12、ホビットの村

僕達の宝探しの旅は次の目的地をエルフの住む裂け谷に決めた。僕と兄のボロミアの他にヌメノールの血を引く北の野伏のハルバラドとインゴルドが一緒に来て道案内をしてくれる。北の野伏の二人は人間でありながらエルフのような優雅ですばやい身の動きと深い知識を持ち、僕は尊敬のまなざしで彼らを見ていた。本物のエルフもきっとこんなふうに森を歩いているに違いない。あと他に3人の海賊たちが僕達の後をついてくる。追跡されるのはいやな気分だが、僕の不注意で宝の隠し場所を示した地図を取られてしまったので仕方がない。あんまり速く歩いて彼らとはぐれてしまっても困るのでゆっくりめに歩いている。

「ファラミア、疲れてないか、大丈夫か」
「兄上、僕は大丈夫ですよ」
「腹は減ってないか、野伏の食べ物では、すぐに腹が減るだろう」

ボロミアが何を言いたいか、僕にはすぐにわかった。ほとんどリーダーのようになっているハルバラドの顔を見ると笑いをこらえて頷いている。

「わかりました、兄上。少し休んで何か食べましょう」

僕達が腰を下ろしてパンのような物を食べていると、遠くの場所で海賊達も休んでいるらしい。焚き火を燃やし、肉や魚の焼けるにおいがしてくる。

「ちくしょう!あいつらの方がうまそうだな。こっちは固いパンと干からびた干し肉しかないというのに・・・」
「僕が行って何かもらってきましょうか」
「いや、お前をそんな危険な目に合わせるわけにはいかない。あれはわなだ。ああやって食べ物のにおいで俺たちをおびき出そうとしている」
「おびき出すつもりかどうかはわからないが、まだ海賊に近づくのは危険だ。この近くには確かホビットの村があるはずだ。食べ物はそこで手に入れよう」

ハルバラドが言った。彼はこうして休んでいる時も、絶えず周りの様子に気を配っている。野伏というのはいつもこういう生活をしているのだろうか?そこへいくと兄のボロミアはおなかが一杯になるとどんな場所でもすぐに横になって寝てしまう。

「兄上!こんな所で寝ないで下さい」

慌てて起こそうとする僕の肩を押さえて、インゴルドが言った。

「ファラミア、少し寝かしといてやれ。ボロミアはお前とハルバラドが戻ってくるのが遅いとひどく心配していた。本当にいい兄だな。少々気が短いが・・・」
「そうです。ボロミアは僕にとって最高の兄です」




ハルバラドは険しい顔をして空の一点を睨んでいる。

「ファラミア、ちょっと来い!あれが見えるか?」

僕はすぐに彼のそばに行き、指差している空の方を見た。遠くに見える黒い影、鳥ではない、細長い蛇のような形のものが空を登るように飛んでいる。

「あれは!」
「ドラゴンだ。こっちの方へは来ないようだが、用心した方がいい」
「ドラゴンがまだいるのですか?僕は話でしか聞いたことがありません」
「ゴンドールと違って北方の土地はほとんど人間の手が加えられていない。いろいろな生き物や種族が暮らしている。よいものも悪いものも・・・」




夢中になってドラゴンを見た後、ボロミアが寝ている方を振り返ると、子供が二人、ボロミアの顔を覗き込んでいた。いくつぐらいの子供だろうか、かなり背が低い子供である。

「ホビットの子供だ」
「ホビットですか?僕は初めて見ました」

ホビットの子供はボロミアが珍しいらしく、盛んに髪を引っ張ったり、顔を触ったりしている。それなのにまだ気がつかないで気持ちよさそうに寝ている。

「こら、ファラミア!顔を触るな・・・ほら捕まえた!・・・な、なんだ、お前は・・・」

ボロミアがふざけて捕まえた子も捕まっていない子もものすごい声で泣き出した。捕まっている方が男の子でもう一人は女の子のようである。

「わ、悪かった・・・驚かしてすまん・・・こんなところで子供に会うとは思わなかったから、ついそのファラミアがふざけているのかと・・・」
「オオキイヒトダ・・・オオキイヒト」
「おおきいひと・・・確かにお前たちから見れば俺達は大きい人だな。こんな小さな子供は初めて見た」
「ボロミア、この二人は人間の子供ではない。ホビットの子供だ。ちょうどいい、村まで案内してもらおう。二人とも大きい人間の言葉はわかるかい?」

ハルバラドが話しかけた。ホビットの二人は泣き止んだが、まだ怖そうな顔をしている。

「俺達が怖いか、こわくないよな。そうだ、俺の肩に乗せてやろう」

ボロミアは二人を軽々と一人ずつ両肩に乗せた。

「どうだ、すごいだろう。遠くがよく見えるか」

肩に乗せられた二人の子供は楽しそうに笑い出した。

「あにうえ・・・」
「子供の扱いがうまいな・・・」
「ファラミアが泣き出したときは、よくこうやってなぐさめていた。本当にファラミアはいつも泣いてばかりいて・・・」
「あにうえ・・・」
「おい、ファラミア、何も今お前が涙ぐまなくてもいいだろう。子供の時の話だ。今はめったに泣いたりしない。さあ早く行こう。ホビットの村はどっちだ」
「アッチー」
「チガウヨ、コッチダ、ナニヲイッテイル」
「こらお前たち、ケンカなどしないでよーく考えてみろ。お前たちはどっちから来た」
「アッチダヨー」
「ゼッタイコッチダ」
「まったくしょうがないやつらだ。自分が来た道も忘れたのか」

ホビットの子供達の言う事はあてにならなかったが、村への道はすぐにわかった。子供だけでなくて彼らホビットは何度もこの森に来ているのであろう。よく見ると、草が踏み固められている小さな道がいくつもあった。




ボロミアはホビットの子供を肩に乗せたまま、先頭を歩き続けた。森を抜けると小さな村があった。畑の間の小高い丘にいくつか丸い扉が見える。あれがホビットの家なのだろうか。小さな子供たちがいっせいにボロミアの周りに集まってきた。

「ワーオオキイヒトダ」
「イイナー」
「ノセテ、ノセテー」
「ワーイワーイオオキイヒトガキタ」
「ズルイヨ、フタリダケ」
「ハヤク、ノセテ」
「こらこら、ケンカをするな。順番に乗せてやるから待っていろ」
「ワーイ」
「スゴイナー」

ホビットの子供たちは何故かボロミアの方にばかり行ってしまって、僕やハルバラド、インゴルドの近くには誰も来ない。僕達3人は何もすることがなく、ただボロミアが子供達の相手が終わるのを待っていなければならなかった。小さな村の平和な暮らし・・・この村は北の野伏達が守って平和が保たれている。そして僕達が暮らすミナス・テリスも街を守る衛兵や国境付近の兵士、イシリアンの野伏など多くの人によって守られている。ボロミアの周りにはあとからあとから村の子供たちが来ていた。早くどこかの家に行って休ませてもらいたいのだが、なかなかこの場所を動けそうにもない。


                                             −つづくー

後書き
 ボロミアは小さな子供とかにすごく人気がありそうです。あの満開の笑顔と大きな体に飛びついていきたくなります。逆にファラミアは人に甘えるのはうまくても自分が子供を相手にするのは苦手だったと思います。野伏さん達も見た目が怖そうなのでなかなか子供は近づいてくれないでしょう(ストライダーも同じタイプ?)