17、救出
ファラミアを助けてくれると言ったのに、魔法使いは後ろを向いて座ったままである。なにやら呪文のようなものを唱えているようにも見えるが、一向に動こうとはしない。俺はだんだんイライラしてきた。いつまで待たせれば気が済むんだ。こうしている間にも、ファラミアは命の危険にさらされているかもしれないというのに・・・
「やい、魔法使い、いつまで待たせる気だ!」
すると灰色の魔法使いは立ち上がってこちらを向いた。その顔は怒りに燃え、その体は普段の1.5倍くらいの大きさになった。
「たわけもの!せっかく意識を集中して助けを呼ぼうとしていたのにまた最初からやり直しではないか!わしがいいと言うまで二度と口を開くんでないぞ!」
あまりの迫力に俺も思わず口をつぐんだ。魔法使いはまた後ろを向いて呪文を唱え始めた。するとどうだろう、暗い空の一点に光るものが見えた。光は見る見るうちに大きくなり、鳥の形に見えた。
「わしだ!あれは鷲だ」
「なんて大きい鳥だ」
「全部で3羽いるぞ!あんなに大きな鳥は初めて見た」
後ろで海賊も野伏の二人も叫んでいる。魔法使いはやっと穏やかな顔になって笑った。
「そうじゃ、鷲じゃよ。わしの呼びかけに答えてくれた。空を飛ぶドラゴンを追うためには同じように空を飛ぶものが一番であろう。この鷲で二人を追跡するが、わし以外あと二名誰が行く?」
「俺が行く!」
「俺が行きます!」
俺と海賊のバラバが同時に声を上げた。
「大事な弟のファラミアを助けるんだ。俺が行かないでどうする!」
「ゴントも俺の大事な弟分だ。必ず助けに行く!」
「ふむ、お前さん達二人か、ちょっと待ってくれ、お前さん達二人とは考えてなかったから、これは困ったことじゃ・・・」
「何が困る」
「お前さん達二人は太って・・・いや体格が大き過ぎるから、いくら大鷲といえども飛べるかどうか。そもそも彼らは人間など乗せたことがない。今まで乗せて空を飛んだのはわしやエルフ、ホビットだけじゃ。しかも同じ人間でもお前さん達二人は普通の人間二人分の重さがあるから、鷲が飛べるかどうか。身の軽い野伏の二人が追跡することにしてはどうかな」
「そうだ、ボロミア、ファラミアは俺達が助け出す。ここで待っていろ」
野伏のハルバラドが口を出した。確かに彼ら野伏の二人は体が細く軽そうである。そして俺と海賊のギヤマンドラ、バラバを見比べて見た。こちらは体も大きく重そうなの一目瞭然である。だが俺は納得がいかない、大事な弟を助けに行くのに俺が行かれないということがあるか!
「ファラミアは俺の大事な大事なたった一人の弟だ」
「そんなことはみなよくわかっている。だからこうして集まってどうやって助け出すか相談しておるのじゃろう」
「魔法使いならなんとかしろ!俺の体をいますぐホビット並みに小さくしろ!」
「ボロミアよ。お前さんは魔法使いという者が少しもわかっていないようじゃな。この中つ国には全部で五人の魔法使いがおるが、人の体を小さくしたり、姿形を変えたりすることができるような魔法使いは一人もおらん。みなこの中つ国の中ではそれに見合った魔法が使えるだけじゃ。そのような魔法が使えるのならば、ドラゴンが現れた時に魔法を使ってその姿を変えておった」
「それなら俺もこの姿のまま鷲に乗っていく。俺は今まで馬に乗って数え切れないほどの戦いをしてきたが、馬がいやがったことは一度もない!」
俺が言うと海賊のバラバも負けてはいない。
「俺はこう見えても船の上では身軽に動ける。今まで小船に乗って数々の戦いを経験し、海に現れる化け物を退治してきたが、どんなに小さな小船でも、沈んだことなど一度もない」
「お前さん達、空は陸地や海の上とは全く違うのじゃ。いくら馬を乗りこなし、船を自在に操れる者とて空の上ではそうはいかん」
「いや、同じだ、俺達二人が助けに行く」
「困ったものじゃ、お前達、それでもよいか」
魔法使いが空を飛んでる鷲に向かって話しかけた。鷲はまっすぐ地上に降りてきた。近くで見るとその大きさに驚いた。馬よりも遥かに大きい。これなら俺が乗っても問題なさそうだ。エルフや魔法使いが何度も乗っているという大鷲は、羽の一部が固くなり、つかみやすいようになっている。俺がその羽につかまると、大鷲は大空へと飛び立った。
鷲に乗って空を飛ぶ。もちろん俺には初めての体験だった。夜が明けて明るくなってきた。空高く上がると下の景色が小さき見える。ミナス・テリスの塔に登っては下の景色を喜んで眺めていたが、それとは高さがまるで違う。ファラミアを助けに行くという目的がなければこんなことはもう二度とやりたくない。鷲達は魔法使いが乗ったのを先頭に規則正しく飛んでいく・・・いやそうでもない、俺とバラバが乗った鷲はどうしても無理があるのか遅れているようである。途中何度も魔法使いが乗った鷲は俺達の方へ戻って来た。
どれくらい長い時間空を飛んでいるのか。寒さが厳しくなってきた。下に雪の山が小さく見える。かなり遠くまで来ているに違いない。その時突然目の前を大きなドラゴンが横切った。その背中に人影が見えた。
「ファラミアだ!」
「ゴントだ!」
俺達は同時に叫んだ。だがドラゴンの飛ぶスピードは鷲よりもずっと速い。たちまちドラゴンの姿は小さきなってしまう。
「お前さん達はゆっくり来い。わしはあのドラゴンを追いかける!ドラゴンの行方がわかったら呼んでやるから心配するな。よいな」
そう言い残すと魔法使いを乗せた鷲も素晴らしいスピードで飛んでいった。さすがは魔法使い、やる時はやる。俺もバラバも口を開けたままその姿を見送っていた。
「おい、ボロミア、どうする?俺達はどこかで鷲を休ませるか」
「いや、雪山に降りたら俺達も鷲も寒くて大変だ。ゆっくりでも後を追いかけたほうがいい」
「そうだな。それにゴントのことも気になるし・・・」
「海賊というのは結構仲間想いなんだな。見直した」
「当たり前だ!」
鷲に乗って空を飛ぶ。下に見えるのは真っ白な雪山。もしかしたらこれは素晴らしい体験かもしれない。一緒に空を飛んでいるのが魔法使いや海賊というのは気に入らないが・・・
−つづくー
後書き
ガンダルフが鷲に乗って飛ぶ姿は印象的でした。でも同じことをボロミアがやると鷲はかなり大変そう、ボロミアは同じ人間の中でもかなり体格がいいし・・・でも強引に乗ってしまいました。
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