(3)結婚

 私達が16歳になった時、突然フィリッポス王の再婚が決まった。相手は王がそれまでつきあっていた女ではなく、全く別のまだ20歳にもなっていない、小国の王女であった。いくら小国でも王女ともなればアレキサンダーの母よりも身分は高くなり、もし彼女に男の子が生まれれば、その子供のほうが王の跡継ぎになる可能性が高い。結婚のパーティーは華やかに行われ、アレキサンダーもその母も招待されていたが、彼が不機嫌であることは遠くから見てもよくわかった。結婚式が最後まで終わらないうちに、彼は外へ出て、王宮とは別の建物になっている、部屋の方に行ってしまった。私はあわてて後を追った。同じ頃、プトレマイオスとカッサンドラの二人も外に出てきた。

「ヘファイスティオン、式の途中で出てきていいのか。印象を悪くしたら出世できないぞ」

声をかけてきたのはプトレマイオスだった。

「そういう君達だって出てきているじゃないか」
「アレキサンダーのことが心配だ。あいつはかっとなるとすぐ行動に出てしまって、冷静に考えられなくなる。今、王と対立したらますます立場が悪くなるばかりだろう」
「そうだよ、だから連れ戻そうと思って・・・」
「あいつはもどらないよ。俺達だってあんなつまらない式にいつまでもいるのはうんざりだ。アレキサンダーの部屋で飲みなおそうぜ」

年下のカッサンドラもアレキサンダーに負けないくらい、かっとしやすい性格であった。こうなると私やプトレマイオスがいくら説得したところで彼らが聞くわけもない。それに式ももう終わりに近づいていて、いまさら戻ってもかえって目立つばかりである。仕方なく私達もアレキサンダーの部屋に行くことにした。私とプトレマイオスとカッサンドラの3人は、小さい頃からアレキサンダーの友達だったので、彼のために用意された建物には自由に出入りすることができた。彼のための部屋といっても、それは私の家族が暮らしていた家よりも、はるかに広くてりっぱなものである。アレキサンダーは一人でいすに座り、グラスに入ったワインを飲んでいる。もうどれぐらい飲んでいるのだろうか。テーブルの上には大きな樽がそのまま置かれていた。アレキサンダーはふらふらしながら歩いてきて、私に抱きついた。

「ヘファイスティオン、愛しているよ。やっぱりお前達は親友だよ。王の結婚式の途中で、ここまで来てくれるなんてうれしいよ。さあ一緒に飲もう。まだまだワインはいくらでもあるから・・・」
「アレキサンダー、僕はワインなんて飲めないよ。それに君はかなり酔っているよ」
「つきあい悪いな、じゃあカッサンドラ、プトレマイオス、お前達はどうだ。俺につきあって朝まで飲むか」
「俺はつきあっていいぜ」
「カッサンドラ、いいのか。お前まだ15だろ」
「ワインぐらい、子供の時から飲んでいる」

結局、私達4人はそこでかなりの量のワインを飲むことになってしまった。もっとも私はすぐに酔ってしまう方であったから、なるべくすこしづつ飲むようにしていたが・・・酔うほどにみんな遠慮がなくなり、勝手なことを言い出していた。

「大体、あの王もなんでいまさらあんな若い女と結婚したんだい。確かにきれいだったけど、あれならアレキサンダーのほうがよっぽど年が近いだろう」
「おい、カッサンドラ、口を慎めよ。この話、誰かに聞かれたら危ないよ」

たとえ酔っていても、2歳年上のプトレマイオスは仲間内で一番冷静であった。

「構わないよ、ここには誰も来ないから言いたいことを言って、俺も前からあいつのことは父親だとは思っていないから。さんざんいろいろな女とつきあって今度は王女と結婚か・・・ちくしょう・・・俺の立場はどうなる。めでたく跡継ぎが生まれたらこの国を追い出されるのか」
「それ前に殺されるんじゃないか」
「とんでもないこと言うな、誰が誰に殺されるんだよ」
「フィリッポス王は近いうちに必ず暗殺される。間違いないさ。俺の勘はよく当たるんだよ。そしたら次のマケドニア王はアレキサンダーこれも間違いないよ。アレキサンダーはギリシャ全土を統一して、宿敵ペルシャも破り・・・」
「おい、カッサンドラ!」
「続けてくれよ、その話の続きが知りたい」
「世界で最も偉大な王アレキサンダーは、ギリシャを統一し、ペルシャを破り、エジプトに遠征し、世界帝国を築くんだよ」
「いい加減にしろ、ヘファイスティオン、俺はカッサンドラを連れて帰るから、あとアレキサンダーのこと頼む」
「わかったよ」

プトレマイオスはカッサンドラを連れて帰っていった。

「やっぱりカッサンドラはいいこというなあ、世界で最も偉大な王アレキサンダーか」
「君もかなり酔っているよ。もう寝た方がいい」
「足がふらふらしていて歩けない、寝室まで連れて行ってくれ。大王の命令だ」
「しょうがないなあ・・・」

アレキサンダーは私の肩につかまって歩き出した。いくつもの部屋の前を通ってやっと寝室にたどり着いた。さすがに寝室の中まではいくら友達でも入ったことはなかった。

「ベッドの上まで連れて行ってくれ」
「でも、部屋の中までは・・・」
「ここで倒れたままにしておいてもいいのか」
「わかったよ」

彼の部屋に入り、やっとベッドの上に寝かせる。私より体の大きな彼をここまで運ぶのはかなり大変なことであった。

「これで大丈夫か、じゃあ僕は帰るよ」

彼は寝たまま私の手を強くつかんだ。

「帰らないでくれ。もう少しそばにいてくれ、なあ、いいだろう」
「でも・・・」
「今頃あいつは、喜んで彼女を抱いているよ。たぶん彼女は何も知らないよ。王女として大切に育てられ・・・それがどうしていくら力があるからってあんな何人もの女を抱いた薄汚れた男と結婚しなければいけないんだ。祖国のために自分の体を投げ出して好きでもない相手に抱かれて・・・俺もあの男と同じ血が流れているんだよ。気が変になりそうだよ」
「アレキサンダー、僕はこんな時どうしたらいい。僕にできることがあったらなんでもするよ」
「お前を抱いてもいいか」
「・・・いいよ・・・」
「俺はあの男とは違う。愛する相手は一生一人だけだ」
「そこまで言わなくても・・・僕は今君の役に立てるだけでうれしいよ」
「男同士が愛し合うとき、どうやるのか知っているのか」
「詳しくは知らないよ。でも僕は君とだったらどんなことされても・・・ずっと好きだったから」
「俺もずっとお前を愛していたよヘファイスティオン」

私達は最初に口づけを交わした。それは今までのように軽く唇が触れる程度のものではなかった。お互いに唇を開いて舌をからめあう激しいものであった。私は驚きながらも懸命に彼に答えようとした。それから私達は裸になってベッドの上に横になった。彼の肌の色は白、私は褐色。

「君と一緒に裸になると僕のほうがかなりくろいから恥ずかしい」
「恥ずかしがらなくていいよ。俺はお前のすべてを愛している。体中すべてを・・・」

彼はゆっくり私の体を触り、胸に舌を這わせる。私は体中が熱くなり下半身に意識が集中した。

「思っていたとおりだ。すごく感じやすいんだね。でもこれからは少し痛いよ」
「何をするの・・・」

彼は私の体の穴に指を入れた。私は大声で悲鳴をあげた。まさかこんなことをするとは全く想像していなかった」

「驚いた?でもここを使うんだよ。うつぶせになって寝て。怖がらないで・・・体の力を抜いて・・・」
「でも・・・」
「大丈夫だよ。みんなこうして愛し合うんだよ」
「わかったよ・・・」

私はうつ伏せになって目を閉じた。彼の指が再び穴の中に入って私を刺激した。あまりの痛さと恥ずかしさに私は泣き叫んでいた。

「ごめん、痛くて・・・」
「そんなに痛いならやめようか」
「いいよ、つづけて・・・僕は大丈夫だよ。どんなに叫び声をあげてもそのまま続けて・・・」
「わかったよ」

彼の指は刺激を続け、やがてもっと太いものが入れられた。それはなかなか入らず、彼は全身の力を入れていた。私は拷問でも受けているかのように悲鳴をあげ続けた。そのときはまだ拷問など受けたことなかったが、その痛みはまさしくそのイメージを連想させた。体を無理やりこじ開けられ、下から槍を突き刺されているような痛みであった。悲鳴とも嗚咽ともわからない声をあげつづけていた。ようやく彼の動きが止まった。彼のものはまだ私の体に入ったままだったが、激しい痛みは少し治まった。

「ごめん、かなり痛いみたいだね」
「痛いよ・・・愛し合うことは痛いことだね」
「もういやになった?」
「でもこれで僕達は結ばれたんだよね」
「そうだよ、今ひとつになっているよ」

ようやく彼と一つになれた。私の目からは涙が溢れ出した。

「もう少しこのままでいて」
「泣いているのか」
「ずっとこのままでいたい」
「おい、いきなり何言うんだよ、痛いんじゃないのか」
「痛いけど、今は君と一緒だよね。だから幸せだよ。離れたらまた君は遠くへ行ってしまいそうで」
「遠くへ行くわけないだろう。俺達はこれからずっと一緒だよ。どんな時でも・・・」
「本当に?」
「本当だよ」
「少し動いてもいいか」
「だめ、ずっとこのままでいたい」
「また、すぐにだいてやるからさ、このままじゃ俺が大変だよ」
「約束だよ」
「お前痛くないのか?」
「もう忘れたよ」
「さっきまで死にそうな声あげていたのに。だいたいお前は大げさすぎるよ。
「ごめん」
「あやまらなくていいよ。そんなお前が大好きだよ」

私達はその夜、長い時間愛し合っていた。彼は私は大げさだと何度も笑った。確かにそうかもしれない。でもそんな風に体と心が一致していたその頃は幸せな時代でもあった。やがては私も彼もそうではない苦しみを味わうことになるのだから・・・


                                            −つづくー






後書き
 これは地下室に入れるべき話しかもしれませんが、そうなるとこの続きがほとんど地下室になる危険がありますのでそのまま目次からすぐ入れるようにしました。ヘファイスティオンおおげさでしょうか?初めてのときはきっとこれぐらい痛いだろうと思うのですが・・・・