U-16 室内音響インプレッション、吸音と反射

 V-23話以来、LP再生における微弱ピックアップ情報の脆さを電子面から保全すべく取り組み、一区切りついて実用新案出願しました。来春にはご紹介できそうです。レコードプレーヤー再生研究なるWebの場で、「電子面からアプローチ」発言したところ、たいそう自信家らしき方から、「LP再生を素粒子学で対応する異常者」呼ばわりされた。何ともオーディオ魔界を覗いたような気分、その排他的独善性は無残なオーディオの現状を暗示します。

 オーディオは好みの音響を愉しむ趣味ですから、多分に個人的嗜好に支配されます。快く感じる音響と好みは、音楽ジャンルや音響体験によって違い、甲乙優劣はありません。このことを自覚しないと、オーディオの楽しみは半減、自我だけ肥大して諍いを引き起こします。Web管理者は公平さと果断な措置の責任を担わねばなりません。

 自宅から3km程の間近で、同好のT氏はDS-20000B Klavierを使用しています。めざす方向は異なりますが、音響制御技術は参考としてかなり影響を受けています。最近、新対策ができたからとお誘いがあって、久しぶりに訪問。部屋に入って驚いたことに、壁や天井にはサイコロ状ブロックの凸凹オブジェが貼り巡らされています。発泡スチロール製のいわゆるオーディオルーム用調音パネルで、某オークションで10枚ほど落札したようです。

 ソフトはCD、200V別電源の配線と電源アイソレーター、AccuのCDPとアンプのBTLブリッジ接続です。Klavierは4台入手して2台放出、良い方の1セットを利用中とか、生産数は400台ですから1%を独り占めの贅沢。根っからのDIA党で、DS-1000、2000、20000、そして20000Bと展開。試聴開始前に新規導入機器の解説、ケーブルを検討中とのことで、ここは私の試験中のノウハウも開示して、しばし技術論。

 さて、試聴開始。おっ、これは以前聴いた音響と違う!無響室のようにデッドである。といっても無響室体験はありませんが、音の粒立ちとかトランジェントが良いとか云う前に、これは未体験の異次元音響です。持参したショパンのノクターン20番、この短くも美しい調べが音は綺麗でも響きがない、というより高域のさわやかさアコースティックな倍音域が伸びない。弘田三枝子も然り、持参した3枚から1曲ずつ聴いて、考え込みました……。

「音の綺麗さと定位の良さ、左右方向の位置表現がみごとですね。」
「コントロールアンプの力です。反響や雑音を押さえて、アンプの力でソース内容が素のまま出ていると思います。」
音響再生のライブとデッドは好みの違いと思いつつも、クエスチョンを一言、「自分の装置と較べて奥行き方向の表現ですが、ボーカリストが奥まってバックバンドが手前で鳴るのはどうしてでしょう?」

 部屋は和室で元来がデッド、制音対策はビロウドとブチルを張り込んだ反射板と発泡スチロール。国産第一級のモニターSPから美音を聴きたいと、鋭い高域を吸音して硬さを取り、低域を出すことに努力しているか。SP後方すべてを吸音するのは自分と180度反対の対策で、Klavierの美音を殺しているように思われたのです。

 ホストとしてT氏がご準備された中島美嘉と井上陽水を聴いて、あっと云う間の数時間。自宅に戻って持参したCDを再度聴いてみました。一つ一つの音の鮮度はいざ知らず、音響反射が主で吸音は最低限、安らぎながら愉しい好みの音響。じつは、木質系の音を如何にさりげなく乗せるかという邪道も(笑)
 
 一週間ほど過ぎた週末、T氏から訪問したい旨のメールが届きました。「左右のセパレーションについては腐心して研究したつもりが、ヴォーカルの定位については全く盲点、初めて気がついたが、それが気になって……。」 早速電話して、私一人だからと即日実施。苦心の成果に対して、疑問符は痛いところを突いてしまったか?

 私がめざしている音場感と、高域がさわやかに伸びきったソフトを数枚。山崎ハコのファーストライブ盤、これは録音が良く、聴衆が泣いたという「サヨナラの鐘」から始めた。全身が耳になったようなヒアリングは、言葉を挟むのがはばかられ、用意した曲を選択的に再生した後、T氏の好きな八神純子をかけ流しながらの独り言。

「好みの音楽を快い音響で再生するにしても、ヒアリング環境と好みは千差万別ですから、これでなければならないと云う決まったルールはないと思います。あくまでも自分のやり方ですが、ピュアーな音と同時に音場再生も大切にします。音の反射、吸収、共鳴の三要素をどう組み合わせるか。一律に吸音ではなく、何処を吸音し何処を反射させるか、音響全体をどのように整えるか、それが旨くできると耳に刺さる刺激的な歪みも消失するように思います……。」

「国産ハード系SPの優秀さを高く評価しますが、初めて聴いたWestminsterの音に包み込まれる印象は強烈でした。高い鮮度の音に少しだけ木質系の響きを与え、それから三要素を考えます。SP側は反射、ヒアリング側背面は木質系の吸音です。動かざるべき支点は動かさず、動くべき点はできるだけ動きやすく……」

 気が急く様子で、用事があるからとお帰りになって、今朝メールが入りました。
「……セッティングを見聞きし、あらためて小生宅との比較及び小生宅のセッティングについて再確認をすることが……、SPの上にTGメタルインゴットの重しを取り除いたところ、多少「響き」が戻ってきました。……SPの共振を防ぐ目的でTGメタルを乗せたんですが、どうも必要なかったようです。これまた故長岡先生の得意技(全てのオーディオ機器の天板にTGメタルを乗せる)でしたが、氏は天板はダンプしても、脚はブチルを使用することはなかったんですね。私は上下ダンプしてたんで、SPの「響き」が失われていたのでしょう。……」
                                                    26th. Nov. '11