I Was Born To
             Love You
 
             〜貴方を守るために〜



 6.


 「ちょっと・・・行ってくる。すぐ戻って来るから。」

 ボロミアはそう言うと部屋を飛び出した。

 向かった先は執務室だった。

 「父上、失礼します。」

 ボロミアはそう言うと執務室に入っていった。

 「今、仕事中だ。」

 デネソールが言った。

 「すぐに終わります。」

 ボロミアが言った。

 「何だ?」

 デネソールが顔を上げた。

 「ファラミアが具合が悪くて何も食べません。」

 ボロミアが言った。

 デネソールはボロミアをじっと見つめた。

 「それで?」

 「父上がファラミアのところに来てくださったらきっとファラミアは・・・」

 ボロミアがそう言い掛けたのを遮って言った。

 「お前が傍に居る。それで十分だろう。気の済むまで居るがいい。」

 デネソールが言った。

 ボロミアは解っていた。それが父の精一杯の譲歩だということを。

 でも・・・

 「眠っているのだろう?目を覚ました時にお前がいてやらなくていいのか?」

 デネソールが静かに言った。

 「父上・・・」
 
 「大丈夫だ。ルドが付いている。」

 デネソールが言った。

 もう、何も言えなかった。

 ボロミアは執務室を出た。



 「ファラミアは?」

 ファラミアの部屋に戻ってルドに尋ねた。
 
 「今度起きたら何か召し上がって頂きましょう。

 そして薬を飲めば大分落ち着くと思います。」




 ファラミアが起きたのはそれからしばらくしてからだった。

 相変わらず咳が出るし、熱も高い。

 「何か食べたいものは?」

 ボロミアの言葉にもただ首を横に振った。

 その時、ファラミアの部屋の扉が叩かれた。

 「はい?」
 
ボロミアが扉を開けた。

 「プリンをお持ちしました。」

 そう言って料理人がプリンをお盆に乗せて持ってきた。

 「えっ?」

 「冷たく冷えています。どうぞ。これなら食べられるのではないかと。」
 
 ボロミアがファラミアを見た。

 ファラミアの眼がプリンを見つめていた。

 「食べるか?」

 「うん。」

 ファラミアが頷いた。



 ファラミアはプリンを二個も平らげた。

 そして、ルドに言われるままに薬を飲んでまた眠ってしまった。

 「これで一安心です。」

 ルドが笑顔になった。

 「でも、どうして?どうしてプリンは食べたんだろう?」

 ボロミアが首を傾げた。

 「フィンドゥイラス様が、まだお元気だった頃、よく手ずからお菓子を

 お作りになったのを覚えていませんか?」

 ルドが言った。

 「覚えているよ。母上はお菓子作りが殊の外上手で・・・色々作って頂いたよ。」

 ボロミアが言った。

 「ボロミア様はそうでしょうね。でも、ファラミア様が生まれてからは

 病に伏されていることが多くて、そんな機会もほとんどなくて・・・

 でも、幼いファラミア様の為によくファラミア様の好物のプリンを作って

 さしあげていて・・・それをデネソール様がファラミア様の口に運んで

 食べさせて差し上げていたのですよ。」

 ルドが懐かしそうに話した。

 「そんなことがあったのか?」

 「ええ、フィンドゥイラス様がファラミア様と二人でお部屋に篭もって

 お過ごしになられるようになってからですから・・・ボロミア様は

 ご存じないのでしょう。」
 
 母フィンドゥイラスは少しずつ正気を失い、幼いファラミアを片時も

 傍から離さず、ファラミアは幼い頃は半ば軟禁状態の中で幼い日々を

 過ごしていた。

 「ファラミアの好物がプリンだなんて知らなかったな。

 でも、誰がそんなことを知っていたのだろう?」

 「ファラミア様はあまり自己主張をなさいませんからね。

 そのことをご存じの方はただ一人のはず。」

 ルドの言葉にボロミアははっとした。

 「まさか・・・父上?」

 「ええ。きっとあの方はお認めにならないでしょうが・・・」

 「父上が・・・」

 「兄上・・・」

 その時、ファラミアがボロミアの手を引いた。

 「何だ、起きていたのか?」
 
 「あのプリンは父上が?」

 ファラミアが嬉しそうに笑った。

 「そうらしいな。」

 「兄上が言ってくださったのですね。」

 そう言ってファラミアはボロミアに抱きついた。

 「私じゃないよ。」

 「でも、きっと兄上のおかげです。」

 ファラミアはボロミアの首に縋り付いた。

 「ファラミア・・・」

 「大好きです。兄上・・・」

 「私もお前が大好きだよ。」



 眠ってしまったファラミアの手を、ボロミアはずっと握っていた。

 「きっと二三日で熱も下がります。」

 ルドが言った。

 「父上のおかげだ。」

 「いいえ、ボロミア様のファラミア様を思う気持ちが病気を退けたのですよ。」

 ルドが笑顔で言った。

 

 それが本当だとは思えなかったけど・・・

 でも・・・

 そうだったらいいな。

 私がファラミアの傍にいて、それでファラミアを守れるのなら・・・

 私はいつまでも傍にいるよ。

 大好きな大好きなファラミア・・・


 
 ファラミアの熱はその日の夜には、微熱程度まで下がった。

 「私は療病院に居ります。また夜中に見に参りますから。」

 そう言ってルドはファラミア部屋を退出した。

 ボロミアが欠伸をした。

 さすがに少し眠くなってきた。

 「あにうえ・・・」

 ファラミアが心配そうにボロミアを見つめた。

 「少し寝たいな・・・ねえ、一緒に寝てもいいか?」

 ボロミアはそう言うとファラミアの返事も聞かずにベッドに潜り込んだ。

 まだ少し身体は熱かったが、ファラミアは思ったよりも元気そうだった。

 「兄上・・・」

 ファラミアが身体を寄せてきた。

 ボロミアはファラミアの頭をそっと撫でた。



 何時の間にか眠ってしまっていたらしい。

 ファラミアがふと気付くと蝋燭の灯りが部屋の中にあった。

 (父上・・・)

 そこにいたのは父だった。

 デネソールはボロミアの頭を撫でて笑顔になった。
 
それからファラミアの頭にそっと触れた。



 やがてデネソールは出ていった。

 それは夢のように思えた。

 だが、ファラミアは感じていた。

 自分は暖かいものに守られているのだと。



 ファラミアは眼を閉じた。

 兄のぬくもりを全身に感じながら。






ということで、完結です。

 父デネソールにも父としての顔があった、というところも書きたかったので・・・

 原作でファラミアが瀕死で戻ってきたからの場面は、父親としての後悔やファラミア

 への謝罪の気持ちが描かれていて、原作のデネソールは理解できる部分があります。

 で、こんなものなんですが、いかがでしょうか?NIMA様。

 いささか長くなってしまいましたが、謹んで進呈いたします。

 お受け取りいただけますか?

 2005.03.24 Jeroen


Jeroen様よりいただきました。素敵なお話しありがとうございます。このお話し、出てくる人がみなとてもやさしいのに感激しました。Jeroen様のサイトには開設当時から何度も通い大きな影響を受け、憧れ続けていました。その方からお話しをいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。  2005・03・27 NIMA