V-05 ほぐれた高域再生は硬質振動板で

 カラヤンは高音部が聞こえなかったというような風説もありますが、確かに、オーケストラの大音量にさらされて、高音部の聴感が低下していたのかもしれません。かつての勤務先で、常時モーターの回転音にさらされる工場職場では、同じ障碍が報告されていました。

 オーディオに触れた初期はカラヤンの全盛期で、ベルリンフィルの演奏をドイツグラモフォン盤で聴くことが多く、次第にこの音響が基準となりました。ロンドン盤やエンジェル盤は、歪みの少ない透明感のプラス評価より、ひ弱さを感じたものです。そのような、私自身の基準に疑問を感じたのは、生オケの音に触れたり、機器のクォリティが高まった後のことです。

 初期のシステムはオール紙コーンのSPで、そこに高域再生限界もあったようです。生演奏では直接音とホールの反射音が渾然一体であっても、うまく表現できませんがグラモフォン盤とは異なる、ほぐれた音なのです。たぶん、高域の歪みの差ではないかと思います。パイオニアのブックシェルフに始まり、自作SPを経て、コーラルXZ、さらにVictor Zero FX9ではっきりと理解しました。

 高音域再生の決定的な差によって、CDよりADが遙かに優れていることも実感しました。評論家の解説にはよく乗せられ、CDプレーヤーのニューモデルが出るたび、今度こそはADを超えているかもしれないと期待してしまうのです。そんな訳で購入した3代目のDENON DCD S10VLも、残念ながらADより劣っていると判断しました。      

 しかも、あろうことかそこからSACDという新たなフォーマットに進むとは、ちょっと肩すかしをくらった気分です。やはりCDの音質が劣ることを、メーカーも開発者も気付いていたのか、という裏切られたような感覚でした。以後、CD機器とソフトと決別しました。

 私は高域にこだわりますが、それはスーパートゥーターで超高域帯まで再生しようという意味ではありません。「歪みのない高域」の伸張です。そのためには紙コーンでは不可能、またハード系でもアルミ系では無理と感じるのは、Coral X-Z体験に由来します。

 紙コーン振動板から、硬質振動板への移行は現代の高度技術のたまものでした。CORALやONKYOのアルミ(ジュラルミン)、YAMAHAのベリリウム、DIATONEのボロン、ウーファー素材としてはカーボンやアラミッド繊維と、いずれも剛性に優れた硬質素材でした。しかし、出力信号に忠実なことを指向するあまり、磁気回路やボイスコイルまでを高度にチューニングしたモニター系再生音は、音楽的要素が不足します。

 比較試聴で採用した Victor FX-9、SX-900 Spiritのトゥーターは、超高域まで伸びて硬さを感じさせずにさわやかにほぐれた音質です。ミクロン厚さのセラミックとダイヤモンドです。歪みを発生することなく短波長の高域振動に耐えるには、このような宝石レベルの硬度が必要なのでしょう。

 これを二度ばかり破砕して交換しました。1度は汚れを拭き取ろうとして自分で、2度目は引っ越しを委託した業者が壊しました。このトゥーターは最近まで単体で市販されており、17年後にもリペアが確保できました。

 取り外したトゥーターの再生を考えました。 左側が補修を終えたカルシュームコラーゲントゥィーター、すなわち卵殻。できるだけ殻が薄く、古くてすべすべしたのが理想。立派な非金属系硬質ドーム型です(笑)。右側も補修したら試聴したい……。
                     04th Feb.'05