実行した試みはカテゴリーVの範疇ですが、今回の保全ノウハウは前章と関わりが深いので、ここで開示します。先日、リード線のユーザー様から『リード線だけでこれだけ音質が向上するなら、トーンアーム内部配線も交換したい』と、素材の提供依頼がありました。自分の体験で素人が容易に可能で低コストな音質改善手段は、十分吟味したリード線の使用で、場合によっては数万円のカートリッジのグレードアップにも匹敵します。次に対策するなら、アーム出力ケーブル、イクォライザーアンプとトランスと、さらに素線材と導体に関する音質変化について例を挙げてお答えしました。トーンアーム内部配線交換は、まちがいなく効果の期待できる興味ある課題ですが、高精度のアーム機構を熟知し、完全に元に復する自信がある場合に限定すべきです。精度の高いアームほど、内部配線材の改良効果と補修失宜によるガタの発生や強度低下、その結果不要振動によるマイナス効果等を測るべきで、危険を冒すのは奨められません。

 WE-407/23は、アームとアームレスト支持バーが一体で、リフトアップ機構はこの支持バーに作用します。実動4本のトーンアームのうち1本は、アーム内部配線交換に挑戦したとおぼしい品で、リフト機構基部の取付ネジが馬鹿になって、アームを振ると基部も可動でガタもあります。スキル不足の挑戦だったか、途中で諦めオクで放出したもののようです。いつものことですが、受け取り直後に磨き上げると愛着が湧き、返却すればいずれジャンクとして処分されると思うと哀れ、手を加えた品は旧SAEC技術者Y氏も補修を受けないだろうと自営補修を決心しました。

ガタが効果的なのはカラシニコフ自動小銃限定、LP再生器機は回転可動部は抵抗極小として軽快に、支点となる部分は剛性結合が鉄則です。ただし、最適バランス点に留意すべきです。SPを自作していた頃、若いマニアが音決めの基準にしたいと借りていって、ユニットのフランジと白木ムクのエンクロージュアの木ネジ結合が、馬鹿ネジとなって戻ってきました。限度を知らぬ若者、当時専門誌の剛体結合に関する記事の影響か、しかもARを模してか内部吸音材をぎゅう詰め、私がめざした天然木白木無垢材を使用したバスレフで英国風軽やかな音は消失、仕事上の取引先跡継ぎ息子でロックファンの大音量派が相手、笑って引き取りましたが内心まいったなこりゃ……の心境。

 くだんのWE-407/23アーム、馬鹿ネジとなった細密ネジには、機械的強度と剛性復活のためアロンα Extraを、可動部には高潤滑作用のある端子復活スプレー。間違って逆の部位に付着しないよう、分解しての作業です。結果、ガタは皆無となり動作感度も復活しました。音響器機補修ではアロンα Ex.が最適です。ただし、カンチレバー補修で3度に2度は失敗しています。剛性を求めず、接着強度を保つ目的ならエポキシが有利です。カンチレバー素材は、できるだけ硬質で軽量な高剛性素材がリニアな振動を伝える上で好ましいのですが、針継ぎの場合は多少剛性が失われてもエポキシが適すようです。もう一つの趣味の弓道でも、弓と矢の補修機会があり、弓にはエポキシ、矢にはアロンαが適です。
U-21 器機保全リペア手法

 LUXのヴァキューム・スタビ方式のプレーヤーはオークションで屡々見かけますが、ほとんどが回転コントロール系の故障か、ヴァキューム不全状態です。前者は素子の寿命で要修理ですが、シーリングパッドは良好な保守管理を行えば30年以上に亘り気密性を維持します。私の PD-300は'80年購入で33年経ちますが、吸着は100%パーフェクト、レコード片面の演奏を終えてもまだしっかり吸着し続けます。不良管理では10年程度で機能を失うとか。

 日常管理の要点は、@シーリングパッドの周辺ゴムリブが、上方へピンとした張りを保つことが肝要で、レコードをセットしたまま放置するような負荷を避けます。Aシーリングパッドは、ゴム表面の酸化、紫外線、高温、微生物等によって分解劣化します。劣化兆候初期で、パッドゴムの表面に白い粉が吹いたような状態なら回復しますが、シーリングパッドが波打つように変形すると修復不能です。直射日光や紫外線にあたらたらないように設置し、年に一度位は消毒用アルコールでパット表面を清拭すると、微生物等による分解作用の抑制に効果的です。Bシーリングパッドはターンテーブルの溝に嵌入して密着し、両者はゴムの弾力によって気密性を保っています。嵌入部のゴムが劣化して痩せると、気密性は失われます。埃とカビや微生物の進入を防ぐため、プレーヤーを”アラブの貴婦人”で覆うのは必須条件です。

 エアー漏れの多くは、シーリングパッドのターンテーブル溝嵌入部の劣化です。ターンテーブル溝に侵入した埃と嫌気性の微生物繁殖に起因しますので、補修は、パッド取り外してターンテーブル溝内を70%アルコールで念入りに清拭消毒します。溝内の汚れや劣化ゴムの残滓などを完全に取り去った後、50%程度の稀アルコール液を僅少量加えて粘稠度を下げた木工ボンドをパッドゴムの挿入面に塗抹して嵌入すると、気密性は回復します。挿入は、パッドゴムの周辺リブが上方へピンとした張りを保つようにしながら行います。
                              2013.11.14