V-25 Audio My Trial 総集編T
当コーナーも残り僅か、総集編はどんなテーマで締めるべきか、たかが音だしの趣味、たかがaudio、たかが……。 20歳でスタートしてから今日まで、50年も同じLPレコード再生と戯れ、いろいろ試行錯誤し、それを説明する仮説をたててさらに試み、その体験で知ったことの紹介です。しかし、たかがaudioと雖も範囲は広く、拙い知識では溺れること必至、そこで近時の取組みテーマに絞ります。
たかが、数センチのシェルリード線で、音質がなぜ変わるか? MCカートリッジの場合、レコード盤から拾い上げた振動情報は電気情報に転換され、1億倍に増幅して聴く。だから、原初情報直後にあるリード線の影響は大きい。今回は、リード線製作や、システムの導体メンテに関する仮説とノウハウ開示です。
音質に影響する、リード線の主要な要素をピックアップします。導体素材、素材の処理法、導体構成と構造、カシメや使用ハンダ、製作スキル、そして製作からの経過年数と置かれた環境でしょうか。以下、順に検討します。
導体素材は、正に導体の氏素性と云える要素で、当然音質のベースです。3Nクラスのタフピッチ銅から、4N銅、 OFC、PCOCC、6N、7N、8N、一歩退化PC Triple Cへと、一方で純銀線もピーク時6Nまで進化しました。
画像で、物置の隅に放置されていたaudio用ケーブルの初期製品(上方)から、ピーク時の製品まで並べてみました。CD登場を機として、audioは輪郭鮮明な再生を求め、SP振動板の主流はハードタイプ素材へと、導体も当時の新素材は硬質の音で、私はW撚りして低域ボリウムを求めました。やがてバブル期audioピークを迎え、導体は太さとシースの華やかさを競う時代になりました(笑)
純度表示の国際規格はなく、同じ純度表示でもメーカーによって異なります。金属のみを対象とした純度と、あらゆる元素を含めた純度を指す場合があります。8Nレベルともなると測定限界以下で、大手メーカーのみが測定可能です。それほどの超純度で音質が異なるのは、不純物の混合によるのではなく、同位体組成の違いではないかと私は考えています。近年、農畜産物はこれを測定して産地を特定できます。例えば、銅では由来鉱山によって63 Cuと65Cuの組成に違いがあるのではないか……。
粗銅からオーディオ用高純度導体への加工は数社に限られ、メーカー毎に独自技術があるでしょう。不純物を除去して微細線として引きだす工程は、高温で効率的に処理する一般的手法と、ゆっくり加温しながら冷却なましする手法等、銅原子配列や成長が変わり、電流(電子移動)や振動減衰特性等、フラットな特性となったり、あるいは固有の周波数域に癖を生じたりします。
素材をケーブル導体に加工する、素材構成と導体構造ノウハウは、audio各社各様興味ある知見とアイディアが認められます。情報をできるだけ原録音に近く再生するには、広帯域特性が基本条件ですから、ケーブル導体構成は、高低域それぞれを担う素線材を配置します。素線材の径として、外層に高域を担う微細線、内層には低域を担う太めの線を配置したり、あるいは、それぞれの帯域電流に適した異種素材をハイブリッドしたり。トータルとしての導体断面積とインピーダンスによって、導体固有の電力特性となり音質特性となります。
高周波電流ほど導体表層を流れる表皮効果コントロールは、リード線では重要課題と考えます。私は、編線として導体断面積に対する導体表面積を相対的に高め、広帯域化をめざします。素材構成と導体断面積が全く同じでも、編線とすることで外観的(実質?)表面積は拡大し、また編線導体はある種のエコー感というか空気感を表現して、影の部分の表情が豊かになる感じです。音質試聴結果とこれらの導体構成データを処理すると、断面積と表面積との比率は音質と密接に関わりがあって、現在は試作前におよその音質傾向を推定できます。
さらに素線材の酸化防止。特に高域特性を持続させるには、酸化被膜形成を抑える被覆材と被覆方法、被覆圧が関わります。ケーブルを制震して余計な歪みを押さえることも課題です。太めの上級SPケーブルでは、導体とシースの間に制震目的で綿や絹糸を詰めますが、ここに、酸化皮膜形成抑制剤を含浸させてはどうかと考えたことがあります。接点の導電性を高めるなら酸化皮膜も抑制するかと考え、試みに手元にあった端子復活剤ケイグを試しました。これは大失敗で、導体の酸化変質を著しく促進します。
03ed. Mar.'15