前者(現実音)とは『芯のある』『重低音』で形容される音か?これには撚線導体が適し、撚りを強くする程重低音方向に傾き、単線構造で極まる。逆に微細線のリッツ構造や編線構造では、高域情報比率が増して高域バランスに傾き、この表皮効果の影響と同時に微かなエコー感をも生じます。これが、予感を感じさせる音の正体か?ヴォーカリストの後方に、声質のよく似たバック・ヴォーカリストやコーラスを配置してハミングする目的も同じ、音(ハーモニー)の快さを得ることです。
同じ素材でも、導体構造による違いを体験して、自分の趣味としてリード線の方向が定まりました。SPケーブルでも、この性質を利用して高純度ACROTEC単線と細線導体を組み合わせてバランスを得ています。極太SPケーブル導体でW結線した体験では、静電容量が大きくなるのか、完全な時間ずれのあるエコー感が生じ、これはやり過ぎでした。
オーディオパーツのすべて、音に影響する固有の性質があるのは当然ですが、その正体は素材か、素材の純度や夾雑物、あるいは素材の同位体構成比の違いか?これに加工精度や回路技術が加わって名機となるかゴミ処分されるか。真空管は同じ構造でも、ヒーター、グリッドの素材、真空度と残留ガス構成が異なれば、飛び出す電子イオン量もスピードも異なり、逆方向に生じる電流変化も速さも異なるのが当然か。
音に良いとされる素材、金メッキとロジウムメッキの違い、前者は暖かみで後者はクール感。高純度導体素材と低純度素材、ケスナーとプラチナゴールドニッカス・ハンダ、ゲルマニュームが音に良いとか……。紙一重の違いに一喜一有するオーディオ愛好家とは、いったい何なのか?
23th Dec.'14
先日、アナログの師匠が、お互いSNSで交流のある友人製作とMoon Audio工房製リード線を比較考察し、そのコメントは実に興味深い表現で、『ExcellentやSeiren Super Silverは予感を感じさせ、KS-LW5800は現実を見せる』、と云うものでした。音質評価は、常にリスナーの音楽ジャンル嗜好と関係します。"予感"と"現実"で表現される音味とは?どんな意味合いかと考えました。
ここしばらく、集めたレコードを整理すべく、手始めに洋楽ポップス・ロック系に手を付け、現在アルファベット順にAからJまで150枚程再試聴を終えて、音楽ジャンルに適した再生を再認識しました。カートリッジもリード線も、女性ボーカル再生に特化した音作りは不味いなぁと、もっとパワー感が欲しくなってortofon Kontrapunkt b やDL-103をセットしたりします。さらに、これが終着点と自己評価し、ユーザーの方々からも称賛のインプレを寄せられていたZeusリード線に関して、重低音不足の指摘を体験しました。
先の深遠な表現が意味する音の違いとは、これかも知れないと思い当たりました。それは直接音重視と音場感重視の違いか。イメージとして、前者は低域から中高域までガツンとくる音、予感のイメージとしてはペートーヴェン第9の冒頭。間接音比率が大きく直接音にホール感といわれる倍音成分の多いエコーが乗った音。私のリード線は、好みのクラシック系やボーカル系を快いプレゼンスで聴きたいという個人願望でスタートし、後者の再生をめざしています。30代後半までは、DENON器機をベースとしてピラミッドバランスを好みました。あるいは、高域感度が高かった当時の聴力からして、これでバランスしたのかも知れません。50代になって、次第に高域が快く感じられるように変化し、直接音より空気感の再生を指向するようになりました。
CDではめざす方向が得られず、LP再生に特化して、その原初の音に何も足さない何も引かない……。クラシックやボーカル系の優れた録音盤には、楽器や人声の直接音と共にホールエコーも記録され、そのまま取り出されると、音はあたかも専用ホールで聴くように空間に舞います。それは、輪郭不鮮明な音像焦点のぼけた音ではありません。めざすのは、しっかりした輪郭の音と、そこに微かに漂うエコー感が渾然一体となった音場再生です。音を聴くというより音に包まれる至福の環境再生です。この再生音実現の過程で、リード線試作の必要も生じました。
再生環境として、スピーカーのタイプとリスニングルームのキャパシティが関係します。硬質素材振動板による高域と中域、たとえばダイヤモンド素材は歪みなく超高域まで伸びきって爽やかです。これにカーボンコーンのような剛性のある低域を組み合わせると、入力に対して非常にリニアでスピード感のある音響が得られます。しかし、送り込む音が硬く固まっていたり、リスニング環境のキャパシティが不足すると、聴くには苦痛を感じます。バックロードホーンやフロントロードホーンでアクースティックな音味を加えて、快い音再生に緩和するのも有効でしょう。あるとき、コンクリート造り三畳程でリスニングする方が、私のシステムをハウリングマージンが低いと勝手に決め込んで、『そんな環境は気の毒だねえ』と。話はすれ違い、『(諸々の要因として)そのリスニングルームが曲者ですね』と指摘したら『俺を曲者とは何だ!』と、怒りだした。音を再生するのは容易でも音場再生は全く別技術、ホールエコーとハウリング要因とは別次元、混同するようでは対話にならない。
試みたテーマは、限られたスペースで、かつ低コストで擬似的音場再生ができるか……。手始めに、いろいろな導体の試聴テストを行って、次に導体構造に着目しました。低域と高域との再生バランスを形成するスタートはカートリッジ特性、次いでリード線……と、そこでリード線との深い因縁となりました ^_^;
画像は現在のReferenceカートリッジDL-100 0A &YAMAHA MC-2000、
何れもZeusリード線+Muonシールド。