大学生向け

必読書(文理不問)

・『新版 論文の教室』戸田山和久 NHKブックス

 レポートや論文の書き方を会話形式で説明しています。レポートや論文が感想文と違うのはどこでしょう。この本を読むとわかります。また、初めてレポートを書く人にありがたいのは、注や引用、参考文献の扱いを説明してくれているところです。大学生にはぜひ読んでおいてほしい本です。出版元のNHKブックスには良い本がたくさんあるので、気軽に「ぶっ壊す」などと言ってはいけませんね。

・『人工知能のための哲学塾』三宅陽一郎 BNN

 文系・理系問わずに読んで得るものの多い本だと思います。人工知能(AI)やプログラミングという言葉が独り歩きをしてみんなが漠然としたイメージで語ってしまっている印象があります。この本を読むと、人工知能とはどんなもので何ができ、何ができないのか、人の意識とは何が違うのか、そんなことがわかります。また、哲学についてもわかりやすく概念を説明しているので、哲学を学ぶ人もぜひ読んでみるといいと思います。東洋哲学篇も出版されています。

・『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』東浩紀 講談社文庫

 公民や倫理でおなじみのジャン・ジャック・ルソーの一般意志という概念、精神分析の創始者フロイトの無意識という概念に、グーグルに代表される現代の技術からの視点で新たな光を当てた、たいへん素晴らしい著作です。アマゾンの紹介文を引用すると、「民主主義は熟議を前提とする。しかし日本人は熟議が苦手と言われる。それならむしろ「空気」を技術的に可視化し、合意形成の基礎に据える新しい民主主義を構想できないか。ルソーの一般意志を大胆に翻案し、日本発の新しい政治を夢想して議論を招いた重要書」です。この本が素晴らしいのは、過去の概念を現代の技術や状況で読みかえ、いまに生きるように捉えなおすという、人文学を学ぶ意味、理想みたいなものをすごくきれいに論理的に形にしているところです。『観光客の哲学』という本も素晴らしいのでおすすめです。ルソーに関しては、『悪魔と裏切者 ルソーとヒューム』(ちくま学芸文庫)を読むと、彼のダメ人間っぷりがわかります。たいへんな人です。いまでいう「めんどくさい人」ですね。しかし、そんな人が民主主義に不可欠の概念を生み、最も重要な本を残しているのだから、人間とは不思議な生き物ですね。それと、東浩紀の文章は論理的でクリアなので、頭に入りやすいです。ちなみに、「東浩紀の文章を読んで頭に入らないときは頭が疲れているとき」というのが、自分の疲労の基準です。本当です。

・『裳華房フィジックスライブラリー 物理学史』小山慶太 裳華房

 大学のテキストなどを出版している裳華房の「フィジックスライブラリー」の1冊です。ニュートン力学の誕生する17世紀から20世紀後半までの物理学の歴史がとても読みやすく書かれてます。「まえがき」にたいへん素晴らしいことが書いてあるので引用します。「例えば重力の法則それ自体は、ニュートンによって発見された17世紀でも今日でも、その普遍性は保持されている。そもそもが、重力は発見される以前から、宇宙全体に変わらぬ作用を及ぼしていたのである」。どういうことかというと、重力はたまたまニュートンが発見したので現在の私たちは常識だと思っていますが、もし誰も重力に気づかなかったら、私たちは重力に影響をうけて生活しつつも重力を知らずにいたわけです。逆に言えば、私たちがいま気づいていなくても誰かが発見することによって、未来の世界では常識になっているような物理現象や法則が、いまこの瞬間にも存在し私たちに影響を与えているかもしれないのです。ニュートン力学がそうであったように、私たちがいま常識だと思っていることは、本当は狭い範囲にしか通用しないものなのかもしれないのです。似たような事例として、天文学では観測装置の精度が格段に向上したことで、いままでの理屈では説明できないような常識外れな星がたくさん見つかっています。この辺りについては『異形の惑星』をはじめ、井田茂の著作がわかりやすくて面白いです。

『数学好きの人のためのブックガイド』数学セミナー編集部 日本評論社

 えー、数学好きの人たちが数学好きの人のために数学の本を紹介するというマニアックな本です。数学好き以外には面白くないかと言うとそうでもなく、ブックガイド全般に言えるのですが、その分野ではどのような問題がどのように扱われ、論じられているのかがわかり、たいへん有益です。また、最近は人文学でもゲーム理論や統計学、あるいは複雑ネットワークなど数学的な知識が必要な理論・学問も増えています。それと、文系の人が理系では常識とされていることに鈍感であるがゆえに馬鹿にされ、挙句には「文系不要論」まで出てきているので、文系の人にもぜひ読んでもらいたいです。ちなみに文系の人が理系への苦手意識を克服する手段として、歴史や評伝から入るという手が有効です。数学の歴史とか数学者の伝記とかですね。おすすめをランダムに挙げておくと『心は孤独な数学者』藤原正彦、『ビジュアル数学全史 人類誕生前から多次元宇宙まで』クリフォード・ピックオーバー、『数学の歴史』森毅、『エニグマ アラン・チューリング伝』アンドルー・ホッジスなどなど。。。アラン・チューリングに関しては、映画『イミテーション・ゲーム』もおすすめです。それと、ポワンカレ予想に関しての本はどれもおもしろいので読んでみてください。「ポワンカレ予想」自体はよくわからなくてもとにかくすごいものですごい人が証明した、というドラマが伝わっています。最終的に証明した、グレゴリー・ペレルマンという人は証明をしたあと、表舞台から姿を消してしまいました。そこら辺のミステリアスな部分もふくめて、考えさせられます。おすすめはハヤカワ文庫の『ポワンカレ予想 世紀の謎を掛けた数学者、解き明かした数学者』と新潮文庫の『100年の難問はなぜ解けたのか』です。


語学に関して

・『英文解釈教室』伊藤和夫 研究社

 大ベストセラーなので、あまり説明をしなくてもいいと思いますが、英語の力を付けたいと思っている人はぜひ読み切ってください。受験英語のバイブルと言われていますが、大学生になってから読んでも遅くありません。伊藤和夫は大学受験英語の神様みたいな方で、著作がたくさんありますので、気になった人はぜひ他のものも読んでみてください。受験用だからといって侮ってはいけません。また『予備校の英語』は英語教育を考えるうえでとても大切な本ですので、教職を目指す人は読んでみましょう。ちなみに語学に関しては、簡単にできるようなうたい文句がついてるものはおすすめしません。できるようになるには、当然ある程度の暗記・努力を必要とするからです。

・『英文解体新書』北村一真 研究社

 昨年出版になり、話題になりました(一部マニアにだけ?)。『英文解釈教室』→『英文解体新書』と2冊読みきれば、かなり英文が読めるようになっているはずです。とはいえ、難しいものが多いので少しずつ、根気よく読み進めてください。ちなみに、著者の北村一真さんは、ツイッターアカウント名MR.BIGで英語学習に有益な情報や面白い(難しい)クイズをツイートしているので、ぜひフォローしてみてください。

・『英文法解説』江川泰一郎 金子書房  ・『新マスター英文法』中原道喜 聖文新社

 どちらも文法書です。一冊持っていると便利です。『英文法解説』の名詞構文を説明している箇所はぜひ読んでほしい。『新マスター英文法』では書き換え問題をやってほしい。ということで、どちらもおすすめです。また、信頼できる文法書を一冊手元に置いておくのは語学を学習するうえで大切なことです。

・『CNN ENGLISH EXPRESS』CNN English Express編 朝日出版社

 CNNで放送したニュースを掲載している、毎月発刊の雑誌です。紙面にはニュースの英文と和訳が掲載され、CDには実際に放送された音声とゆっくりめに録音した音声が入っています。ふつうに売られているリスニング教材はいわゆる「良い発音」で録音されたものが多く、当然そのような発音を学ぶべきでもあるのですが、この付属CDには実際にニュースで放送されたものが収められているので、日常生活ではどのような発音でどのように言語が運用されているのかを知ることができて勉強になります。そして、世界のニュースを知ることができるので、単純にそれだけでも楽しいです。最新号の2020年5月号で気になったのは、「凍えたイグアナが木の上から降ってくる」というニュース。う~ぬ。世界は広いですね。

・『ニューエクスプレス フランス語』東郷雄二 白水社  ・『フランス語をひとつひとつわかりやすく』 学研教育出版

 フランス語の入門書を2冊。『ニューエクスプレス』は中学校の英語の教科書みたいな感じで、短い会話が載っていてそこで出てきた文法事項を解説するという構成になっています。1冊やり遂げると一通り大切な文法事項は学べます。『ひとつひとつわかりやすく』の方は書き込み式の問題集ですが、あまり厚くないので、さっと基本的な文法事項を確認するのには適しています。この2冊で初級~中級の文法事項はだいたい学べます。フランス語の初歩では、男性名詞・女性名詞の区別と冠詞の使い分け、そして動詞の活用が大切です。その他の文法事項や単語は英語に似ているものが多いので、英語の文法がしっかりと身についている人はそれほど苦労しないでしょう。最近、英会話が重要で文法は意味がないという暴論を口にする人がいますが、そういう考えは他の外国語を学ぶという意識のない、非常に視野の狭い考えかただと思います。英文法もしっかりとやりましょう。

・『フランス文法総まとめ』『フランス文法総まとめ問題集』東郷雄二 白水社

 『フランス文法総まとめ』は文法書としてはそんなに厚くなくて持ち運びが便利という点と要点がぎゅっと詰まっているという点が利点です。その分(レイアウト的に)少し読みづらくなっているかもしれません。厚くても大丈夫という人はフランス文法書の定番『リュミエール』(駿河台出版社)をおすすめします。『問題集』の方は、『総まとめ』に合わせた問題集で、これは見開きの左に解説、右に問題となっていて使い勝手がいいのでお勧めです。『問題集』だけ買うのもありかもしれません。

・『名作短編で読むフランス語』尾河直哉 ペレ書房

 フランス語の小説、評論、批評とその日本語訳及び文法の解説が載っています。皆さんご存知『美女と野獣』や公民でおなじみモンテスキューやルソーの作品、フランス文学では定番のモーパッサン、ゾラ、バルザックの作品、ある世代の文学好きには響く名前のミシェル・トゥルニエやロラン・バルトなど本格的なラインナップとなっております。これを1冊読み切れたら、『ル・モンドで学ぶ時事フランス語』がおすすめです。フランスの新聞Le Mondeの記事を10~15行くらい載せ、語彙と訳例それから関連語句で見開き1ページという構成です。ただ、文法事項の解説はないので、一通り文法事項を習得しておくか、文法書を参照しながら読まなければなりません。また、巻末資料が充実していて、フランス議会の構成や新聞・雑誌などのメディア一覧が掲載されていて勉強になります。気になったメディアのSNSなどをフォローしてみるのもいいでしょう。英語圏もそうですが、TV局のツイッターが発信する予告やダイジェスト動画には字幕がついている場合が多いので、リスニングの練習にもなります。

・『独学でもよくわかる やさしくくわしいドイツ語』清水薫/石原竹彦 第三書房

 これは「独学でもよくわかる」のタイトル通り、かなり詳しい説明と問題が掲載されています。特に素晴らしいのは、数単元ごとにある程度の長さの文章が載っていて長文を読む練習もできることです。ふつうこの手の問題集、特にフランス語やドイツ語のものでは、文法問題しか載っていなくて、ある程度まとまった文章を読みたい場合は検定用問題集や原書などにあたることになるので、長文も一緒に練習できるというのはたいへん便利で心強いです。そして、それほど厚くないというのも魅力の1つです。ちなみに、ドイツ語は習い始めのポイントとして、フランス語と同様、男性名詞・女性名詞とそれに伴う冠詞の区別、動詞の活用のほかに、「格」という厄介な奴が存在します。日本語のてにをはに相当しますが、冠詞含め様々なところに影響するので、覚えるまでは厄介というか…まぁ、面倒です。その代わり、語順は比較的自由なので、「格」を理解して単語を覚えるとある程度の文章が読み書きできるようになります。

・『NHKラジオ まいにちドイツ語(2019年4月号~9月号)』 NHK出版

 NHKラジオで放送している「まいにちドイツ語」のテキストです。2019年の4月号~9月号がおすすめです。少しばかりマニアな話をすると、NHKの「まいにち~語」シリーズは6か月毎に講師の方が交代し(時々再放送をする)、その時々で各先生方の特色が出るものになっています。そこが魅力でもあるのですが、ただどの講座も基本的に会話を意識し、「こういう場面ではこう言います、練習してみましょう」的なものが多いです。ある程度文法の知識がある人が会話の練習にするのには良いのですが、文法事項を学びたいという場合には不向きです。しかし、2019年4月~9月号の高橋亮介先生による「スッキリ!はじめてのドイツ語」講座は、文法の基礎から説明してくれているので、初学者にもおすすめです。短い会話→文法説明という、中学の英語教科書方式で進み、1回の分量がそれほど多くないので取り組みやすいかと思います。別売りでCDがありますので、リスニング・発音の練習もできます。NHk出版は良い語学書をたくさん出版しているので、やはり気軽に「ぶっ壊す」などと言ってはいけませんね。

・『マイスタードイツ語コース』関口一郎 大修館書店

 これは1~3のシリーズものですが、読みやくてタメになると評判です。著者の関口一郎は、お祖父さんがドイツ語界で知らぬものはいない関口存男で、祖父が大物有名人という意味ではドイツ語界のDAIGOと言っても過言ではありませんね。祖父の関口存男の著作はドイツ語を本格的に学ぼうとすると避けては通れないのですが、時代が古いので現代の「親切な」文法書に慣れていると少し辛いかもしれません。その点、一郎の『マイスター』は読みやすく、しかも内容も素晴らしいのでおすすめです。ちなみに、お祖父さんの話ばかりで恐縮ですが、最近『セレクション関口存男』という本が出版されていまして、『ニイチェと語る』『和文独訳漫談集』どちらもおすすめです。ちなみに、ニイチェは「中二病」という言葉が流行っていたときに、「中二率No.1哲学者」「人類史上最も中二な哲学者」「人類が到達した中二の臨界点」などと一部で話題でした。『この人を見よ』という本の目次を見ていただいたり、『ツァラトゥストラかく語りき』などを読んでいただけると、「あぁ。。」と苦笑いとともに納得できると思います。