――その顔も狼を思わせるものに変化していた。獣人へとその身を転じたダブルガイの鉤爪が、軍隊竜を引き裂く。
「は。紳士と思いきや、オオカミ男とはな。―――軍隊竜効果発動! 3体目の軍隊竜を守備表示で特殊召喚!」
 再三軍隊竜がハイネの場に召喚される。
「モンスターを絶えず場に残すタクティクス―――やりますね。おれはカードを1枚伏せて、ターンエンド」
 そしてハイネのターン。彼はカードを1枚ドローし―――
「軍隊竜を生贄に、『エメラルド・ドラゴン』を召喚!」
 その名の通り、宝玉と見まごうばかりの鱗に覆われた巨竜をハイネは呼び出した。
 エメラルド・ドラゴン。レベル6。攻撃力2400のドラゴン族の上級モンスターだ。特殊な効果は持たないものの、生贄1体のモンスターとしては強力なモンスターだ。
「エメラルド・ドラゴンでダブルガイを攻撃! エメラルド・バースト!」
 翡翠の竜の口から吐き出された眩い光の奔流が、ダブルガイを飲み込み、粉砕し、アスランにその超過ダメージ1400を与えた。
「―――く。だが、おれは罠カードを発動させてもらう! 『デステニー・シグナル』!
おれの場のモンスターが戦闘で破壊された時、デッキからレベル4以下のD−HEROを特殊召喚する。出でよ、『D−HEROダイヤモンドガイ』!」
 だが、アスランもただやられるばかりではない。新たなD−HEROを呼び出し、戦線を途切れさせない。
「ダイヤモンドガイか。だがな、攻撃力1400のモンスターに何ができるっ! ターン終了だ」
「なにが出来るか見せてやるさ。おれのターン、ドローっ!」
 アスランはカードを引き、
「スタンバイフェイズに、ダブルガイのもうひとつのエフェクトが発動! ダブルガイが破壊された次の自分のスタンバイフェイズに攻守1000のダブルガイ・トークン2体を特殊召喚する!」
 アスランの場に、ダブルガイそっくりの黒い影のようなトークン2体が現れた。
「そんなに守りばっかり固めたって、デュエルには勝てないぜ」
「守り? これは布石ですよ。―――ダイヤモンドガイ、エフェクト発動! 1ターンに1度、デッキの一番上のカードをめくり、それが通常魔法カードだった場合、セメタリーに送ることで、次の自分スタンバイフェイズにその効果を発動させることができる!」
 効果発動を宣言し、アスランは自分のデッキのトップカードをめくり―――
「通常魔法『増援』。このカードをセメタリーに送ることで、次のターンでの発動が確定した」
 ダイヤモンドガイの効果の成否は運任せな上、相手モンスターがいない状況で除去カードを引くなど、扱いにくいが、その反面発動コストを無視できる上、カウンター罠などで無効化されないという利点がある。
「増援。レベル4以下の戦士族モンスターをデッキから手札に加える魔法か。この状況ではあまり役に立たないカードだな」
 せせら笑うハイネに、アスランは動じず、逆に言い返す。
「D−HEROは運命と破壊、そして死を司るHEROだ。あまり―――ナメるなっ! おれはダブルガイ・トークン1体を生贄に、『D−HEROダッシュガイ』を召喚!」
 アスランの場に現れた細身の漆黒の戦士。その攻撃力は2100。
「は。それでも俺のエメラルド・ドラゴンには届かないな」
「いや、届くさ。ダッシュガイ、エフェクト発動! 1ターンに1度、場のモンスター1体を生贄にすることにより、攻撃力を1000アップする!」
 残ったもう1体のダブルガイ・トークンが光に包まれ、その光がダッシュガイを包み込む。
「―――なんだとっ!?」
「これでダッシュガイの攻撃力は3100! バトルフェイズ! ダッシュガイ、エメラルド・ドラゴンを攻撃しろ!」
 ダッシュガイの一撃がエメラルド・ドラゴンに突き刺さる。これによって、ハイネのライフは700削られ、
「ダイヤモンドガイで追撃っ! ダイレクトアタック!」
 さらにダイヤモンドガイの攻撃で1400のダメージを負い、合計2100のダメージを受けた。
「ダッシュガイは攻撃したターンのバトルフェイズ終了時に守備表示となる。そしてメインフェイズ2、おれはフィールド魔法カード『幽獄の時計塔』を場に出す」
 アスランがフィールドゾーンにカードをセットすると、途端に辺りは薄闇と霧に包まれ、アスランの背後には古びた時計塔が現れた。その外壁には蔦が絡み、なんとも不気味な雰囲気を醸し出している。
「ターン終了」
「なんのハッタリだよ、それは。俺のターン、ドローっ!」
 ハイネがカードをドローし、スタンバイフェイズに入った瞬間、時計塔の鐘が突然鳴り響き、12時を指していた針が進み、3時を示した。
「幽獄の時計塔は、相手スタンバイフェイズごとに時計カウンターを1つ置き、このカウンターが4つ溜まった時、コントローラーのダメージをゼロにするエフェクトを発揮する」
「なかなかに厄介なカードだな。俺は『スピア・ドラゴン』を召喚!」
 ハイネが召喚したのは、鳥のように長く鋭い嘴を持つドラゴンだった。攻撃力1900と2つの効果を持つ、下級ドラゴン族の主力カードだ。
「スピア・ドラゴン! ダッシュガイに攻撃!」
 スピア・ドラゴンの嘴がダッシュガイを貫き、その勢いのまま嘴の先がアスランに突き刺さった。
「―――ぐあっ!」
「スピア・ドラゴンの効果は、相手守備モンスターを攻撃した時、その攻撃力が守備力を超えていれば、その数値分のダメージを与える貫通能力だ。ダッシュガイの守備力は1000。よってお前は900のダメージを受ける!」
 刺された腹を押さえ、アスランは粗い息を吐く。
「ま。コイツもダッシュガイと同じく、攻撃したら1回休みっていう怠け者なんだけどな」
 ハイネの場に戻ったドラゴンは、翼を折りたたんで守備体制を取った。これでハイネはターンエンドだ。
「おれのターン、ドロー! ―――よしっ!」
 ドローフェイズ。カードを引いたアスランは会心の笑みを浮かべた。
「ダッシュガイのエフェクト発動! このカードが墓地にある時、1度だけドローフェイズにドローしたモンスターカードを特殊召喚できる! おれが引いたのは―――」
 アスランはドローしたカードをそのままデュエルディスクに置いた。そのモンスターとは、
「2体目のダッシュガイだとっ!?」
「さらにスタンバイフェイズ! ダイヤモンドガイの効果で墓地に送った増援のエフェクトが発動! 『D−HEROダイハードガイ』を手札に加える」
 再びアスランの場には、ダイヤモンドガイとダッシュガイが並んだ。
「バトルフェイズ! ダイヤモンドガイでスピア・ドラゴンを攻撃!」
 ダイヤモンドガイが守備力100のスピア・ドラゴンを破壊し、さらにダッシュガイのダイレクトアタックがハイネを襲う。
「これでお前の残りライフは3900! おれはカードを1枚伏せて、ターンエンド」
 場に2体のモンスターと伏せカード。戦況は確実にアスラン有利に傾いていた。
 が。
「流石にソツがないな。だが、俺はこの時を、墓地に5体のドラゴン族が揃う時を待っていた! 俺のターン、ドローっ!」
「・・・・・・墓地に5体のドラゴン。まさか・・・・・・」
 ハイネの意図を掴んだアスランだったが、その呟きは時計塔の鐘の音にかき消された。
「俺は手札からミラージュ・ドラゴンを召喚。このカードが攻撃する時、相手は罠カードを発動できない」
 ハイネの場に金色の龍が現れる。バトルフェイズでの罠カードの発動を無効化するこのドラゴンを召喚したということは―――ハイネは攻勢に打って出る気だ。
「さらに、俺は魔法カード『龍の鏡』を発動! 自分の場、墓地にある融合カードによって決められたカードをゲームから除外することによって、ドラゴン族の融合モンスター1体を特殊召喚する!」
 ハイネは自分の墓地から3体の軍隊竜とエメラルド・ドラゴン、スピア・ドラゴンをゲームから除外し、そのモンスターを選択する。
「俺のデッキのエースモンスターを見せてやるっ!」
 雷鳴が鳴り響き、稲光がその巨体を照らす。ハイネが呼び出したモンスター。それはドラゴン族最強にして、全カードのうちでも最強の1枚。
「―――FGD(ファイブ・ゴッド・ドラゴン)・・・・・・」
 畏怖とともにアスランがその名を呟く。
 現れたのは、5つの頭を持つ巨竜だった。5体のドラゴン族を融合することによって召喚される攻撃力5000の最強のドラゴン。さらに光属性のモンスター以外の攻撃を受けない効果を持つ。
「―――終わりだな、アスラン」
 バトルフェイズ。ハイネがゆっくりと手を掲げるとともに、ミラージュ、FGDの2体の竜の口に光が宿る。
「ミラージュ・ドラゴンでダッシュガイを爆滅! そして、FGD! ダイヤモンドガイを粉砕しろっ!」
 FGD。その5つの口内から放たれた光の奔流が、容赦なくダイヤモンドガイを焼き尽くす。その一撃はアスランをも飲み込み―――その攻撃力の差分のダメージ、3600を与え、アスランの残りライフは2100となる。
「・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」
「どうだ、アスラン! コイツの一撃はキくだろうっ! 俺はこれでターンエンドだ」
 FGDの攻撃に晒され、ダメージを負ったアスランは片膝をついた。攻撃力5000にして、光属性以外の攻撃を受けない最強のモンスター。対してアスランのデッキのモンスターはその全てが闇属性だ。戦闘で破壊する術はない。
「・・・・・・とはいえ、補習がかかっている以上、負けるわけにはいかないな」
 笑いっぱなしの膝に鞭を打って、アスランはなんとか立ち上がる。状況は悪いが完全に手詰まりというわけでもない。
 カードをドロー。だが、引いたのは望んだカードではなかった。
「おれはモンスターを1枚伏せて、ターンエンドだ」
 そしてハイネのターン。
「このターンで終わらせる! ドロー!」
 スタンバイフェイズに入ると同時に、時計塔の鐘が鳴り響く。これでカウンターは3つだ。
「バトルフェイズ! ミラージュ・ドラゴン、守備モンスターを攻撃!」
 ミラージュ・ドラゴンの口から迸る光が守備モンスターを焼く―――いや!
 攻撃した瞬間、削られたのは、ハイネのライフだった。その数値は1100。これでハイネの残りライフは2800。
「なんだとっ!?」
 ミラージュ・ドラゴンの攻撃力は1600。1100の反射ダメージを受けたということは、相手モンスターの守備力は2700ということになる。
 攻撃の煙が晴れ、そこから現れたのは、
「『D−HEROディフェンドガイ』。Dの守りの要だ」
「粘るな。だがそれもここまでだっ! FGDっ!!」
 最硬を誇るD−HEROも、FGDの力の前にはなす術もない。光の奔流の中であえなく消え去っていく。
「これでバトルフェイズを終了―――」
 ここでふとハイネは気づいた。場にある『幽獄の時計塔』。このカードは次のターンになれば、コントローラーへのダメージ無効の効果を発動する。
「メインフェイズ2。俺は手札から魔法カード『スタンピング・クラッシュ』を発動する。このカードは自分の場にドラゴン族モンスターが存在する時のみ発動可能なドラゴン族専用の魔法カード。場の魔法・罠カード1枚を破壊し、相手に500ダメージを与える。 対象は『幽獄の時計塔』だっ!」
 FGDが足を踏み出し、時計塔を打ち壊しにかかる。―――その瞬間、アスランは目を見開いた。
「スタンピング・クラッシュにチェーン発動! 『エターナル・ドレッド』!」
 アスランが場の罠カードを発動させた。だが、FGDの動きは止まらない。そのまま時計塔を踏み潰し、さらにその残骸を尾で蹴散らす。弾けとんだ礫がアスランに当たり、500のライフを奪っていく。
「なにがしたかったかわからないが、これでお前の希望は全部潰えたな」
「―――いや。尽きたのはハイネ。あなたの希望だ」
 ごごご・・・・・・と突然の地鳴りが屋上を襲う。それはだんだんと大きくなり―――
「幽獄の時計塔にはダメージ無効効果の他にもう1つ効果がある」
 地響きの震源。それは無残に崩れ落ちた時計塔の瓦礫の下。
「この時計塔は、あるHEROが人知れず幽閉されている牢獄だ。4度の鐘はそのHEROを呼び覚まし、牢獄の崩壊はその開放を意味する」
 淡々と語るアスランの言葉に、ハイネはひとつの疑問を覚えた。
「4度の鐘? 時計カウンターは3つだったはずだ」
「エターナル・ドレッドの効果は時計カウンターを2つ乗せることです。故に破壊された時点で乗っていたカウンターの数は5! 
 ―――永き幽閉の時より目覚めよ!」
 アスランが口にした瞬間、突き上げられた巨大な拳が瓦礫を吹き飛ばす!
 
「『D−HEROドレッドガイ』っ!!」
 
 そこから現れたのは、HEROと呼ぶにはあまりにも凶悪な姿の巨人だった。傷だらけの筋骨隆々の体躯。手足に付けられた重り付きの鉄枷。その顔を覆う鉄仮面。
「時計塔の効果によって特殊召喚されたドレッドガイのエフェクト発動! 自分の場のD−HERO以外のモンスターを全て破壊し、自分のセメタリーからD−HERO2体を復活させる。
 ―――蘇れ、ダッシュガイ!」
 天に向かって轟くドレッドガイの咆哮。それに呼応するように、アスランの墓地から2体のダッシュガイが特殊召喚される。
「そして、ドレッドガイの攻撃力・守備力は、自分の場のドレッドガイ以外のD−HEROの攻撃力・守備力の合計だ。よって、その攻撃力は4200!」
「―――なっ!?」
 その強力な効果にハイネは声を上げるが、もう遅い。ハイネはしぶしぶエンドを宣言する他なかった。
 アスランのターン。
「おれは手札から、『D−HEROダイハードガイ』を召喚! その攻撃力は800。よって、ドレッドガイの攻撃力は5000! ドレッドガイでミラージュ・ドラゴンを攻撃!」
 振り下ろした拳がミラージュ・ドラゴンを叩き潰し、ハイネはその超過ダメージ3400を受ける。
「・・・・・・くっ。 ―――やるじゃないか、アスラン」
この攻撃によってハイネの残りライフは奪われた。
 ―――勝敗は決した。
 
 
 

【○アスラン・ザラ − ハイネ・ヴェステンフルス×(ライフ喪失)】
 
 
 
 

「―――あー。負けた負けたっ! ほらよ、持ってけスター・カード」
 敗北した悔しさなど微塵も感じさせない仕草で、ハイネは自分のカードをアスランに指しだした。
「いいんですか?」
「いいって、なに遠慮してんだよ。負けたら補習がルールだろ。ま、俺の場合もともと補習だしな。息抜きができて楽しかったってトコだな」
 からからと笑いながら、ハイネはアスランの肩に手を置き―――
「負けんなよ」
「・・・・・・ああ」
 短く告げ、そのまま颯爽と屋上を立ち去る―――かと思われたが、
「でもさー、お前の勝ち方、なんか微妙にセコかったよな。あそこはフツー、FGD倒すのがスジだろ」
「・・・・・・スジもなにも、おれのデッキのモンスターじゃ、破壊できないんですよ、アレ。それとも『はいはい地砕き』とでも言いながら除去れば良かったんですか?」
「それはそれで陰険だな。まあ、お前さんぽいといえばそうだけどな」
「誰が陰険だっ! とっとと補習受けて来い、来年の同級生!」
「勝手に留年させんなっての!」
 などと、2人の言い合いが始まった中、1日目の終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。
 
 
 
 
 
 
次回『言っておくが、私は最初からクライマックスだぞ』