欠けたものの行方(2)

 僕達は二人そろってテストで不合格になった。僕は実技がだめで、ボロミアは学科で落ちた。でもボロミアの表情は明るかった。今から二人でイシリアンに行くと言う。僕はその場所には行ったことがなかった。でもボロミアが一緒だから少しも不安はない。

「いいか、お前はこの辺りで待っていろ。絶対誰かに怪しまれないようにしていろよ」
「わかったよ」

ボロミアはすぐに走って行ってしまった。僕は木の下で本を読み始めた。こうしていれば誰も怪しんだりはしない。しばらくして、ボロミアは大きな荷物を持って戻って来た。

「何を持ってきたの?」
「ここで今、お前に説明している時間はない。いくぞ」

ボロミアは荷物を背負い、僕の手を引いた。ミナス・テリスの街の中を歩いていく。外へ出るはずなのに、どんどん上の方へ登っていく。

「どうしてこっちへ」
「この先に地下通路の入り口がある。城門には見張りの兵士がたくさんいる。そこから出たらすぐに見つかってしまうだろう」
「そうだね」

普通の家に見える建物の中に地下通路の入り口があった。中は薄暗いが、かなり広く歩きやすい。もちろん僕はここに入ったのも初めてだった。

「兄上はこの道を何度も通ったことがあるのですか」
「そうだよ、ミナス・テリスにあるあらゆる道、地下通路までよく知ってないと、いざここで戦いが始まった時、困るだろう。お前も上級生になれば、いやでも覚えさせられるよ」

迷路のように複雑に入り組んだ道を、ボロミアはどんどん歩いていく。こういう通路の途中には必ず見張りなどがいるはずだが、うまく選んで歩いているためか、誰にも会わずに城門の外に通じる出口までたどりついた。外に出るともう暗くなっていた。

「これでまず無事に城門から外に出られた」
「兄上はすごいですね。あんなに複雑な道を迷わず、見張りにも見つからずに歩けるなんて」
「俺はしょっちゅうあそこに出入りしているからな。ここで荷物の整理もしよう。お前も少しは持っていけ」
「いつのまに、これだけ用意したのですか?」
「実はこういうこともあるかと思って前もって用意しておいた」
「最初からテストに落ちる予定だったのですか」
「落ちようと思って落ちたわけではない、ただこういうこともあるかと用意しただけだ」
「同じことですよ。だいたい兄上、こういう準備をしている暇があったら、もっとしっかり勉強をしておくべきですよ」
「お前に言われたくはない」

ボロミアは大きな剣を取り出した。さやから抜くと刃が光って見える。

「この剣はお前が持っていろ。特別によく砥いでおいた」
「これ、本物・・・」
「当たり前だ。切れない剣を持っていってどうする。城門から外へ出れば、いつオークに襲われるかわからない。剣ぐらいはいつも身につけていろ」
「兄上のは・・・」
「俺のはこれだけある」

よく見ると大きな荷物の中身はほとんど剣や短剣、弓矢、楯など武器ばかりでであった。

「さあ、いくぞ」

ボロミアは僕の腰のベルトに剣をつけると、それ以外の荷物を全部持って歩き出した。


 俺はあせってついつい速く歩いてしまう。ファラミアには剣以外何も持たせなかったが、それでも歩くのは遅い。幸い月が出ていたので真っ暗闇ではなかったが、暗い道をとぼとぼ歩いていたら、オークに襲われる危険も大きい。途中にある村までたどり着けば、ミナス・テリスほどではないにしても、村の周りは石垣で囲まれているし、見張りもいるから安心して休むことができる。だけど村まではまだかなり遠い。

 5年前、俺が初めてイシリアンへ行った時、その時は一人だったけど、もっと早く村に着いた記憶がある。荷物はずっと少なかったが、それでも自分で選んで剣や楯などを持っていた。その時俺は、今のファラミアと同じ年齢だった。同じようにテストに落ちて父上にひどくしかられ、どうしてもマドリルに会いたくなって一人でイシリアンまで行った。俺が子供の頃、マドリルは城の近衛兵をしていた。まだ若い彼はよく俺の遊び相手をしてくれ、剣の稽古をしてくれた。父上は仕事が忙しく、なかなか話もできなかったから、マドリルにいろいろな話をしていた。母上が亡くなられた時も、父上やファラミアの前では涙を見せなかったけど、あとで彼のところへ行ってずっと泣いていた。そのマドリルが野伏の隊長としてイシリアンに行くことが決まった時、俺は父上に怒ってろくに別れの言葉も言わないまま別れてしまった。それでもそのあとすぐ、イシリアンまで訪ねて行った俺を、マドリルは喜んで迎えてくれた。もっとも俺は一人で行ったつもりでいたが、城の近衛兵が二人ほど心配して後をつけて来たらしいが・・・そんなことまで彼は予測して、誰かに頼んでおいたのだろうか・・・

「兄上、お願いです。もう少しゆっくり歩いてください」
「なんだ、もう疲れたのか」
「足が痛くて歩けません」
「しょうがないな・・・」

同じ10歳の時、俺は1人で歩いてイシリアンまで行ったが、ファラミアは暇さえあれば本ばかり読んでいたので、長い距離を歩くことも全くしていない。足にはまめができていて、見るからに痛そうだった。

「ファラミア、俺が少しおぶってやるよ」
「でも、僕はもう10歳だから・・・」
「足が痛いのだろう。いいよ、昔はお前をおぶって、ミナス・テリスの街中を歩いた。俺はお前を甘やかしすぎたのかな・・・」
「兄上・・・」

俺はファラミアを背負って歩き出した。いつまでも小さい弟だと思っていたが、背中に背負うとさすがに重くて、なかなか前に歩けない。でもその重さと体の温かさが心地よく感じられた。

「兄上、僕は幸せですね。兄上にこんなに大事にされていて」
「ずっとこのまま歩いたりはしないぞ」
「わかっています。・・・誰か、後をつけてきていますね」
「今、なんて言った!」
「誰か、後をつけてきているって、3人ぐらい。城門を出てからずっとです。僕たちに気づかれないよう、離れて歩いていますが・・・」
「お前にどうしてわかる」
「足音が聞こえます」
「俺には何も聞こえない」
「本当に小さな足音です。普通の人ではないようです。足音をほとんど出さずに歩いているし、かなりすばやく動けるようです」
「敵の人間か!それともオーク!」
「敵ではありません。もし敵なら、とっくに襲ってきていますよ。僕たちを守ってくれていると思います」
「そうか、誰にも見つかってないと思っていたが、やっぱり気づかれていたのか。でもお前、なんでそれをもっと早く言わない。ずっと気になっていたんだろう」
「兄上がいろいろ考えているみたいだったので黙っていました」
「それなら俺が今は何を考えているかわかるか?」
「重いから早く降りろ、そうでしょう」
「違うな、お前をおぶって歩くなんて、もう2度とないかもしれないから・・・もう少しこのままでいいよ・・・お前も大きくなったんだな・・・俺ももっとしっかりしないと・・・」
「兄上はいつでもしっかりしていますよ。何があっても大きくて強くて決して倒れない。僕の目標です」
「お前がいるから俺は強くなれるんだよ。おい、村の明かりが見えてきた。ここからは降りて少しは歩いていけ」

俺はファラミアの手を引いて歩いた。この弟がいるから俺は強くなれる。何があっても怖くない。

「ボロミア、そんなに強く握ったら、今度は手が痛くなるよ。僕はもう小さな子供じゃないから、そんなに強く手を握らなくても・・・」
「俺にとって、お前はいつまでたっても小さな弟だよ・・・ファラミア・・・」


                                    −つづくー




後書き
 二人して旅に出るのですが、ファラミアはかなりボロミアに甘えています。逆にボロミアは家出の達人(?)なので準備がいいです。ゴンドールの地下通路、ボロミアは普段からこういうところを近道として使っていそうです。ファラミアの副官マドリルは最初はボロミアの知り合いということで登場させました。彼らが子供のころは当然この人も若かったはずです(ボロミア15歳、ファラミア10歳、マドリル30歳ぐらいだろうか)