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2011年4月28日 |
オカンのために |
今から2年前、 大沢勇三(仮名)現在27歳。 勇三との出会いは、彼が小学校4年生の時です。私の隣のクラスに転入生としてやってきました。家庭状況は厳しく学力的にもしんどい子どもでしたので、担任外の私も一緒によく関わっていました。算数プリントをしている勇三のそばに行くと 「邪魔や、向こうに行ってくれ!」 と私を拒絶します。そばから離れると、プリントの問題に向かって 「くそー、ボケー」 と当たり散らすのです。出来ない自分に腹を立てイライラしているのです。その後も自分に自信が持てず自暴自棄な生活を繰り返す勇三でした。 そんな彼を大きな事故が襲います。定時制高校に進学後、昼間の仕事中にビルの8階から転落したのです。奇跡的に命は取り留めましたが、以後彼は車いす生活になったのです。 勇三はさらに自暴自棄になり自殺も考えるのですが、母親と兄の献身的な介護に次第に心を開いていきました。2年間の闘病とリハビリの後、高校にも復帰します。福祉センターで見た60歳を超えたおじいちゃんの車いすバスケットに感動し、自分も車いすバスケットに挑戦します。 その頃私に一本の電話がかかります。 「先生、俺に勉強を教えてほしい」 以後、週1回必ず私の職場に寄って二人だけの勉強会です。それは小学校3年生の分数の計算から始まりました。 「先生、分数の掛け算って簡単やな」 「そうや、足し算より簡単やろ」 私が宿題を出すと必ずやってきます。 「先生、わかるっておもしろいな」 こんな気持ちを小学校の時、彼に味わわせてやれていなかったのです。彼と私の勉強会は半年間続きました。分数から始まった勉強は因数分解もできるところまで達していました。そして彼は高校を6年かけて無事卒業したのです。卒業式に車いすで堂々と出席する彼は本当に「いい顔」をしていました。 高校卒業後、勇三は車いすアスリートとして本格的に取り組み始めます。兵庫県内の大会で次々と記録を出し、23歳の時には岡山国体(障害者)の県代表に選ばれ、選手の結団式では知事の前で挨拶もすることになりました。 「先生、俺、挨拶なんかできないよ。教室でも発表したことないのに・・・」 「大丈夫や、今の勇三なら大丈夫や」 勇三は、知事の前で見事に大役を果たし、岡山国体ではスラローム競技で大会新記録で見事優勝するのです。応援に行った私の元へ金メダルを持ってきてくれました。 すると、地元の公民館や小学校から、彼に講演依頼が次々にきます。 「先生、俺にはそんな講演は無理や」 「大丈夫や、勇三やったらできる」 地元の公民館での彼の講演を聴きながら私は涙が止まりませんでした。小学生の時、算数の問題に向かって「くそーボケー」と当たっていた勇三が、今たくさんの人の前でこんなにも堂々と自分の生い立ちや生活を話しているのです。母親や兄の話では涙ぐみ、自分の周りの人への感謝を語る勇三の姿は本当に大きくかっこよく見えました。 「先生、俺はあの事故から生まれ変わったんや。死のうと思ったけどやっぱり生きるのは最高や。俺の人生は車いすからもう一度スタートしたんや」 そんな勇三が真顔で私にこう約束してくれました。 「先生をいつかパラリンピックに連れていってやるからな」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
彼のレースを初めて見たのは、この中でも書いてある通り 2005年11月の岡山国体(障がい者国体)でした。 ここで彼は、スラロームという種目で見事優勝するのですが、 実は「100m」にも出場していました。 結果は、1位に30m以上離されての惨敗でした。 スラロームの優勝はうれしかったようですが、この100mの惨敗は 本当に悔しかったようで、その後、彼はローンでスプリント用の 車いすを購入しました。
あの惨敗から6年が経ちました。 来月中旬に ロンドンパラリンピック日本代表選考レースが行われます。 彼は、ここで「100m」に出場します。 この6年間、血のにじむような練習を積み重ねてきました。 練習では、すでにロンドンパラリンピック標準記録を出しています。 ロンドンへの夢もあと少しのところまできたのです。
「もしかしたら本当に先生をロンドンに連れていけるかもしれない」 そんなことを言ってくれる彼です。 「その時は、仕事を休んでもロンドンに応援に行くからな」 そう返事をしています。
でも一つ気がかりなことがあります。 彼のお母さんの病状が悪いのです。
「苦しそうに咳込む母の姿に涙が出そうになるんです」 そう言いながら、 「オカンのためにも頑張る」 と決意を語る彼です。
頑張れ!
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Posted by naka602 at 06:14
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