T-15 開発の試みで残ったものは……

 径が1mmにも満たないリード線導体が扱う電力は、SPケーブルと比較すると数百万分の1〜数億分の1でしかなく、容易にノイズや歪みが情報をスポイルします。SPケーブルは素線材と物量によって特性をバランスさせる余地がありますが、リード線は導体特性とコネクターとして可撓性の制約があります。長さ3〜4cmですから静電容量は無視できそうです。

 導体素材の純度や結晶構造と導電特性に関する理解はありましたが、周波数帯域によって導体の電流特性が異なり(表皮効果)オーディオ帯域にも影響することを知り、爽やかに高域を伸ばすには導体表面積を拡大すべきと、微細線が有利と判断しました。

 使用する高純度素材はRCAとSPケーブル由来で、前者では比較的微細線が得られ、後者では太め傾向となります。リード線用途として特性は前者が勝りますが、コストは数倍です。画像2はortofon 8N-SPK8000 の内部解析と試作品。画像3は旧いRCAケーブルの酸化皮膜形成した端末部分をカットしたりピンプラグの付け替え、この際カットした端切れ導体で、リード線としての適性を試します。

 高純度導体は速やかに表面酸化皮膜を形成しますから、この除去と被膜形成防止も難題でした。工房の規模として処理施設の必要な薬物は使用せず、安全性優先で何とか入手できました。

 導体として一般的な撚線は見た目の美観や生産性に優れますが、しかし、数倍の手間とロスが生じるのを厭わず素線間に空隙のある編線導体を試作すると、微妙な響きや空間再現性に優れたり、素線径の違いを最適配置した同心円複層構造とすることで、帯域や音場立体感の表現に優れることも知りました。

 試聴テストと依頼した複数のモニター評価で優れた試作品を選抜して、シェルリード線モデルのラインナップを揃えました。2009年4月に試作開始以来、12年6月現在、試作モデル数は52、ラインナップモデルは8モデルです。この間に試みた成果を、高音質レコード再生技術ノウハウとして実用新案登録しました(第3174968号)。

【請求項1】
 シェルリード線の導体構造を、多数の細線または微細線を編み線構造または撚り線構造として同心円状に二層または三層に重ね、径の異なる素線については表層ほど微細線となるよう配置し、それらの構造の一つないし複数を組み合わせて、「素線円周長の総和/素線断面積の総和」の比を、高純度銅素線では23〜40の範囲となるよう構成し、高純度銀素線では18〜30の範囲となるよう構成することを特徴とする高音質シェルリード線。
              (註:最適パラメータ値は非公開ノウハウ)
【請求項2】
 シェルリード線導体へのノイズ混入防止のため、防磁性のある導電性網線や網線をプリントした薄膜等を用いて、シェルリード線外装シースと一体構造で個別シールドし、または形態維持とヘッドシェルに懸架保定するフレームによって複数のシェルリード線導体をまとめてシールドしてなることを特徴とする高音質シェルリード線。

 開発とはハイリスクです。3年間の試みで残ったものは、画像1と4ですが…… (-_-;ウーン
                          09th.June.'12
 前回アップしてから早くも半年。思うところあって、過去を振り返りつつ行く先を思案しておりました。よる歳波に手は震え指先はこわばり、ヒューマンエラー続発。画像1はここ数年でクラッシュさせたカートリッジで、"カタコンブ"と名付けたクラッシュ保存箱の点数が、丁度10個になりました ^_^; しばし思い悩んだ末、開発にリスクはつきものと踏ん切りつけて、一年分の必要資材を発注しました。

 レコード趣味の延長でシェルリード線工作を始め、ひたすら自分好みの音を再現しようと試みました。導体の結晶構造や鉱業メーカー由来の音質傾向を、RCAケーブルやSPケーブル試聴で再確認して素材を選抜し、意図する音を再現する導体構造を試行錯誤しました。