V-16 ミクロの決死圏を覗く

 細い楕円針は、鉛筆の芯が減るように短くなっても、チップ先端部の形は変わらない。だから長時間の使用に耐える。新発見だが、新品から長年使用したMC-1000と、中古購入のMC- 3の2本のうち1本のチップが欠けて一部が残っている。同じように崩壊するのは、共通の破壊力が働くのでしょう。

 ダックの嘴型の薄い壁状のスタイラスが、ピッタリ音溝に入り込み、薄い両翼先端部から音溝と相接する形で磨耗して、最後に、再生中に何らかの衝撃で壁が崩れるように割れていく。その臨終の瞬間までスタイラスは音溝と正しく接して再生出来るのです。軽針圧、楕円針のカートは一般に高価ですが、それだけの価値はありそうです。

 丸針はEMPIRE 4000D/BとShure V15/Vで鏡検し、横から見た場合、楕円針が数μであるのと較べて5〜10倍はあるようでとても太く見えます。ふっくらした卵形のチップ尖端の両脇が痩せて段差状になると、レコード音溝に全体が密着せず浮くかも知れません。かつて、SATIN M-21丸針使用で、200時間程度で、ff(フォルティシモ)でビビリがでた記憶があります。

 愛用カートリッジを求めて、あれこれ収集していると、中にはスタイラスチップがアスファルト状の固着物に埋没して、針先が消耗し尽くしたか? と錯覚するのもあります。この状態では、磨耗した丸針と同様に、スタイラスは音溝に密着せず浮き上がります。レコード再生の前後でブラッシングするのがセオリーです。

 ブラッシングで、スタイラスとカンチレバー下面は綺麗になりますが、強拡大で見るとカンチレバー裏側の汚れも気になるものです。アルコールを滲ませたティッシュの縁を、指先に挟んで裏面に差しこんで磨きあげます。この裏技、濡れたティッシュよりカンチレバー強度が上で、今のところ失敗はありません。

 右の画像の多くは中古入手ですが、中には日常汚れたままの盤で再生して、カートの寿命はこんなものと信じて放出したと推察されるのもあり。使用テクニックによって、カートリッジに対して抱くイメージ、その寿命とひいてはLP再生時の雑音のイメージまでが全く違ってしまうかも知れません。

 埃をクリアできたら、次はレコード盤の安定です。盤にそりがあるとカンチレバーはしなるように揺れます。AT社のカンチレバーは長目で、これに金メッキしています。チップの磨耗はほとんどなくとも、揺れて負荷の掛かる裏側はメッキが剥がれます。これだけ不要な振動が生じるなら、当然再生音には歪が発生すると考えられます。良い音で快く音楽を聴きたいと願う実践の回答として、盤面はフラット、カンチレバーは短め、と主張します。

                          02nd.Jan.'08
画像は上段YAMAHA MC1000、右正常、左チップ崩壊一部残、中段右YAMAHA MC-3、
HYPHONIC MCA6(正常or裏抜?)、左AT33VTG、下段右ortofon MC-20S、左MC-30S。
 カートリッジ磨耗に関してもっと知りたいと、実体顕微鏡を入手しました。アメリカNova社製3眼式、透過照明と落射照明内蔵。対物0.65〜4.5倍ズーム×接眼25倍、総合倍率16.25〜112.5倍ですが、×2倍対物コンバージョンレンズ付きで、16.25〜225倍まで観察できます。

 3眼顕微鏡でカメラ撮影するには、Cマウント規格アダプターが必要ですが、カメラ側では高級システム対応カメラか、専用の顕微鏡用カメラとなります。私のCanon1眼カメラはレンズ交換できないコンパクトタイプで、アダプターとしてLA-DC58Cが用意されていますが、既に販売終了でした。とりあえずオークションで手当たり次第、Nikonのレンズアタッチメントを落札しましたが、合致したのは×10photo用レンズ1本だけでした。

 早速、全てのカートリッジを引っ張り出して覗いてみました。これは、面白くて止められません。ドーパミンたっぷり。カート磨耗の話は推定嘘も多いぞ。スタイラスの大きさと形態によって、磨耗の仕方は全く違うんだ。スタイラスの太いのと細いの、丸針と楕円針(丸針以外の各種形を含む)とで全く違います。