U-20 LP再生にこだわるプレーヤー考
 最近、音の嗜好性は年齢と関係するかも知れない、と思うことがあります。僅かばかりのドイツグラモフォン盤でクラシックを聴いた20代では、雄大なピラミッドバランス音響が好みで、銀線カートリッジでは高域がうるさく感じました。最近は高域がよく伸びた録音盤でなければ満足できず、高純度銀線導体の高域にしびれるような快感です。考えられる事は、高域感度が低下したこと。前19話で触れたFR-1 MkVの銀線導体使用で、高域がうるさく感じたのはあるいは高域感度の良かった聴力が関係したか。最近はテストCD盤でチェックすると、左は人並だが右は10kHzが怪しい。弓道を長くやっている同好仲間に訊ねたら、おしなべて右耳が悪い。高齢者として扱われる年代と右耳の難聴傾向は共通で、数十年間その側を通過した鋭い弦音に痛めつけられた結果か?

 今回は、器機やパーツの比較試聴体験で感じる、最も音質評価に影響するF特再生傾向を重点として、愛用のLUXMAN プレーヤー3代の比較です。バキューム方式に惚れて、1980年にPD-300を購入し、後にPD-310、PD-350と増設。すべて耐用年数を超えているが、スウィッチはリレーに換え、クリスタルや ICはディスクリートで組み替えています。バキュームスタビは全て完全無欠、この保守ノウハウはいずれ公開予定。

 PD-300には、複雑な電子部品の塊のような別電源バキューム装置がなく、シンプルな鞴(ふいご)で吸引、モーターは後継機のPD-310より良質でワウフラ僅少、ベルト駆動で3.5kgのターンテーブルを回す。この前近代的メカが気に入って、DL-1000Aを2本と専用トランスAU-1000と組んでリフアレンスとし、リード線の最終比較評価等に用いたりします。アンプまでの結線はほとんどortofon 8N導体で、SN比、明確な音像フォーカスとラティチュード、音場立体感、音の軽やかさと、音質的不満なし。

  PD-310は、モーターの起動トルクが弱く、時にはスタート時に手回しサポートを要したり、ワウフラも大きめ。前モデルより低価格設定したコストダウンの結果か。しかし、低トルクが幸いしてか、ボディ上面に聴診器をあてるとモーター回転雑音は他機種より小さく、再生時のSN比も良い。ハイインピー系カートリッジの比較試聴は、これと先のリファレンスとで行います。

 PD-350とのつき合いは数年前からで、ローインピー系カート専用としています。ターンテーブル重量10kg、アームベース単体で2 kg、高級感に満ちた仕上げで重厚な外観。しかし、使いこなす上で癖が強いと感じます。SAEC WE-308SXを正規の二倍ほどの真鍮製アームスタビライザーでセットしたら、何とも異様にネクラな音になり、アームとの相性が悪いかとWE-407/23と換えても駄目、スタビライザを正規品と換えたら問題解消。過大な重量でアームベース部を固めると音は死ぬという不思議、この過大スタビをPD-300にセットしたら、こちらも実にバランスの良いF特再生になり、両機種ともめでたしめでたし。

 実は、このことが今回のメーンテーマで、重厚長大がもてはやされたオーディオ全盛期、それには異論があって、音質改善の試みを突き詰めて音質本意で評価してみると、”最適バランス点”があることに思い当たります。同様の体験はリード線でもあって、導体断面積が過大なリード線の試聴インプレッションで、日常音楽に触れる方から、『ヴァイオリンがヴィオラに聴こえます』と。そこで、前19話で開示したS値とC/S値を調整して再度試聴を依頼したら、これは素晴らしいと絶賛 ^_^;

 以前このような事実をSNSサイトで述べた事がありますが、そこの執筆主幹を気取る方から、インチキ業者のトークと片付けられました ^_^; オーディオ趣味人の中には、科学的姿勢で実証することなく、先入観で断定する方も多い。江川三郎氏は常に実証を尊ぶ姿勢でこの風潮に一石を投じ、師と仰いで当方もいろいろ実践しましたが、結果は失敗も多々…… ^_^;


 当初のサブテーマに戻って、最近思うこと。低域重視の器機評価では、『これは若手リーダー主導で開発したかな?』、高域が良く伸びていると『これはベテランリーダー主導かな?』、天井が低く音場感の乏しい再現性だと、『CDで育った世代がリードしたか、コスト削減要請の強い環境かな……』と (笑)
                          16th. Oct. '13