16、脱出
僕と海賊のゴントはドラゴンにさらわれてこの鋭く切り立った雪山までつれてこられた。このあたりは人間の住めるような場所ではない。ゴントに背負われて洞窟までたどり着くと中には宝石や宝などがたくさんあった。これがこんな場所でなければ僕も彼も目を輝かせ、あるいは争って宝石を奪い合っていたかもしれない。だけどこんなに寒い場所では宝石も雪のかけらも同じように見えてしまう。僕達はなるべく体を近づけた。少しでも体を温めるために二人で抱き合った。
「やっぱりお前は執政の子だな。肌の色が全然違う。俺達海賊はいつも海の上で生活してるから日に焼けてこんなに黒くなってしまった」
「ふふ、でもそれもうらやましいな。僕はほとんどミナス・テリスの街から外に出たことはなかったし、いつも本を読んだり、遠征から戻って来た兄上から話を聞いて外の世界を想像していた」
「俺達はいろいろな街を見て回って、まあちょっとは略奪したり、人を驚かせたりと悪いこともしてきたが、ミナス・テリスほど大きくて守りの堅い街を見たのは初めてだった。ちょっと街の人のふりをして城門の中に入った時は驚いた。なんだってあんなにたくさん兵士が並んでいるんだ。さすがのお頭もミナス・テリスを襲うのだけは絶対止めようと言っていた」
「それだけたくさん兵士がいないと、あそこはモルドールのすぐ近くだから、いつオークに襲われるかわからない。近くの村から逃げてきた人もたくさんミナス・テリスに住むようになった。周りは城壁に囲まれてそれ以上広げることはできないから、少しずつ上へ上へと石やレンガを積み、高い塔を建てていったんだよ。でもミナス・テリスの街が完成すると、それまで長い間都だったオスギリアスは捨てられ、ミナス・テリスを守るための城砦としてだけ使われるようになった」
「やっぱり執政の子というのは違うな。いろいろなことを知っている」
「そうでもないよ。外の世界にどういう人が住んでいるのか、どんな危険があるのか何も知らなかった。何も知らないから無謀な宝探しの旅など計画してしまった。頭ではわかっているつもりだったが、本当の危険とはどういうものかまるでわかっていなかった」
「俺だってこんなことは初めてだ。野伏にはまあしょっちゅうあっていろいろあったが魔法使いやホビットに会うのは初めてだったし、ましてドラゴンにつれられてこんなに遠くまで来るとは想像したこともなかった。俺達海賊は世界の海を渡ったと自慢しているが、結局は狭い海賊船の中から見える世界しか知らなかった」
「僕も同じだよ。本をたくさん読んで世界のいろいろなことを知っていると思っていたけど、結局はミナス・テリスの高い塔から、外を見下ろしていただけだった」
「たった数日で、お互い随分広い世界を見たようだな、だけどここはどこだ。俺達はいつも海の上では星と太陽の位置を調べ、地図で見て今いる場所を確認していたがこれではさっぱりわからない」
「たぶん僕達が住んでいた場所よりずっと寒い所につれてこられた。これだけは間違いない」
今どこにいるかはわからない。わかっていることは一つだけ。この場所にはドラゴンしか来られないということだ。
「ここから脱出するためには、またドラゴンの背に乗るしかない!」
「ああ、俺とお前と考えることは一緒だな。だけどどうやって?」
「ドラゴンはまた必ずここへやってくる。あいつはこの色硝子が気に入ったようだ。これをうまく使ってドラゴンを大人しくさせ、背に飛び乗る。あとは降りられそうな場所まで運んでくれたら、この色硝子を落とせばあわててそれを拾いに地上まで降りるだろう。その時僕達も飛び降りればいい」
「だけどこの色硝子がなくなったら、宝の場所はどうやって知る」
「先にこれで見える数字や記号をすべて書き写しておこう。まだ意味は完全にわからないけど、それは助かってからゆっくり考えればいいだろう。地図を貸してくれるか」
「ああ、お前に返しておくよ。もともとこれはお前の物だ。ただその代わりと言ってはなんだけど、ファラミア、頼みがある」
「なに、頼みって?」
ゴントは急にかしこまって僕に頭をさげた。彼は一体何を僕に頼むつもりなのだろう。
「早く書き写せ、ドラゴンがまた戻ってくる前に・・・」
「君の頼みは?」
「それは後で話す」
僕は急いで色硝子を使って地図を見、そこに浮き出る記号や数字などを書き写した。かなり寒くて手が震えたが、それには構わず書き続けた。
「おい、ファラミア、全部書き写したか?」
「うん、終わったよ」
「まだドラゴンは来ないようだな。頼みがある」
「さっきから、何を?」
「ちょっとこう言いにくいんだよ。言ったらお前に嫌われそうでさ」
「何を言っても嫌わないよ」
「本当か、言ってもいいのか」
「いいって言ってるじゃないの。もうすぐドラゴンが来る。はばたく音が聞こえる」
「ここにある宝を少し持ち帰ってもいいか・・・・」
ゴントがおよそ海賊にはふさわしくないような小さな声で言った。
「止めた方がいいと思うけど」
「お前がそう言うなら止めておく。そうだよな、こんな生きるか死ぬかっていう時に宝に執着するなんて、お前に軽蔑されるよな」
「軽蔑とかそういうことじゃなくてドラゴンに見つかって怒らせたら大変かなと思って・・・」
「それなら、ドラゴンに気づかれないほど、ちょっとだけだったらいいんだな!」
今度はやたら大きな声で耳元で怒鳴った。
「静かに・・・ドラゴンに聞こえるよ。見つからないようにちょっとだけだよ」
その時大きなはばたきの音が聞こえた。ドラゴンが洞窟の中に入ってきた。時々火を噴いたりする。僕達は慌てて岩の後ろに隠れた。時々火を噴きながら宝が全部あるか確かめているようだった。そして色硝子がなくなっていることに気がついたドラゴンは怖ろしい声で吼え、いっそう激しく洞窟の中は炎に包まれた。
「危ない、背に飛び乗ろう」
「ああ、俺もそう思っていた」
僕達はドラゴンの背に飛び乗った。ドラゴンは怖ろしい声で吼え、暴れ続けた。僕達は振り落とされないように必死で捕まった。やがてドラゴンは洞窟を出て空へと飛び立った。
「やったー」
「空を飛んだー」
だが僕達は喜んでばかりもいられない。高い空から振り落とされないように必死でしがみついている。ドラゴンはどこまでも高く飛び続けていく。雪の山も見る見るうちに小さくなり、やがて何も見えなくなった。どこまで飛んでいくのだろうか。不安と期待で胸が一杯になった。
−つづくー
後書き
久しぶりの指輪の話の更新、話をあわせるために前のページも読み返しました。こんなこと書いていたんだーと(汗)海賊はやっぱり海賊で危険な目にあっても、お宝を持ち帰ることを第一に考えるようです。ファラミアに軽蔑されないか、一応気は使っていますが・・・
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