珍しいカートリッジを入手しました。ハイフォニック MC-A6 ですが、詳細不明です。手元のAA誌92年の冬号で見る限り、ヘッドシェル付で68k円、空芯コイル、針圧1gで、出力0.12mVとあります。

 ハイフォニックはDENONにいた技術者が興した会社ですが、80年のDL-305、82年のDL-1000Aの流れを継ぐ製品でしょうか。独立した技術者が、その後どんな音をめざしたのか、技術の継承を知る楽しみがあります。そこで、それらの事情と、MC-A6 の発売はいつ頃だったのか、Webで知恵者の皆様にお尋ねしました。 

 ハイフォニック社を興したのは、DL-103を開発した技術者であり、初のカート発売は1982年12月、MC−A6の発売は、翌83年10月とのことです。ですから、DL-305の開発に加わっていたとしても、DL-1000にはノータッチの技術者となります。DL-1000AとMC-A6とは、国産ローマス、ハイコンカート全盛期に、かつて同じ釜の飯を食った仲間同士が、その技術を競いあった機種のようです。

 MC-A6の外観は、筐体ボディがアルミ削りだしで、後のortofon MC-X0Sシリーズに似ていますが、ややスリムです。アルミカンチレバーの材質も共通ですが、極めて細く見た目はaudio technicaの上級機種並です。早速、比較試聴を行いました。トーンアームのサブウェイト印加ゼロ点バランスは、audio technica AT-LH18+DL-305にあわせてセットしています。MC-A6はDL-305より1g重いことを考慮して、ヘッドシェルはAT-LH
15 OCCを採用、鉛板でゼロバランスをとって、1g印加で音出しです。

 同じ血を引く兄弟なれど、袂を分かった技術者が作った、DL-1000AとMC-A6とはかなり性格が違います。
DL-305の几帳面、DL-1000Aのすらすらメロウに対して、MC-A6の印象は、上下にストレスなく伸びた広い帯域と華やかな高域です。低域は深く下がり、高域は繊細で情報密度高く、すこぶる賑やかでありながらうるさくはありません。繊細で爽やか、聴いて飽きない不思議に愉しいカートです。ortofon MC-30Sに通じる楽しさですが、MC-30Sの高域が強く張る感じに対して、繊細に分解し、余韻感をもって昇華される。うるさく感じないのは、軽量振動系の歪みが小さいのでしょう。 

 極めて軽量な振動系、空芯コイル、これらがアルミ構造体と共振によって作られる音質は、DENON系の音と、ortofon 系の双方良いところを備えています。ボディ構造がortofon MC-X0S系と似ていること、軽量で低歪みな振動系がDENONの血統で、この音質特性につながると推定されます。欠点は、ニードルの追従性はよいのですがダンパーが縦揺れに弱く、レコードに反りがあるとポコポコという低域雑音が付帯します。
U-14 カートリッジ遍歴 HIPHONIC MC-A6

 これで、私のカート遍歴も一段落したように思います。

 オーディオの魔力は、美音を求めて次々と際限ない深みにはまることです。自分のめざす音の佇まい、どこか違う、ここが物足りない、という断片的な欠落感と、満足できる美点との接点で、どこかで終点を迎えなければなりません。

 いま、MC-A6の音に触れて、YAMAHA MC-1000を失った喪失感、まるでペット・ロス・シンドロームのような状態からやっと抜けて、快さに浸ることが出来ます。

  オーディオは、人にとって快いことがスタート点であり、終着点です。そして、密かにあこがれの夢を持つこと。それは入手しない方が幸せです。夢は夢であり、手の届かない高みにある方が、遙かに美しく輝くものです。
       01st. Apr.'07
アルミボディ構造のよく似た
Hiphonic & ortofon MC-30S