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2011年6月

NYSEユーロネクストがLCH.Clearnetとの清算契約を1年延長へ 

 世界最大の取引所グループである「NYSEユーロネクスト取引所」では、616日に、パリ所在の清算機関(CCP)である「LCH.Clearnet S.A.」との間で締結している清算業務の契約を1年延長することを公表した。 

 NYSEユーロネクストでは、昨年5月に独自の清算機関(CCP)を設立する計画を発表しており、これにより当初は、201211月まででLCH.Clearnetによる清算を終了する予定であった(2010年5月の決済システムニュースの記事を参照)

 今回の契約延長により、デリバティブについては20136月まで、現物株式については201312月まで、LCH.Clearnetとの契約が継続することとなる。 

 プレス発表の中で、NYSEユーロネクストのCEOであるDuncan Niederauer氏は、「我々は、ドイツ取引所との合併計画を進めており、LCH.Clearnet側も独自の戦略を検討しており、今回の延長は、双方に戦略策定の時間を与えるものである」としている。 

 NYSEユーロネクストは、金融情報サービスの提供会社であるMarkit社を中心に進められているLCH.Clearnetの買収計画に一員として参加しており、この買収が成功すれば、わざわざ自前のCCPを作る必要がなくなる。
 Nasdaq OMX取引所でも、LCH.Clearnetの買収には興味を示している。 

 NYSEユーロネクストの独自の清算機関の設立計画については、もともと「LCH.Clearnet側から譲歩を引き出すためのブラフの提案ではないか」との見方があり、どうも本気でCCPを設立するつもりはなさそうである。 

 NYSEユーロネクストは、もともとはLCH.Clearnet41.5%を保有する大株主であったが、その後LCH.Clearnetが取引所所有分の株式を買い戻し、ユーザー所有分の比率を高める方針に転じたことから、所有関係が希薄化していた。昨年からは、清算業務からの収益に注目したNYSEユーロネクスト側が再び清算業務に乗り出す構えを見せていた。 

 LCH.Clearnetへの買収の成否が注目される。 

 詳しくは、ここから。

 

2011年5月


ロンドン金属取引所(LME)が自前の清算機関の設立を検討 LCH.Clearnetはさらに苦境へ

 ロンドン金属取引所(LMELondon Metal Exchange)では、53日に、自前の清算機関の設立を検討していることを明らかにした。

 LMEでは、1987年からLCH.Clearnetを清算機関として利用しており、この計画が実現すると、LCH.Clearnetにとっては、二〇年以上にわたって続いてきたこの清算ビジネスを失うことになる。

 LMEでは、自己清算(self-clearing)への移行について、「可能性を真剣に検討している」(giving serious consideration)としている一方、最終的な決定については、とくに期限を設けていないとしている。

  こうしたLCH.Clearnet離れの動きは、実は、これが初めてではない。

まず、NYSE Liffe(ロンドン国際金融先物取引所)では、傘下に「NYSE Liffe Clearing」を設立しており、20097月から、すべてのデリバティブ取引の清算業務を自前で行っている。ただし、リスク管理や決済の保証(guarantee)などの機能については、LCH.Clearnetに委託しており、両方の清算機関のサービスが組み合わされた形となっている。

  次に、NYSE Euronextでも、20105月に「欧州清算戦略」(European Clearing Strategy)を公表し、2012年後半に、ロンドンとパリに、2つの清算機関を設立する計画を明らかにしている。

 この計画では、ロンドンに設立する清算機関が、金利、商品、FXに関するデリバティブ商品のクリアリングを、パリに設立する清算機関が、株式現物と株式デリバティブのクリアリングを行う予定である。

  これまでの欧州の証券決済インフラの統合には、「垂直型統合」と「水平型統合」があった。垂直型は、証券取引所が、清算機関(CCP)や証券決済機関(CSD)を所有するかたちで、取引から決済までのプロセスを縦に統合することを指す。一方、取引所は取引所同士で、CCPCCP同士でといった形で、同じ機能を果たす機関同士が統合を進めるアプローチを水平型統合と呼ぶ。

 従来は、ドイツのほか、イタリア、スペインなどが垂直型をとっていたが、これはむしろ例外で、EuronextLSE(ロンドン証券取引所)などの主要市場では、水平型のアプローチがとられてきた。

 しかし、LSEでも自己清算を検討していることが伝えられており、ここにきて、水平型の旗色が悪くなっているようである。このように、取引所が続々と清算業務に乗り出しているのは、清算業務の収益性が高いためである。取引所取引については、既存の証券取引所のほかに、MTF(多角的取引機関)といった新たな参入もあり、価格競争により収益が上げにくくなっている。こうした中で、各取引所では、収益の確保を目指して、CCP業務を取り込もうとしているのである。すでに、こうしたビジネスモデルをとっているドイツ取引所では、クリアリング業務がグループの収益に大きく貢献しているものとされているし、自己清算の発表においても、「収益に貢献する」(LME)、「株主にとってもプラスである」(NYSE Euronext)といったことを理由として挙げている。

  

2011年3月


CPSS-IOSCOが新たな「プリンシプル」の原案を公表 

 CPSS(決済システム委員会)とIOSCO(証券監督者国際機構)では、310日に、資金決済システムと証券決済システムに関する新たな国際スタンダードの原案を公表し、コメントの募集を開始した。 

 新たな標準は、「金融市場インフラに関する原則」(Principles for Financial Market Infrastructure)であり、「プリンシプル」と略称される。

 新標準は24の原則からなっており、これらの原則は、すべてのシステミックに重要な資金決済システム、証券保管振替機関、証券決済システム、清算機関(CCP)、トレード・レポジトリー(取引登録機関)など(これらは、まとめて「金融市場インフラ」<FMIsFinancial Market Infrastructures>と呼ばれる)が遵守すべきものとされる。 

 新たなプリンシプルが完成すると、この新たなプリンシプルは、以下の3つの既存のグローバル・スタンダードに取って代わる(リプレースする)ことになる。

1)「システミックな影響が大きい資金決済システムに関するコア・プリンシプル」(通称:コア・プリンシプル、2001年作成)
2)「証券決済システムのための勧告」(通称:RSSS2001年作成)
3)「清算機関のための勧告」(通称:RCCP2004年作成) 

 新しいプリンシプルは、リーマン・ショックによる金融市場の混乱の経験を受けて、金融市場の決済インフラを、より頑強で安全性の高いものとするために見直しが行われていたものである。また、資金決済システム、証券決済システム、清算機関の3つに分かれていた標準を一本化することにより、監督・規制面での一貫性の確保が狙いとされている。 

 こうした背景により、新たなプリンシプルは、以下のような点において、より要求水準が高い(more demanding)ものとなっている。

1)参加者のデフォルトの発生に備えた財源やリスク管理の強化
2)オペレーショナル・リスクの削減
3)金融市場インフラ間のリンクや相互依存性によるリスクの伝播の抑制

  コメント期間は、2011729日までであり、寄せられたコメントについて検討を行ったうえで、2012年初めには、ファイナル・レポートが公表される予定である。 

 詳しくは、ここから。

2011年2月
NYSEユーロネクストとドイツ取引所が合併へ

 2011年末までの合併に合意した。
 これにより、世界最大の取引所連合が誕生することになる。
 ドイツ取引所は、これまでロンドン証券取引所との合併に向けた動きが数度に亘って暗礁に乗り上げており、
今回は、新たな方向で、統合に舵を切った。
 統合後の新会社は、オランダに設立され、ニューヨークとフランクフルトの2本社制をとる(dual headquarter)。
 新会社の株式は、ドイツ側が60%、米国側が40%を保有する。

 NYSEユーロネクストは、傘下にフランス、ベルギー、オランダ市場を運営するユーロネクストを抱えており、これで欧州においても、間接的にではあるが、独・仏市場が統合されることになる。
 一方、取り残されたかたちのロンドン証券市場(LSE)は、カナダのトロント取引所を運営するTMXグループとの合併で合意しており、2つのトランス・アトランティック連合が誕生する見込みである。

 こうした証券取引所の合併が、証券決済にどのように影響を及ぼすのかが注目される。

 日本には、国内で5つもの取引所が国内での生き残りをかけているが、そろそろ国際的な生き残りに向けて統合を進めた方がよいのではないだろうか?