9、隠れ家
海賊たちがすぐ近くまで迫っている。敵は3人だけではない。数十人もの仲間を引き連れて俺たちを追いかけてきたみたいだった。
「やい、俺の剣を早く返せ!」
「どうする気だ、向こうは何十人もいるぞ」
「俺は戦場で何十人もの敵を倒してきた。海賊など問題ではない」
「俺たちのほうがずっと人数は少ない。敵をうまくまいた方がいい。いくぞ」
北の野伏達は勝手に走っていってしまった。俺はあれぐらいの敵は一人でも戦えると思ったが、今は武器もあいつらに取られたままで、何も持っていない。ファラミアと野伏のリーダーらしいハルバラドは別の方向に走っていってしまった。俺も仕方なく他の野伏の後を追った。
野伏という連中はどうしてこう森の木の間や坂道など走りにくい場所を飛ぶように走れるのだろうか?俺だってゴンドールの兵士達の間では決して遅い方ではないが(ずば抜けて速いわけではない)彼らの速さには驚かされる。しかも俺が見失ったりしないよう、常に後ろを振り返り、一定の間隔を保って走っている。俺はぜいぜい息を切らしながら走り続けた。
「もうこれくらいで大丈夫だろう。敵はハルバラドの方を追いかけている」
「ファラミアは大丈夫なのか!」
「ハルバラドがついている。問題ないだろう」
「ファラミアにもしものことがあったらただではおかないからな!」
「そんなに怖い顔をするな。この近くに隠れ家がある。そこでハルバラドと落ち合うことにしてある。先に行ってよう」
「俺の剣はいつ返してくれる」
「そんなに心配なら返してやるよ。走るのに邪魔になるかと思って預かっておいた」
「剣ぐらい持って走れる!」
そう答えたが、剣を腰につけるとずしりと思い。彼らはそんなことまで予想していたのだろうか?全くわけのわからない気味の悪い連中だ。
「隠れ家はここから遠いのか」
「俺たちにはすぐ近くだが、執政のご子息にはちょっと遠いかもしれない。重いものは預かってやろうか」
「その必要はない、早く案内しろ」
腹がたって仕方がないが、ここはゴンドール国内ではない。何も知らない土地では彼らの言うとおりにするしかない。それに腹も減ってきた。隠れ家と言う場所につけば何か食べさせてくれるだろう。ゴンドールの南、イシリアンは今は野伏しか住まない土地になってしまったが、彼らは住み心地のいい隠れ家をいくつも作って普段はそこで生活していた。父上がイシリアンの守りには力を入れていたので、日常生活に必要な物はすべてそろえられ、俺とファラミアが訪ねて行った時は大ご馳走でもてなされた。北の野伏の隠れ家では何が出てくるのだろう。
「ここが隠れ家の入り口だ。狭いから気をつけて入ってくれ」
突然小さな洞窟の入り口を指差された。隠れ家とはこれのことなのだろうか?
「入り口は狭いが、中は広い。さあ入れ」
俺は入り口に近づいた。やっぱり狭い。人間が通れるような広さではない。
「こんな狭いところが入り口か」
「ああそうだ。俺達の仲間はみな体が細いから、これぐらいは楽に通れる」
「俺だってこれぐらいは楽に通れる」
楽に通れる場所ではない。腹をへこませ、肩をまるめてやっと通り過ぎた。薄暗い洞窟の中を歩いていくとやっと広い場所に出た。木でできた粗末ないすやテーブルが置かれている。岩の隙間から光が入り、中は思ったより明るい。
「遠慮しないで座ればいい。こんな物しかないが、食べていろ。じきにハルバラド達もここに来るだろう」
コップにそそがれたうすいぶどう酒、固くなったパンと塩漬けの肉のようなかたまり、確かにこんなものしかと思うが、腹が減っているのでしかたなく食べる。肉のかたまりは塩気がきつく、なんの肉だかよくわからないが、意外といい味をしていた。夢中になって食べていたがファラミアはなかなか来ない。
「ファラミア達は遅いな。何をやっている」
「心配ない、ハルバラドは海賊に捕まるようなことは絶対無い。それに彼の方がお前よりずっとすばしっこそうだ」
「でも確かに遅いな、もうとっくに暗くなっている」
「あの男、ファラミアと二人っきりで・・・まさかファラミアに・・・」
「ははは・・・余計なこと心配するな。ハルバラドは若く見えるが50を超えている。あんな子供に手を出したりはしない」
「あんな子供とはなんだ!ファラミアは小さな頃本当にかわいかった。俺が手を引いてミナス・テリスの街を歩くと、たくさんの人が集まってきた。ファラミアの顔を一目見ようと仕事もそっちのけでぞろぞろ集まってくるんだ。ファラミアがちょっとでも笑うと、見ている人もみんな微笑むんだ。誰もが幸せな気持ちになった」
「へえーそんなにかわいかったのか」
「今だってそうだ。俺が遠征を終えて帰還すると、街の広場は大勢の人が集まって祭りの時のようににぎやかになる。みんな歓声をあげて俺の名前を呼んだり、花束を投げたりするけど、どさくさに紛れてファラミアの名前を呼んでファラミアに花束を渡すやつが男も女も何人もいる。俺がにらみつけているのも知らずに・・・」
彼ら5人の野伏達はいっせいに笑った。
「何がおかしい!」
「いや、かわいい弟を持つと兄はいろいろ大変だなと思って・・・」
「本当にそうだ、遠征に行っている時など気が気ではない。いまのところあいつは俺に何でも話してくれるからいいが・・・」
ファラミアが洞窟の中に入ってきた。続いてハルバラドも・・・ファラミアの目が赤くはれている。
「兄上、ごめんなさい」
「ボロミア、ファラミアにあまり怒るな。俺が悪かった。まさかあんなことになるとは・・・」
「お前、まさか・・・ファラミアに何をした!早く言え!ことと場合によったら・・・」
俺はハルバラドを睨み付け、剣に手をかけて、彼の方へ近づいていった。
−つづくー
後書き
かわいい弟を持つと兄の気苦労は絶えません。でもボロ兄だって、帰還したとき密かに熱い視線を送っていた人がいたと思うのです。本人がまったく気がついていないだけで・・・
![]()
![]()
![]()