欠けたものの行方(1)
テストの用紙を見て、俺は驚いた。どの問題もきのうファラミアが予想をたてて、答えを教えてくれたものばかりであった。これならばさすがの俺でも合格するに違いない。うれしくて思わず顔がほころんでしまう。
俺は10歳の時からこの訓練所にもう5年も通ってきている。ここも最初のうちはただ軍隊の兵士を訓練するための場所だったようだが、人数が増え、貴族の子や俺のような執政の子まで通うようになると、実技だけでなく、歴史や他の国の言葉など勉強にも力を入れるようになってきた。1年に1回、新年が始まる前には全員が全科目の試験を受けなければならず、合格しないと次のクラスに進めない。俺は前にも1度、科目の試験で不合格になったことがある。今回は15歳で最上級生であるが、合格しないとまた1年やり直し、卒業もできない。
今、僕は実技の剣の試験の順番を待っている。10歳になった僕は、兄のボロミアと一緒にこの訓練所に通うようになった。1つのクラスに30人、全部で150人ぐらいいるのだろうか、毎日ここに通っては勉強を教わったり、剣や弓の使い方を習った。そして今日は年に1度のテストの日、この日のために、兄のボロミアは何日も前から特別に剣や弓の稽古をしてくれた。体が小さく、力も弱い僕は実技はかなり苦手であった。でもこのテストに合格しないと上のクラスには進めない。もし不合格になったら、父上にどれだけ怒られるか・・・だんだん胸が痛くなり、息が苦しくなってきた。
「これは一体どういうことだ。きのう確かに覚えたはずなのに!」
テストの時間中、思わず大声を出してしまった。5歳年下でも弟のファラミアは頭がいいから、どんな難しい本でもスラスラ読んで内容を理解してしまう。彼は最上級生用の俺の本もすぐに読んで理解してしまい、ここが絶対テストに出ると予想をたて、その答えまで丁寧に教えてくれた。そうやって全部覚えたはずなのに、いざテスト用紙を前にすると、覚えたことがちっとも思い出せない。
「やい、出て来い。きのう覚えたばかりだろう!」
頭をたたくが、ちっとも答えは出てこない。あせっているうちにテストの時間は終わってしまった。
ついに僕の名前が呼ばれた。テストでは上級生と剣の試合をしなければならない。上級生とでは体の大きさからして違うから、負けるのは当然だが、どれだけ粘ってよい試合をしたかで点数がつけられる。ボロミアに何日も前から練習相手をしてもらった。大丈夫、そんなに悪い点はつかないはずだ。ボロミアに言われた通りにすれば・・・・
学科と実技のテストがすべて終わった。合格、不合格の結果はすぐに、訓練所の建物の壁に張り出される。
「兄上、どうでしたか」
「俺は実技はいい点だったが学科は不合格だった。お前はどうだ」
「僕は学科はみなよい点を取れました。でも実技で不合格になりました」
「お前、なんで実技で不合格になるんだ!俺がさんざん練習相手をしてやったじゃないか!」
「それを言うなら兄上だってどうして学科で不合格になったのですか?僕の予想ははずれましたか?」
「いや、お前の予想は合っていた。合っていたんだが俺のこの頭が・・・覚えていてくれなかった」
俺は苦笑いをした。ファラミアも少し笑った。
「僕達のこの結果を見たら父上は怒りますよね」
「ああ、怒るだろうな」
「兄上はまだいいですよ。父上のお気に入りだから・・・僕なんて普段からあんまりよく思われていないから、不合格になんかなったらどれだけ怒られるか・・・」
「俺は2度目の不合格だ。父上の期待も大きいからそれだけまたがっかりさせることになる」
「どうします?」
「どうしよう・・」
「兄上の方が年上なんですから、何か考えてくださいよ」
「お前の方が頭がいいんだから、何か考えろよ!」
お互い同じようなことを言って、同時に笑い出してしまった。俺たち兄弟は性格も得意なことも全く違うのに、なぜかいつも同じことを考えてしまう。
「仕方がない、またあそこにいくか」
「あそこってどこですか」
「イシリアンにいるマドリルのところへ」
「兄上はそこへ行ったことあるのですか」
「前にテストで不合格になった時にもそこへ行った」
「それなら僕もそこへ連れて行ってください」
「お前、行ったこともないのに、不安はないのか?」
「兄上がいいと思うところと、いいと思う人なら、きっと僕にもいいと思います」
「イシリアンは遠いぞ。歩いて2日はかかる」
「大丈夫ですよ。僕だってそれぐらいは歩けますよ」
「途中で背負ってやらないぞ」
「当たり前ですよ。僕はもう10歳です。小さな子供ではありません」
「なんだかいつもお前をおぶって歩いていたような気がするから・・・いつのまにか、こんなに大きくなったのだな」
「そうですね、僕はいつも兄上のあとばかりついて歩いていたから・・・」
「俺は卒業したら軍隊に入ろうと思っていた。でももう一年お前と一緒だな」
「僕のために不合格になってくれたのですか?」
「そんなわけないだろう」
「父上が心配しないように置手紙とかした方がいいですね」
「そうだな、お前書いてくれ」
「兄上、手紙を書く事も、文章を考えたりの勉強に・・・」
「俺はさんざん勉強した。しばらくは何も書きたくない」
「まったくもう、手紙ぐらいで・・・」
「それじゃあお前、イシリアンに着いたらマドリルに剣の稽古をしてもらうか。彼は強いぞ。俺だって負けることがある」
「それはちょっと・・・」
「やっぱりお前もそうだろう」
「わかりましたよ。手紙は僕が書きます」
「それなら俺は出かけるための準備をしよう。ファラミア、ゴンドールにこんな言葉があるのを知っているか?頭がだめなら体が役に立つべし」
「そんな言葉、知りませんよ」
「知らないだろうな、俺が今作ったのだから・・・」
「兄上!」
薄暗くなった頃、俺たちは一緒にミナス・テリスの門を出た。テストが不合格になって家出する。前は不安な道だったが、今回は弟のファラミアも一緒だから少しも不安はない。ただ二人で一緒に歩いている、それだけでうれしくてたまらなかった。
−つづくー
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後書き
1000カウントのリクエストで「ハッピーエンドのボロファラ」ということで書き始めたのですが、この兄弟は一体何をやっているのでしょう。テストに落ちて仲良く家出して(笑)ハッピーエンドというより落ちこぼれ兄弟の話になってしまいました。ボロミアは格言まで作ってしまったし・・・