V-03 アナログの楽しみはカートリッジから
アナログディスクは、オーディオ機器の中で最もヒューマン要素を感じます。音の波形がそのまま圧縮されて記録され、それをまた取り出す。目で見て、耳で確かめられる唯一のオーディオパーツです。それらパーツのほんの一部を変えると、音もまたすっかり変わります。オーディオの楽しみのすべてを包含しています。
スピーカー自作派にとって故長岡氏が教祖なら、ここは江川三郎氏の独壇場でした。その発想と大胆な実験には敬服します。ステレオ誌の'80.11月号付録が手元に残っていましたので、ちょっと紹介します。
江川氏の改善策は色々実行しましたが、唯一の欠陥は見栄えをよくする配慮に欠けました(笑)リード線やワイヤー類の最短化ですが、途中で切り接ぎするという発想はパスして、片端を切断して新しいピンプラグを取り付けました。遙かにスマートです。リード線をトーンアームから取り出して直接引き回す結線方式は、見苦しいことと雑音シールドの観点からパス。ターンテーブルカットはバキューム方式では不可、オーバーハングは多少のずれを無視して、音で決定する考えは踏襲しています。
手持ちカートリッジがすべてMCタイプで、MICRO MT500トランスを介してMM端子で受けています。フォノケーブルやラインケーブル類は色々試しました。不思議なことに、ディジタル時代の高度ケーブルをフォノ系に使用するとハムノイズを生じました。バランス、SNとも満足したのは、細くて今時見栄えのしないSAEC製の純正品でした。当時のアナログ技術は、ライン伝達技術とも完成していたのだと感心します。
近年のAD再評価で、カートリッジも新規開発されるまでになりました。90年代、手ごろな価格のAT33 VTGを購入しました。リファレンスのYAMAHA MC1000と比較すると、やけにドンシャリ。カーリッジ筐体にセラミックが混入されていますが、剛体化によって伝達ロスがなくなり、ダンプされない高域共鳴音がもろに出るようです。カートリッジボディの素材は、共鳴音が関与して特有の癖となるように感じます。
サエクのヘッドシェルもまた高剛体化を指向していて、トーンアームへの脱着方式は独自で、嵌合部の突起によって剛性の高い接合ができます。癖のあるカートリッジで、ここに鉛の微少片をダンプ材として介在させて、高域共鳴音をロスさせる細工を考えました。これは成功でした。音は激変、高域付帯音が取り去られ、クリアでバランスのよい優れたカートリッジに変身しました。
画像左SAEC WE407/23純正セラミック製シェル+SAT IN M21。右ATLH18
/OCC+AT33 VTGで、接合部に鉛の微少片を介在させています。
CDが出現する以前のAD技術開発テーマは、くっきり明瞭な描写と、周波数レンジを広げることでした。SATINカートリッジは80年代初頭の先端技術でしたが、やはりドンシャリ傾向。しかし、90年代の ATカートリッジに較べて大差なく、聴感上のクォリティは価格差と一致します。
この両者の中間時点で入手したYAM AHA MC1000の、デリケートで溌剌とした表現力はすばらしく、私のリファレンスです。
←嵌合部の突起
←鉛片