T-12 レクイエム 愛しのアナログたち
 今回のテーマ、テープレコーダーに触れるのは初です。audio黎明期、当時の物価水準からするとレコードは高価で、膨大なライブラリーなど望むべくもありません。5素子のアンテナを立ててエアーチェックというのが一般的で、FMファンなる雑誌が人気でした。60年代初頭、ステレオ録音再生ができるオープンテープデッキが現れ、自分でライブラリーを作れるというのは画期的なことでした。規格は4トラック16cm/secで、8ミリ映画フィルムとリールが互換できました。

 当初オーディオ用テープデッキは高嶺の花でしたが、TEACから6万円台が登場して、少し大衆化されました。右の写真に写っているのがそれで、正確な型番はA-2050とか言ったでしょうか。よく故障しましたが、営業の方がケアーに努めてくれました。SONY, TEAC, AKAI がオープンテープデッキの御三家、次第にPIONEERはじめオーディオメーカー各社こぞって参入してきました。どうしても外国製品という信奉者がいますから、REVOXやSTUD ERも目につくようになり、最後期には2トラ38がもてはやされました。
 
 70年代、ついにカセットデッキ登場! オープンデッキと較べて格段に操作性が良く、やがて音質もオープンデッキに匹敵するようになった何度目かの引っ越しの際、かさばるオープンテープを全て処分しました。SONYは、当時から携帯性のある機器の開発が得意で、カセットデンスケを発売、ナマロクが流行しました。私もソニーのエレクトレットコンデンサーマイクとともに購入しました(TC-型番忘れ。写真ラック下段の人影にある機器)。

 80年代、カセットテープがカーステレオの定番ソースとなり、デッキは3ヘッドで高音質化の時代を迎えました。私は、録音も可能なマイク入力端子を持ったDENON DR-F1を購入しました。背景の画像がそれです。マイクはAIWAのコンデンサータイプに代わりました。やがてほとんどのデッキからマイクアンプが省略され、私は弓道という趣味に没頭し始めて、ナマロクを卒業しました。


 アナログからデジタルへの転換期を迎え、民生用ディジタル録音再生機としてDATが開発された頃、SONYや NAKAMICHI からカセット末期の名機が誕生しました。この頃、時折ショップや量販家電店で、新型機器のチェックだけはしていましたが、CDPを筆頭にディジタル機器が席巻する売り場にはブラック一色の機器が並び、雑音がないだけの硬くこわばった音響にはなじめませんでした。そんな中、SONY TC-KA7 ESの優れた音質に惹かれ、最後のアナログ機になるだろうとの思いで購入してからは、DR-F1はお蔵入り。数年後チェックしたときには、早送りはOK、再生録音は動かなくなっていました。

 愛機TC-KA7 ESも、今はほとんど使用していませんが、先日チェックしたところ再録スピードで、きゅるきゅる滑るような音がして回転しません。早送り、巻き戻しは作動します。Webで尋ねたところ、モード切替用のベルトが伸びたのではないか、キャプスタンの回転不良ではないか、モーターからキャプスタンへ掛かっているベルトが伸びているのではないか等々推定されます。そこで、週末にはSONY サービスに持ち込みました。

 修理費は一万円弱、プラス部品代とのこと、しかし、何処が壊れていても、どんな修理も一律9千いくらという見積もりです。2日後、SONYサービスから見積もりの連絡が入りました。部品は、2002年までリペア生産していたから、「今なら安価で交換出来ます。数年したら修理代は跳ね上がります」とのこと。キャプスタンゴムなど劣化部品も交換すると、合計17k円超。

 ベルト一本程度交換のつもりが、それだけ多くの交換となると手に負えません。ほとんど使用しない実態ですから、捨てるか、修理か、to be or not to be……。しかし、アナログ時代最後の名機ですから、修理しないわけには参りません。不思議な符合ですが、一週間後の昨日、居間のSONY製TVも、受信不能に陥りました。SONYの陰謀、正確な陳腐化・崩壊設計なのか (笑)。定年間近にしてPCと弓に夢中の私、昨日XX回目の結婚記念日を迎えましたが、次の破綻は……^_^;

 さらに不幸は重なるもので、昨夜のこと、このコーナーの舞台回しであり主役を勤めてきたアナログカートリッジ YAMAHA MC- 1000 が静かに息を引き取りました。BBSの書き込みに答えてDL-305と比較試聴中、レコード最外周で切れ切れの音を出した後、内周に向かってするするとスケーティング……。なんとも、静かな臨終でした。多くのaudio機器に対して、一度は辛いマイナス点を与えた私も、なぜかこのMC-1000だけは一度もそうした思いを抱くことなく、最後の間際まで端正で溌剌とした音を奏でてくれた名機MC-1000……、感謝、合掌。

 昨日は、近所の家電量販店で液晶TVの性能比較の結果、AQUOSのフルスペックハイビジョンを購入しました。やはり、時代は高密度ディジタル媒体の開発競争の真っ只中にあります。半年前の製品と新製品とを較べると、画像の立体感やカラートーンのグラデュエーションに明らかな差があります。PCもまた、しかり。

 しかし、音楽。長い時を経て、あるいは楽器の性能は向上し、演奏会場が大きくなりオケの人数が増え、時代が好む演奏ピッチが違い、空調の効いた会場なら弦のピッチ低下や管のピッチアップがなくなったりと、そういうさまざまな変化はあるでしょうが、良い演奏であるなら聴衆に与える癒しと喜びは永遠に変わりません。近時のaud io媒体として現れ既に消えたDAT、LD、現今のCD、SACD、MD、DVD、更に今後開発されるであろう媒体は、何が残り、音楽の感動を伝え得るのでしょう……。