10、宝の地図

僕はまだエルフには会ったことがない。本を読んで、話に聞いてエルフというのがどういう人なのかいろいろ想像していた。今目の前にいる、高貴なヌメノールの血を引いたという野伏のその人は人間よりもエルフに近いのかもしれない。粗末な黒い衣服を身につけているが、威厳に満ちたその顔は若いのか歳をとっているのかも全くわからない。走っている時、その身のこなし方は驚くほど軽く、体の重さを全く感じさせない。たった今、海賊からの追跡を逃れて全速力で走ってきたというのに、疲れた様子もなく、息も切らしていない。僕は息切れがし、呼吸を整えるのが精一杯であった。

「お前は執政の子で都育ちにしては身が軽いな。よくここまで俺についてきた」
「精一杯です。あなたはまるでエルフのように・・・」
「エルフに会ったことはあるのか?」
「いいえ、まだ実際に会ったことはありません」
「ストライダーは裂け谷でエルフに育てられた。だから、俺達の所にはしょっちゅうエルフが訪ねてくるよ。ストライダーはすぐにいなくなってしまって、俺達にもろくに居場所を教えないが、彼らにはどこにいるかわかるらしい」
「素晴らしいですね。僕も一度でいいからエルフに会ってみたいです。それにあなたもエルフのようで・・・ヌメノールの血が流れているドゥネダインの人はみんなこうなのですか」
「俺達ドゥネダインでヌメノールの血が濃く流れている者は本当に数が少なくなっている。でもファラミア、お前にだってヌメノールの血は流れている。まだあまり意識していないようだが・・・」
「本当ですか!」
「静かに!また海賊どもが近づいてきた。しつこい連中だ。お前達はそんなに海賊に狙われるような物を持っているのか」
「海賊が思っているほど価値があるかどうかはわかりませんが」
「どうする、少しあいつらと話でもしてみるか、お前ならいつでも逃げられるだろう」

僕達はその場でじっとしていた。いつのまにかたくさんの海賊達に取り囲まれていた。ギヤマンドラ、ゴント、バラバの3人が僕にゆっくりと近づいてきた。

「ファラミア、よくも俺達をだましたな。だがこれまでだ。お前達の周りは俺の手下が数十人も取り囲んでいる。逃げられるとは思うなよ」

海賊の首領、ギヤマンドラが怖ろしい顔をして僕をにらみつける。

「おかしら、隣にいる男はあのばかでかい兄貴ではありません。違うやつです」
「二手に別れて逃げたようです。おかしら、どうします?」
「そんなことは始めからわかっている。兄貴には用はねえ。この弟が必要なものはすべて持っているだろうし、もし向こうが持っていたとしてもこいつをちょっと痛い目にあわせて脅せば・・・」
「おかしら、このちびのせいで、俺達はあの寒い船の中に閉じ込められたのです。少しくらい痛い目にあわせてもいいですよね」
「ああ、かまわねえ。海賊の怖さというものを思い知らせてやれ」
「隣の男はどうします?なんかやたらと強そうですよ。この辺りにいるドゥネダインの野伏ではないですか。もしそうだとしたら危なくないですか」
「その通り、俺はドゥネダインの野伏のハルバラドだ」

ハルバラドが僕の前に出て大きな声で言った。

「おかしら、やっぱりやばいですよ。相手はドゥネダインの野伏のハルバラドですよ。野伏のいる土地で海賊行為を働くのは危険と、「海賊の掟」に書いてありました。しかもハルバラドと言えば、海賊仲間では有名な・・・」
「海賊の掟、なんていう本があるのですか!ぜひ読んでみたいです!」
「その本はたった7冊しか作られていない貴重な本で、金銀宝石にいろどられた非常に高価な本だ。まあ執政の子であるお前がそれに見合うだけの金銀宝石を出すと言うなら、ゆずってやってもいいが・・・」
「ゴント!話を横にそらすな!どこまで話したか忘れちまったじゃねえか」
「野伏の強さは海賊の間でも有名なのだろう。だったら話は早い。早いとこ海賊船に戻れ!俺もむやみに戦いたくはないが、もしこのファラミアに指1本でも触れてみろ。ただではすまさないからな!」
「相手はこのハルバラド1人か。・・・・おもしれえ・・・やい、お前ら!お前らは今何人ここに集まっていると思う。こんなやつ1人ぐらい、さっさとやっつけて縛り上げておけ。ただし、ファラミアの方は傷つけないでただ縛り上げておけ、かかれー!!」
「いいか、ファラミア、お前は後ろにいて俺が合図したら走り出せ。相手が多すぎるからここは逃げるとしよう」

海賊達がいっせいにハルバラドに襲い掛かってきた。だが彼は慌てることなく、一人ずつ確実に敵を殺すことなく倒している。すぐ近くでいきなり大きな爆発音がして、煙が出た。何が起きたのかわからないでいる僕の手をつかんでハルバラドは走り出した。



森の中を長い時間走って、やっとハルバラドは立ち止まった。

「ここまで来れば大丈夫だろう。ファラミア、怖かったか」
「いいえ、大丈夫です」
「あいつらがどう出るか、試してみようと怖い思いをさせて悪かった。ついでにお前のことも少し試してみた。ファラミア、お前は野伏に向いている。ヌメノールの血が流れているし、何より身が軽い。どうだ、俺達の仲間にならないか?」
「そんなこと突然言われても・・・僕はゴンドールで兄上と・・・」
「冗談だよ、執政の子を野伏にするわけないだろう。だけどお前には野伏としての才能がある。このことがいつか役に立つ日がくるかもしれない」
「はい、わかりました」
「暗くなってきた、ボロミアが心配しているだろう。早く隠れ家に戻ろう」
「ちょっと待ってください!」
「どうした?」
「地図が・・・地図がなくなっているんです。宝物がどこにあるか示す地図が・・・」
「どこかで落としたのか?」
「落としてはいません。落としたら気がつくはずです。・・・このポケットに入れて・・そうだ!あの時「海賊の掟」の本を見せられて・・・」
「その時取られたのか」
「たぶん、そうだと思います。僕が油断して変な本を夢中になって見ていたばかりに・・・せっかく苦労して手に入れた宝の地図を海賊に取られてしまうなんて・・・」
「そうか、悪かった。俺が変な気を起こして海賊と話しなどさせたから・・・おいファラミア、あんまり落ち込むな」

僕の目から涙があふれ出た。僕は珍しい本を見るとそれだけで夢中になってしまい、他の事を忘れてしまう。それで大事な地図を取られてしまうなんて・・・」

「ファラミア、心配するな。地図はまた海賊達から取り返してやる。どうせあいつら、地図だけあっても、宝の場所までは探し当てられないだろう。まだ時間はあるから、ひとまずボロミア達のいるところに戻って相談した方がいい。わかったな」
「はい」

僕は半分泣きながら、とぼとぼと森の中を歩いた。ボロミアになんて打ち上げたらいいのか・・・・そんなことばかり考えていた。


                                             −つづくー

後書き
 この話の海賊は、極悪非道という感じにはしたくないと思って書いたら、なんだかすごくマヌケな悪役になってしまいました。でも変な話をしていると思わせながらも、取るものはしっかり取って目的を達成しています。