11、作戦
北の野伏の隠れ家だという洞窟の中で、俺はイライラしながら、ファラミアを待っていた。やがてファラミアは戻ってきたが、目が赤く腫れている。
「兄上、ごめんなさい。許してください」
「ボロミア、ファラミアをあまり責めないでやってくれ、俺が悪かった。まさかあんなことになるとは・・・」
俺は体中が熱くなり、頭に血が上っていくのを感じた。ゴンドール執政家の次男、いや何よりも大切な俺の弟にこの男は何をしたのか。俺はハルバラドとかいう名前の男を睨み付け、腰の剣に手をそえた。
「お前、ファラミアに何をした!事と場合によってはただでは済まされぬぞ」
「兄上、ごめんなさい!」
「ファラミアは地図を取られた!」
「今、何を言った!」
大声で怒鳴りながら今耳に入った言葉を口に出し、何が起こったのか理解しようとした」
「ち、ちずが・・・ど、どうした」
「兄上、どうしたのですか、少し落ち着いてください」
「俺が悪かった。どんなことがあってもお前と離れてはいけなかった。・・・だけどよく聞けファラミア、俺はお前の兄だ。お前はどんな宝よりも大切な俺の弟だ。何があってもこのことだけは変わらない。お前は少しも悪くない。悪いのはこの男だ!」
「悪いのは僕ですよ。だって僕がだまされて地図を取られたのですから・・・」
「ちず・・・を・・・とられた・・・なんだそうか。ああよかった、そうか、ちずを取られて、それでお前が泣いていたのか。よかったよかった」
「ちっともよくないですよ。せっかく手に入れた宝の地図を海賊達に取られてしまったのですよ」
「地図などはどうでもよい、それよりもお前に何もなくてよかった」
「だけど海賊どもだって、地図だけ手に入れてもしょうがないだろう。何か手がかりがなければあの地図は解読できないはずだ」
「そうですね、地図を読む手がかりを見つけないと・・・」
「とにかく向こうだって地図を手に入れたからといって、すぐに宝を掘り出せるわけではない。どうしたらいいかはゆっくり考えるとして、ひとまず腹ごしらえをしよう」
ハルバラドが声をかけると、周りの男達は一斉に立ち上がり、食事の用意を始めた。火を使ってないので冷たいものばかりだが、テーブルの上にはたちまちいろいろなものが並べられた。
「どうだ、ファラミア。執政家のご馳走に比べたら、大したものはないが、食べられるものはあるか?口に合わなかったら残してもいい」
「大丈夫です。珍しいものばかりですけど、みんなおいしいです」
「ファラミアは下手な物を食べるとすぐに腹をこわす。食べ物には充分気をつけてくれ」
「お前はどうなのだ、ボロミア?」
「俺は何を食べても、腹などこわしたことはない・・・」
「そうだろうな。ストライダーもそうだ。彼は何を食べても大丈夫だし、何も食べないで水だけで数日歩き続けることもできる。まるでエルフと人間の間にできた人間のようだ。しゃべり方や立ち振る舞いもどことなくエルフに似たところがある。ファラミアも似ている。体つきや振る舞いがエルフを思わせるところがある。ボロミアはエルフには全く似ていないが・・・」
「俺もファラミアも人間だ!エルフになど似てなくていい」
「エルフと人間との間の・・・その人は今でも中つ国に住んでいますか?」
「エルロンド卿のことか。裂け谷に住んでいる」
「さけだに!それならそこに地図を読む手がかりがあるはずです。エレンディルの本に書いてありました。地図は我と来た船と一緒に、だがそれを読むためにはエルフと人、両方の血を受け継ぐ者の館に行かねばなるまい・・・そう書いてありました」
「裂け谷か・・・そこへの道は危険が多い。お前たち兄弟二人だけで行かせるのは心配だ。道もよくわからないだろう。俺と、もう、一人このインゴルドが裂け谷まで案内してやろう」
「一緒に来てもらえるのですか。うれしいです!すごく心強いです」
ファラミアは心の底からうれしそうな顔をしている。俺は彼らが道案内をしてくれることについて、異存はないのだが、なにかこう、どうもおもしろくない。
「ちょっと待て、宝の地図は海賊どもの手の中にあるのだろう。エルフとかのいる場所に行く前に地図を取り戻す方が先ではないのか」
「兄上、それだったら心配ありません」
「ファラミア、お前は本当に頭がいい」
ハルバラドとファラミアの二人だけで話しが通じている。これではますます俺にとってはおもしろくない。
「やいやい、二人だけでなにこそこそ話している!地図をあいつらにとられたって言うのに何が心配ないだ!だいたいファラミア!お前は俺に心配ばかりかけている!さっきのことだってどれだけ心を痛めたか」
「ごめんなさい。でも地図のことだったら任せてください。彼らだって地図は手に入れても読み方がわからない、きっと手がかりを見つけるために、僕達の後をついてくるはずです。きっと裂け谷まで来るでしょう。そこまでこっそりついてくるか、味方になって協力して宝を探そうと言い出すか、向こうがどうでるかはわかりませんが・・・」
「俺は海賊なんかの仲間にはなりたくない!」
「兄上、ずっとと言うわけではありませんよ。ただ宝を探すためには彼らの協力も必要になるかもしれません」
「いいや必要ない。海賊などと協力する気は全くない!だいたいこいつら野伏だって信用していいのかどうか・・・」
「あにうえ!!」
ファラミアが怖い顔をして俺を睨み付けた。
「わかったよ、ファラミア、そんな怖い顔しないでくれよ」
「兄上は力は強いけど、いろいろな交渉は本当に下手です。こんなことではこれから先、執政になって先がおもいやられます」
「お前がいるから大丈夫だよ」
その日の夜はその隠れ家で寝た。久しぶりに屋根のあるところで寝たのだが、どうも落ち着かなくてなかなか寝付かれなかった。
次の日の朝早く、まだ日が登る前に俺とファラミア、そして野伏のハルバラドとインゴルドの4人は隠れ家から出発した。途中後をつけている者がいることに気がついた。
「やっぱり後からついて来ていますね」
「それはそうだろう」
「でも今のところ、向こうは僕達と仲良くする気はなさそうです」
「俺だって仲良くする気など始めからない。地図だけ取ってさっさと追い払いたい」
「いや、この先の危険を考えると、人間の数が多い方がいい。海賊ならさぞかし剣の腕前もあるだろう。大いに役に立ってくれるに違いない」
「裂け谷へはどんな道を通るのですか」
「そうだな・・・途中でドワーフの作った大きな地下通路も通らなければならない。地下帝国といってもいいほどの巨大な洞窟がある」
「すごいですね」
ファラミアはハルバラドばかりと楽しそうに話している。もう一人のインゴルドは無口でほとんどしゃべらないからおもしろくない。
「兄上が機嫌悪そうです」
ファラミアがささやくように小さな声で言ったのが聞こえた。
「洞窟にはどんな化け物が住んでいるかわからない。やっぱりボロミアのような強い人間がいないと・・・」
「そうです。僕の兄上は本当に強い!」
うるさい!いまさら大声で俺のこと褒めても俺は今機嫌が悪い!精一杯機嫌の悪い顔をして彼らの後を歩いた。後ろからは同じ距離を保ってついてくる海賊が3人。変な関係での旅がこうして始まった。
−つづくー
後書き
ボロミアはやっぱりちょっとの間でも、ファラミアと楽しくおしゃべりなどしながら歩きたいのです。ファラミアもそのあたりの兄の気持ちまでは読み取れないようですね。
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