T-08 オーディオの系譜…ルーツみつけた
 オーディオシステムが少し変わり、やっと少し自分の求める音を具体的に表現できるようになってきました。豊かな音場感と、に輪郭がぼけることなく生々しく柔らかな人声、瑞々しい女性ボーカール、そして突然のフォルテシモの響きまでを再生すること。機器選択の放浪だけではそこに到達できず、オーディオルームの存在もあずかって大きいようです。

 機材は国産ばかりになっています。英国T社製スピーカーも候補にあげてヒアリングしましたが、中域のバランスと響きに違和感があって、Victorのハード系振動板モデルとなりました。灯りを落として、レコードを聴きながら回想していると、幼い頃のシーンが浮かびます。大きな縦型ボックスの正面に円形のチューニングダイヤル、内部で赤く輝く真空管のフィラメント……、手回しの蓄音機から出る甲高い音のSP盤のこと……。

 セッティングや機材を入れ替えながら、メーカーが目指す技術志向と変遷等、オーディオ発展史に思いを馳せることもありました。Webサイトで、トリオ製造部長出原真澄氏(出典「ステレオ芸術」69年7月号)に関する書き込みを見つけました。かつてリレー交換して返送されてきたAccuphaseアンプには、丁寧な挨拶状が添付されていました。ユーザーとの絆を思うその姿勢に感銘を受けた印象があります。

 トリオから出てケンソニックを立ち上げ、残ったメンバーは社名を変更。音にこだわった製品では、企業としては立ちゆかず、量販店向けローコスト商品開発への転換。企業としてやむを得ない戦略であろうとも、生み出される製品への絶望、経営戦略と技術との葛藤……。あるいは、企業が成長発展する過程で、技術と経営との確執が生まれたのか。オーディオの発展を支え促したであろう、優れた技術者たちのオーディオ起業と技術移転といった、さまざまなオーディオシーンを彩る陰のドラマが想像されます……。

 春日二郎氏のWebサイト「オーディオつれづれぐさ」を読みました。12章とあとがきからなり、わが国と世界のオーディオの歴史、それらに係わった創業者たち。技術革新の時代まさに背水の陣で望んだAccuphase の創業!ハイエンドオーディオを生み出し、育てた春日二郎氏の畢生のエッセイに感動しました。

 圧巻は、P―300がラジオ技術社主催のコンポ・グランプリで金賞に選ばれたニュース。第3回までは金賞の該当がなく、初めての歴史的受賞の瞬間を活写しておられる。「開会の挨拶のとき出原眞澄常務(当時)から突然これを発表した瞬間、ウォーという声が一斉に起こり、たちまち飲めや歌えの大騒ぎになり、中には泣き出す者もいた。わたしは飲めない杯を口にしながら、涙を押さえるのがようやくであった。」

「オーディオの楽しみとは、人間の感性を含めた多くの素材によって、その人独自のフィクション(虚構)を構築すること。」けだし名言、届かぬ高みに到達できた方の達観の境地です。「オーディオつれづれぐさ」最終十二章、「起業と人生」Accu phase の創業に係わる章では、思わずじんときて文字がかすみました。

 あとがきの一節です。「20世紀は科学を主体にした物創りの時代だった。しかし21世紀は、物だけの追求で前世紀に失ったものを取り戻す心の時代であろう。わたしどもは、小さな企業だが、大きな使命をもつ企業という自覚を持ち、人間にとって何が大切かを深く追求して行きたいと思う。」

 勤務先で、創設者の思いを動画記録に残そうと、密かにシナリオを書き進めていました。大学創設以来誰もやらなかったことに手をつけると、さまざまな障害にであいます。挫折しかかっては、創業者の心の深淵に横たわる深い思い(わが国初の公害、足尾鉱毒事件の農民救済運動で牢獄に収監される)、前に進むときに道は開けるという創設者の心映えと、春日二郎氏の思いがない交ぜとなって、一つ一つ心に重くしみました……。

                                                   01st Apr.'06

 トリオとアキュフェーズとケンウッド……。思わず、深夜に利用しているサブシステムを見上げました。皆が寝静まった深夜、感性にあったセットから流れる音と語りを聴き流しながら、さまざまな思索の時間が広がります。

 同じ技術者の手になるものではなくとも、優れた技術者から受け継がれた遺伝子は、ユーザーがその製品を選択するとき感性に共鳴する何かインスピレーションが働くかも知れません……。

 武道の世界では流派の作法・技術等を、「免許皆伝」「一子相伝」として次代に伝え、流派の系譜ができます。スポーツとして大衆化されると、そこにはカルチャー化と画一化が生じます。弓道も教本が発行され、射法が統一され、皆同じ射形となり、流派弓道は異端視される時代になりました。
http://www.audiosharing.com/people/kasuga/tureduregusa/tureduregusa_1.htm