現在、肩に障害があって治療中のことは話しました。かつて比較的強弓を引いて、何度か故障の経験があったためか甘くみました。故障を甘く考える傾向は、弓引きにありがちです。多くは肘と肩の故障で、テニス肘のような症状は多くの方が経験するようです。
今回も、前兆はありました。秋口の頃から伸びあいから離れで押手肩が痛み、当然中たりも止まり、20日間ほど引くのを休みました。通常このくらいで痛みは軽減するのですが、今回は和らぎません。ここで、医者の診断が必要だったのでしょうが、過去の経験がかえって災いしました。弓倒しができなくなった、肘の故障より軽微に思われたのです。
「これだけ長引くのは、50肩というやつかも知れない。ならばある程度負荷を掛ける運動がいいだろう」。納射会も近づき、中たりの止まった射への不満もありました。「練習が最良の治療かも知れない」という都合の良い結論を導きだしました。
納射会前夜、痛みは頂点に達しました。当日の朝は腕がまったく上がりません。かかりつけの整形外科医の診断は腱板断裂、MRI像でも明らかです。上腕骨頭に孔をあけて腱を接合し、拇指頭大の異常な増生物を切除しました。これは、組織検査で結合組織とフィブリン性結晶体との混合物で、無理を重ねた結果と判明。上腕骨頭に触れる肥厚した骨も削ってやっと積年の肩の荷を降ろしました。
体験として、故障すると中たりが止まって不満が生まれ、休むと中たりの回復が遅れるという不安が募ります。完治するまでは引かない、というのはかなり勇気がいるのです。大学の弓道部を覗く機会があって、障害を感じる部員のヘルスケアーを受けつけたところ驚くほどの数になって、弓道人の性(さが)を思い知らされました。
さて、本題はここからです。正しい射法であれば、故障はないのか? それとも、射法が各人の肩、肘等の骨格とと合わず、無理を強いるところから故障が発生するのか?
私事ですが、強弓を引いて最初に肩を痛めた40代半ば頃から、肩先がカクカクと音を立てるようになっています。残身で押手の下がる悪癖を指摘され、これを矯正する過程で押手下筋を張ると関節の痛みと苦痛があって、射の後、肩先から首筋にかけて棘上筋のこりが非常に強く残りました。
さて、唐沢光太郎先生の「弓道読本」(読売新聞社)では、弓射における筋の働き、特に肩根に関する考察が詳細に述べられています。押手の伸びの働きを、「整伸」と、「押伸」とに区別しています。前者は下筋を効かせた正しい伸びで、後者は、弓手を肩もろとも的方向に押し伸ばすことで、肩関節の合わせが悪く腱によって吊るだけであるとしています。
私の障碍は、「押伸」に起因したものであろうと推定しています。押手重視の射法と、弓力の不適合とが相まって肩の故障を発し、残念ながら、後になって正しい射法に矯めようとした努力が既に変形していた関節に決定的なダメージを与えた……、という風に理解しています。
骨や筋、関節のフィジカルな考察に関しては、その他にも桑原先生の論文にもあったように記憶します。是非一読をお薦めします。
術後のリハビリで気づいたことは、腕の重さと関節にかかる負荷の重圧。推し測るに、これが一瞬にかかる、弓射の衝撃の強さのこと! 腕を頭上に差し上げるだけで全力をつくし、脂汗を流して必死です。弓には、ウオームアップとクールダウンに関する指導要諦がないが、これは今後スポーツ医学の見地から一考を要すると考えます。