T-11 オーディオ Now

 最近、ケーブル論議も一段落したようです。一時期、mあたりン万円とか、中にはン十万円とか、思わず絶句するような宣伝が専門誌をにぎわしましたが、何でもありのオーディオ世紀末を感じたのは私だけでしょうか? 価格イコール品質ではないことに皆が気づいて、商売にならなくなったのかも知れません。といっても、私は導体の効果を高く評価しています。物性と物理性は、導電性に大きく関与します。

 電源もしばしば話題となります。オーディオ全盛期、Technicsのバッテリー電源機器は透明度が優れると評判でした。私は転勤族で、さまざまな電源環境を体験しましたが、工場に隣接した社宅は、省エネインバーター機器のオンパレード、深夜までモーターや冷蔵冷凍機器がフル運転を続けて、急激な電圧変動もありと最悪の環境、音が濁ってざらつきました。愛車のFM放送が、オーディオ装置より遙かに上質な音楽を再生しました。乗用車には電子機器やディジタル回路がまだ搭載されていなかった時代です。

 終(つい)の住まいは、商工業地域や都心部から離れた住宅専用地域で、しかも発電所からの高圧送電線から、都市部への最初の電力供給地にあたります。現在、オーディオルームの電源系に特別な機材は使用せず、一般屋内配線材でブレーカー別立て線を引き込んでいますが、同じシステムを使用しても、音の鮮度と透明感が明らかに違うようです。

  オーディオやるなら都心部から離れて、電子機器や工場の動力、ネオンサインなどの影響を受けない静閑な住宅専用区域が一番かも知れません。偶然に住みついた場所が、オーディオに最適環境だったと喜んでいます。さらに、北海道では冷房機器がほとんど不要ですから、インバーターノイズの影響もありません。

 そんな環境にささやかなオーディオルームができて、やっと聴き較べたり音質評価ができるようになりました。判別できる音の変化は、機器やパーツによって違い、また、瞬時に判断できる物と、時間のかかる物があります。多くは、自分の部屋で聴き慣れた機材に繋いで断定できます。騒音の真っ只中のような家電店で、ちょいちょいと繋ぎ変え試聴しても分かりません。

 SPの場合は、音が硬いか柔らかいか、Fレンジが広いか狭いか、低域が緩いか締まっているか、輪郭が鮮明か不鮮明か、特定の帯域にディップやピークがあるか等々、最も多くの内容を判断できます。アンプは電源を入れた直後と、30分くらい時間が経過した後で全く表情が変わることがあって、判定には時間がかかります。スピーカーケーブルは、自分の機器に繋いで聴き慣れた曲をしばらく再生しなければ判定できません。音が硬いか軟らかい表現か、輪郭が鮮明かぼけるか、低域と高域のバランスがどちらに傾くか、平板な再生かデリケートな情報を伝達するか……。

 最も判定の得意なのは、アナログカートリッジで、瞬時に様々な情報を一括して、快いか不快か好きか嫌いかに二分します。CDはよく分かりませんが、プレーヤーよりCD盤の質の影響の方が大きいようです。優れたアナログカートリッジが醸し出す、デリケートな音の陰影がCDでは平板になる、というのが私の評価です。

 数年前、3代目としてDENON DCD-S10VLを購入して以来、ディジタル製品購入を終了しました。中止でなく、今後オーディオの対象とすることはないだろうと言う意味です。これを購入してまもなく、SACDという新しいフォーマットが発表されました。雑誌購読をしなくなってから久しく、技術展開に疎くなっていました。CDが開発されて20年にも満たないのに、新フォーマットを展開というのは技術的怠慢です。当時、オーディオが到達していた水準からしても、ディジタル技術開発者と製品戦略を担った者が 「分解能16ビット、高域限界は20KHZでよかろう」 と合意したことは、技術的怠慢として許せません。

 勘ぐるなら、「意図的陳腐化」を、オーディオ機器にも適用したのかも知れません。アンプ技術はその遙か以前から、音の改善に優れるFレンジはDC領域から100KHZにも及んでいました。CDフォーマットと基本スペックを低レベルで妥協した要因は、ディジタル技術の進歩とメモリーデバイスの開発に不安があったからと弁解するなら、それもディジタル技術者として怠慢に他なりません。


 私の貧しいオーディオ趣味を支える密かな楽しみは、ほんの数万円のカートリッジ交換で、機器を交換するに等しいくらい音の表情と雰囲気が変わる楽しさです。ただし、最近の新製品はばかげた高価格ですから、もっぱらオークションで入手しています。どん底まで凋落したディジタル時代のオーディオ技術展開として、一筋の展望……。もし、CDPピックアップ部、あるいは音に影響の大きいデバイス回路を、交換可能なアセンブリーとして、数万円のパーツ交換で様々な音の表情変化を楽しむことができたら……。夢でしょうか?

                                                  15th.June '06