U-10 カートリッジ遍歴 DL-1000A

 キャスリーンバトルも、金っぽさなくビブラートが綺麗。テラーク盤1812年も、0.8gで苦もなく、すらすらとトレースします。拍子抜けするほどハイファイ臭さのない癒し系カートです。中音量以下では素っ気なくも感じられます。DL-305の方が、メリハリがあって硬軟鋭さと柔らかさを描き分け、音楽の楽しさを表現します。

 大音量にしたときもDL-1000Aは、きつさやとげとげしさ皆無、どんどんボリウムを上げていっても苦にならないのです。今日の正月は、家族が初売りに惹かれて街に出た留守番をよいことに、家を揺する音量の快さを体験しています。
                 02nd Jan.'07

 しかし、これらのインプレッションは、DL-1000Aの一面に過ぎませんでした。名機は使い方を要求するようです。それから数年後、純正トランス AU-1000 とOrtofon 8N フォノケーブルを繋いだ時、初めてその表現力に脱帽しました。2010年現在、予備と2本手元にあります。
  明けましておめでとうございます。2007年正月2日、家を揺るがすような音響に浸って正月を楽しんでいます。最近聴く曲の多くはポップス系、それもいにしえの美人シンガー達(笑)。ソースは、当然当時のレコードです。オリビア・N・J、シーナ・イーストン、マライヤキャリー、高橋真梨子、久保田早紀…。そして、時折、神田川が流れ、井上陽水や中島みゆき、アリスまで歌いだします。

 青春時代の記憶、切れ切れの記憶シーンのバックには何か音楽が重なります。北の海辺の街、往診路の道すがら、積みあげられた木材の下からいつもキタキツネの子供たちが並んで顔を出し、中島みゆきの『一人上手』が流れていました。なぜか、このシーンと曲とはセットになって想いだされます。最近、そういった沢山の青春シーンのバックミュージックを、突然聞いてみたくなります。

 中古レコードをシンガー毎にまとめてセット販売する業者を見つけました。時代遅れのポップスシンガーの入札で競りあいになることは稀、一気にシンガーの実力を集中試聴で確認できます。例外として、山口百恵のセットでは競り合いとなって高価落札となりました ^_^; これらのレコードを試聴すると、現代ポップスのCD盤より遙かにハイファイで、単発ヒットで消え去ったシンガーと、生き続けるシンガーとの歌唱力の差、歌詞のメッセージ性や曲作りの優劣、録音技術にこめられた情熱にら歴然とした差があります。

 audio的な楽しみは、カートリッジを替えて表現がどう変わるかと云う点にありますが、まずはシンガーと曲の資質を認めた場合に限られます。間違いなくカートリッジは、レコード盤に刻まれた歌い手の力量を描きだします。この小さくてデリケートな宝石箱の魔力にとりつかれ、YAMAHA MC-1000の後継を求めて1年、ついにそのMC-1000も逝って、最近、どうも邪道に奔りつつあります。

 カートリッジの性能がトレーサビリティだけでないことは百も承知で、トレース能力の高いカートリッジを求めます。手始めに、テラーク盤チャイコフスキー大序曲1812年を試金石として、実践体験をWebでリサーチしました。ミミズが這ったような、目視できる低周波数の音溝はデジタル録音の産物です。しかし、CD時代が始まってもなお、それをカートリッジで再生しようとした、アナログ時代最後の技術的挑戦が愉しく、そこで誕生したハイコンプライアンスカートの名品を求めたいのです。

 アームとカートリッジの相性、針圧、そして何よりもアームの感度、当然のことコンプライアンスこそトレース能力と最も深く関係します。そこで、再生出来たカートリッジとトーンアームのフィールド統計で、入手すべきターゲットを決定することにしました。結果は、DL-301,DL-305で、やはり国産名機DENONと出ました。私のYAMA HAは使用者が少ないようです。トーンアームは圧倒的にSAECでした。

 丁度、取引のあるショップのセールに、中古DL-1000Aが出品されました。DENONがアモルファスボロンをカンチレバーに、小型のスタイラスチップと軽針圧、ハイコンプライアンスMCを追求した逸品がDL-305でした。数年後、そのノウハウを注ぎ込み、振動系の最軽量を目指したのがDL-1000で、断線多発に困ってコイル.線材や巻数を替えた改良型がDL-1000Aです。

 先の結果からして、DENONの最上級機ならトレースばかりでなく、表現力も間違いなかろうと入手しました。実測F特図では、実にフラット指向で20kHz迄完全フラット、25kHzあたりから上昇して50kHzで4dbアップです。試聴アームはWE-308N、サブウェイトを利用して18gヘッドシェルをセット。0.8g印可で、歪みのあるレコードでは上下ツイスト盛んで冷や汗もの。誤って、針圧を1.6g程かけると、へこんで落ち着きましたが ^_^;
 0.8gの軽針圧では、手前のDL-305の磁力と引きあう力の方が上、突然D L-1000Aがレコード盤から飛び出して両者合体!幸いDL-1000AがTT外周とアームレストの僅かな間隙に入り込んで、折損を免れました ^_^;