V-12 スピーカーセットと音響キャビティ
第一話『WAC音響&ビヤダル…』に関わる、妄想仮説です。オーディオ再生の中でも、音場の立体的空間イメージの再現は難しい。立体的音響空間とは、人が体験で学習した遠近感や方向感覚を、実際より小さな空間で聴覚的に錯覚させる技術です。情報をできるだけ正確にロスなく拾い上げ、歪みや雑音を加えず再生する技術が進むと、位相というテーマが現れます。音波形がリスナーに届くまでの間に、さまざまな干渉を受けて自然な音響空間が感じられなくなる位相の乱れ、テストレコードの逆相モード再生で体感できます。
位相をテーマとした再生では、バイノーラル録再技術が知られています。S誌で読んだ程度の知識ですが、ダミーヘッドに装着したマイク収録で、頭蓋内の聴覚器官に届く音響に似せようとする発想です。左右の耳と音源との距離による音量差や時間差、頭部周辺での回折や反射によるF特変化等が反映されてリアルそうです。
オーディオルームにおいては、もっと複雑で多岐な要素が加わりそうです。音波動の伝達空間で、共鳴、反射、吸収という要素が加わって、左右の耳に届く音の強弱、F特性、位相等、多くの違ったパラメータをあたかも実際のスケールで聴く音響のように錯覚させる技術とは……(-_-;ウーン、自分で表現しながら、何とも難しそうな課題。
70年代末、Technicsは位相管理をテーマとして、リニアフェイズ理論を展開しました。スピーカーユニットの発音体(ボイスコイル)位置をそろえて、リスナーに届く音の位相を整えようとする発想です。しかし、一般オーディオルームの数メートル程度の距離で、効果的とは思えません。オーディオ帯域の音は、波長によって伝達特性が違い、20KHzの波長は340m/20000=1.7cm、20Hzなら340m/20=17mになります。短波長の高域成分は反射と吸収で減衰しても、超低域は部屋の壁を通り過ぎています。位相より、こちらの影響が大でしょう。
音響成分は数Hzから数万HzのF特性と、様々な音色とハーモニーからなる混合音ですから、再生条件によって位相やF特の乱れは当然、良い音響ホールの条件とは、できるだけ乱さず拡散することです。自分のヒアリング環境で、どこまで可能か? 自然な音場感と定位感をつめる作業は、トライアルアンドエラーで答えを出していますが、これを係数処理してこういう原理だと解説し、その通り実現できる方はオーディオの達人でしょう。
リスニングルームのさまざまな要素のうち、音響空間キャビティについて考察します。大型SPは、低音再生だけでなく音で包み込むような表現があり、これはキャビテイの大きさに由来すると感じます。位相とか、タイムアライメントとか、時間と空間とにもっとも係わる要素で、余裕あるキャビティであるほど位相乱れが少ないと考えます。さらに、SP周辺と後方の空間が重要です。静電型SPのダイポール特性ほどはなくとも、この空間は虚像を形成する役割があります。共鳴して響きを生み出す壁材の硬度(共振周波数)は、虚像エンクロージャーとして重視します。
中型SPを並列駆動して、イメージする音場を求めて試行錯誤しました。当初、チャンネル毎に2SPをリスナー向き角度で密着設置すると、不思議と音は中央部に凝縮されて左右の周辺音密度が薄れます。中央のかたまった音を薄めて周辺音場イメージを強めたいと、左右チャンネルのSPをV字に角度をつけて最適なセット位置を探りました。かつて江川氏がSP間の音像を強めるとして提唱した逆オルソン方式を、各チャンネルに応用して音密度をバランスさせる発想で、最適解が得られました。
ハイエンド機器と、普及型音響機器との違いは、一つは歪レベルと振動板材質や磁性体による音質差、もう一つは位相に係わる要素です。一般には、間隔をとって両SPを中央向けに角度をつけ、リスナー位置で両チャンネルの音を重ねてステレオイメージを作りますが、空間音像イメージを形成するのは、人の聴覚に錯覚を起こさせるのですから、さまざま可能です。
オーディオとは、セオリーを語ることではなく、現実に音を愉しむ趣味であり、そのための作業もまた愉しいのですが、スピーカーセットだけは苦痛が伴います。最近のオーディオサイトは、『絶対ドグマ』的マニュアル説が横行して、オーディオ最盛期のような、『何でもやってみる』試行の幅がなくなってきました。これは、オーディオ衰退に繋がる精神の衰弱と感じます。
もっといい音出しの方法はないかの? と、皆が試行し、情報交換すればオーディオはもっと愉しくなる。SP周辺、特に後方空間の利用と、マルチアンプならぬマルチSP駆動術。この技術の夢は大型SPのハンドリングの改善につながります。100kgを超える大型SPは一人での取り扱いはどうしようもありませんが、分割できるならウェストミンスターを半分割で揃えて……、やっぱり無理でしょうか(笑)
25th. Mar'07 + 25th.Dec.'11