U-19 LP再生にこだわるシェルリード線考
 久々の更新 ^_^; 今回のテーマは趣を変えて、既存製品評価ではなく、仮説と独善の試みに基づくノウハウを開示します。興味のない方はパス願います。電線病に興味ある方は必読です(笑)

 再生音響の嗜好と評価は、音楽ジャンルと聴き方で千差万別、その評価が正しいとか間違いだとか云えません。豊かなホールのプレゼンスを求める音場派とSPのダイレクトな音を求める違いで、前者は空気感、後者はパワー感に重きをおきます。自分は前者で、アクースティク音響が空間に満ち、間近に女性ボーカルの吐息を聴く、空間表現を求めます。重視する一つは自然な帯域レンジ、今ひとつは写真で云えばラティチュードの濃淡、陰影感とかディテールと云えます。パワーを上げたカートリッジにありがちな傾向として、ハイキー写真のように、中間値部分が飛んでしまって平板に感じます。結果として好みは空芯コイルMCタイプに傾きます。

 LPの音質を追い求めてリード線と戯れていますが、遠い昔FR-1 MkVの内部配線にあわせてentre'の銀リード線を使用したのが始まり、バブル期になって導体が華やかにクローズアップされ、SPケーブル極太になった頃には電線病に感染しました。それまで常用のATヘッドシェル付属のリード線は ortofonの7N-LW1と8N-LW10に替え、さらにリード線も太くすれば導電ロスが減少して音質が向上するかも知れない、と考えました。

 ネットで太めを特注してコストがあわず、自作を始めて導体断面積が2mm2を超えるリード線を試作したり、今もその試聴サンプルがあります(画像1の左)。撚線は素線数が増すほどにワイヤー状に剛性が高まるため、鎖なら可撓性があると編線構造を思いつき、弓道具の紐細工を応用しました。残念ながら、取付に難儀したり、音質が低域よりだったり、予測した成果はなし。しかし、これをきっかけとして同素線材で同本数の撚線と編線で音質比較を試み、高域の伸びやかさと音場再現性において編線構造導体が優れていると気づいたことは、大きな収穫でした。画像は全て編線構造導体ですが、スキル向上と音質に関わる要因を解析するほどに、音も形も次第にスマートになりました(笑)

 この頃、長く愛用しているSPケーブルFURUKAWA μーS1の設計者根岸氏から表皮効果についてご教示いただき、低域情報電流は導体を一様に流れるが、高周波数となるほど導体の表面を流れること、これは高周波に関する理論だがオーディオ帯域でも認められると知りました。これによって先の撚線と編線構造による音質の違いを説明し、さらに低域情報電流と高域情報電流の比をコントロールすれば、音質に関わる帯域バランスを制御できるのではないか?

 すべての試作導体について、導体断面積(πr2)と、導体1mm長の円周表面積(2πr)、およびその比を数値化して試聴結果と照合し、これを1年半程行った結果を纏めて、音質をコントロールするノウハウを得ました。

 例えば、直径0.3mmと直径0.1mmの素線材で、同じ導体断面積として(等しい電流量、言い換えると電流ロス)リード線導体を試作する場合の音質推計試算では、0.3mm径×6本と0.1mm×54本で導体断面積(S)は等しく0. 424mm2で、前者の導体円周表面積(C)は5.655mm2、C/Sは13.3となり、後者の場合、Cは16.965mm2、C/Sは40.0、両者の電流ロスは同じでも、C/S値が大きい程表層を流れる高域情報成分が増加し、逆は低域を増強します。単線に近いほど低域情報は強まる傾向となり、多数の細線構成は高域情報伝達に有利となります。

 このデータと、更に導体構造が音質に関わります。撚線と編線の違いは見た目であきらか、撚線はスマートで均一、編線は節くれだって太くなります。多数の素線からなる撚線導体は、密着した素線間の電位差が等しくなるよう素線側面で横断的に電流が流れ、単線導体に近い特性となります。編線構造では、素線がそれぞれがより独立した導体となって、相対的に表層を流れる高域成分比率が高まります。導体表面の酸化皮膜除去と、各素線を絶縁したリッツ構造導体は、高域再生にとってさらに効果的となります。 つまり、導体素材線固有の音質だけでなく、素線の構成や導体構造も、リード線の音質に重要な要素なのです。リード線試作毎に試聴とこれらのデータを処理し、自分で高評価した試作サンプルを、信頼できるモニター数人に送って音質評価を募りました。後に、この結果をまとめて特許出願し、費用があわず実用新案登録しました(第31749 68号、コピー禁)。

 こうした試作でラインナップしたのがSeirenで、このモデルに関してユーザーから寄せられたインプレッションは、ほぼ完全に自分の意図を満たしています。最新作Museでは、これまで満足できなかった高純度銀線と、高純度銅線を同等レベルで取り扱うノウハウを得ました。現在DL-103GL, DL-305, Hiphonic MC-A6を鳴らしていますが、上級リード線を凌駕します。Museモデルでは、同じ素線材で規格と構造の違いで音質が大きく異なることを体験していただこうと、試作段階のモデルも提供しています(画像2)。編線導体の問題点は、撚線導体製作の20倍以上の工作時間と、素線ロスが大きいことで、この生産性の悪さをそのまま価格転嫁はできません。つまり、工作時間を労賃見積もりできず、零細な内職でのみ成り立ちます。
                                                    11th. Aug. '13