V-09 カートリッジ遍歴とアーム周りの固め
 
 アナログ再生は、回転系とピックアップ系、支点となるアームベース周り制御が主要テーマです。プレーヤーシステムの低域再生限界とその共鳴に係わるfo(エフゼロ、最低共振周波数)を解くにはバンデンハル関数なる公理があるそうです。foのピークQは機械的共振で、カートリッジのコンプライアンスやアーム感度、実効質量等が関わり、これらシステム全体として、音が歪んだりミストラックを起こすことがあるのです。

 機械的共振とは別に、再生にはアクーステッィクな共鳴が必要で、高次共鳴音は音楽に生気と感動を与えます。アナログ再生では、低域から高域まで全てが理論通りには行きません。失敗しつつ体験を積むと、やがて「こうではなかろうか、ならこうしよう」 という手だてが見えてきます。共振の減殺は、気に障るレベルでない限り対策しないほうがよく、押さえ込むとS Nは向上しますが音が死にます。メタル製ターンテーブルや、高次共鳴を伴うトーンアーム等の特性を生かすと再生音に活気があって楽しくなりますが、一歩誤ると騒々しい。

 ターンテーブルではゴム3種と金属等いろいろ試みて、最後は鳴き止めダンプした重量ターンテーブルと、バキュームの組み合わせになりました。レコードの反りによって生じる、fo周辺の問題は無視できます。カートリッジとトーンアームの組み合わせは、教科書的には、ハイコンプライアンスカートリッジはローマスアームと軽量ヘッドシェルが合うと言われます。しかし、快い音、感動する再生は、必ずしも教科書通りでは到達できません。
 
 アナログ技術はシンプルです。対策した再生音が自分にとって快く、ボリウムをどんどんあげると感動も増幅されること。苦痛を感じて、耳を覆いたくなるのはいけません。カートリッジは、その個性が自分の好みにマッチするかどうかが重要、価格や人気で選ぶのはPoorman's Audioに非ず、Millionaireに任せましょう。

 嵌まると悩ましいのがカートリッジ遍歴、ざっと初期から中期まで触れます。1968年、トリオのMMタイプはほどほどの音。二代目FR-1 MKUは透明感のある音質。針交換でMKVにグレードアップし、内部配線にあわせてリード線も銀線として低域が薄くハイ上がり。不満ながら使用中、新発売のYAMAHA MC-7はその半値ほどで早速購入。低域がほどよく盛り上がって愉しく、針先から逆ブラッシングで損折交換初体験。

 70年代後半、スピード感が評価された時代、発売直後のSATIN M-21を入手。切れ味よく溌剌として、MCでありながら高出力で針交換可能。クラシック全般からボーカルまでレパートリーが広がって、好感度MC-7の上級 MC-1000を入手。ダイヤモンドコーティングベリリウムテーパードカンチレバー、軽質量0.105mg、LTDダンパー、 F特10〜80,000Hz。ロングランで3個使用、最近4代目を中古入手しています。

 HiFi再生の味を覚え始めて、アンプはDENON PMA-970。名機PRA-2000由来のCR型無帰還フォノイコ搭載の優れもの。しかし、専門誌のレポートは常に高級プリアンプ使用で、プリメインでは本来の能力が発揮できないのかと疑念して、トランス導入。価格と性能の折り合ったMICRO MT-500。MC-1000は能力を出し切ったと感じたが、高出力SATIN M-21は使用できなくなった。96年、久しぶりにYAMAHAを離れてAT33 VTG。切れと分解能に優れメリハリは良いが、何かしらCDに似てラチチュードが狭く感じた。

 

 カートリッジ遍歴の課程で、周辺ノウハウも蓄積しました。第一にアーム感度の重視。対策として効くのは、重量マス、インシュレート、スタビライズ……。なぜか、次第に重量マス増大方向となりました。軽薄短小な機器は受けつけなくなってしまい、軽量ストレートアームの利点を知りません。求める音を実現する方向は、カートリッジはハイコンプライアンス、シェルとアームは一定のマスがあるもの、明確な支点はアームの要所です。
 
 SX-308Nアームは、微妙な針圧調整が可能です。切手一枚の重量にも反応し、トレース能力と感度も優れもの。ステンパイプの微かな響きが乗ってチャーミング、 MC-1000カートリッジとの相性も絶妙です。

 2プレーヤーでは一方はラインが伸びますから、雑音を拾うことの少ない audiocraftの2芯シールドケーブルTW150で繋ぎ、MT- 500トランスを介しています。

 アームのセットでは、強固な支点を重視し、スタビライザーは必ず使用します。低域に効果的で、締まりと伸びが顕著になります。音が軽めのSX-308Nには、特注で重量のあるスタビです。アームベースが不動であること、ベースはターンテーブル軸と一体化すべきとのLUXMA Nの主張は体験上納得します。

                   10th.Sept.'06