V-27 Audio My Trial 総集編V
 表皮効果の影響とリード線導体考察です。
3年前に、シェルリード線に関して実案登録し、その後リード線製作上の基本ノウハウとしています。内容は次の様に要約できます。@導体構造を2層または3層に構成し、外層ほど微細線を配置する構造。A導体を編線構造として、可撓性(曲げ易さ)を維持し、導体相互を点接触として素線相互間の横飛び電流を防止する。

 @の技術を採用した初期モデルがSophiaで、当初3層とした試作モデルを、音楽家のソフィァザールさんに絶賛されました。これがネーミングの由来です。ラインナップモデルとした段階で、太さの異なる3種類の微細素線を3層に配置する手間に耐えられず2層に単純化したところ、音が違うとソフィァザールさんに見破られました。鍛えられた聴感の鋭さに驚くと同時に、同じ素線材で同じ本数、つまり電気特性としては全く同じはずの導体でも、構造によって音質が異なる事実を知りました。

 表皮効果の影響とリード線導体について考察します。図1〜3は、太さ(断面積)の異なる単線導体で、導体断面と表皮効果の影響を示した概念図です。黄色が高周波やaudio帯域の高域電流で、表面からある深さの層をドーナツ状に流れ、黄褐色で示した内層はそれ以外の低周波域電流が通る部位を示しています。

 図は、理論を単純化して単線で示しましたが、実際の多層構造導体は低域と高域情報電流をバランスさせ、図4のように多数の素線で構成します。前ページの模式図で示した多層構造リード線の断面で、内層に細素線、外層に微細線を配置して、低域と高域情報電流をバランスさせた構造です。微細線は電力通過量が小さく高域特性に影響し、内層の細線層とトータル導体断面積は電力通過量に関わり低域と力感表現に影響します。Moon Audio工房のリード線では、Sophia、Seiren Ex.、Eos 2wayが該当します。

 導体の太さ(断面積)は電力供給力に関わりパワー感の表現力、導体表層面積は高域情報はに関わります。リード線の音質は、素材の純度や混入物質による固有の特性ベースと、導体断面積、および表皮深さ面積による高域情報電流量によって傾向が決まります。音質傾向指標(算式は前ページ下段参照)は次のようになります。

@導体断面積(CCSA):値が大きいほど電力通過が大、低域増強傾向。
A表皮深さ面積は太さで変わるので代替値≒導体表面積(CSA)/1mm:値が大きいほど高域電流が大。
BCSA/CCSA比:値が大きいほど高域寄りバランス、小さいと低域寄り。

 単線によるシェルリード線を考察すると、可撓性限界がありますから単線の外径は最大でも1mmを上回ることはないでしょう。素材特性をも総合的に勘案した最適外径の線(図2のように高域電流とその他電流域がバランス)を用いるなら、高域表現と力感の両立も可能でしょうが、その閾値は狭く、最適外径の素線材が得られた場合に有効です。

 編線構造を採用した工房リード線モデルが、Zeus Ver.2、Seiren Ex.、Museで、編線と撚線導体の特性比較は以下のようです。

 撚線導体は、多数の素線を扱うには最も容易で低コストですが、 @一定方向のTwistに沿ってスパイラル電流となる歪み、A素線相互が線接触となり素線間で横飛び電流(迷走電流)による歪みが考えられます。これに対して編線導体の長所は、@波状S字導体では、素線相互が点接触となり素線間に空隙ができて、相互干渉が少ない。A情報電流がスムーズに流れ、歪み低減、空間表現に優れる。短所は、@編線工作の手間と工作ロスによる、コスト高。A編線工程で、導体にストレスを与える。Bエージング時間の延長。

 導体素材の音質は、、多くの場合上記編線導体の特性によって良い面が引きだされますが、PC riple C素材の編線導体では逆にマイナスの影響が出ることを体験しました。PC Triple C導体の物性は、適度な叩き圧を加えて原子並びを整える製法のためか、伸展性が小さく脆い。編線工作で断線しやすく、大きなストレスがかかって構造が壊れるのか、素材そのままの試作品と比較すると明らかに音質劣化を認めました。

PC Triple C導体は、従来の導体とは物性が異なり、編線構造には不適です。そこで、Eos 2(2way)モデルでは、多層構造導体として、さらに2層間を絶縁して二層2Way導体とし、この試みは素材の音質特性を非常に良く活かして引きだすことに成功しました。これは素晴らしい音質です。
                                                   28th. Mar.'15