2、旅立ち
宝探しに行くと僕達は決めたが、まず始めにどこへいけばいいのだろうか?エレンディルは船で中つ国に来たのだが、その船は今どこにあるのだろうか?僕はまた書庫にこもっていろいろな本を読みあさる日々が続いた。
「おいファラミア、なんで毎日こんな薄暗い部屋にいる。いつ出発するのだ」
「そうせかさないでください。エレンディルの船がどこにあるのか、いま調べているところです」
「とりあえずどこかに出かけて、そこにいる人に話でも聞いてみたらどうだ。俺はどうもこういう部屋でなにか調べたりするのは苦手だ」
「とりあえずって、何も調べないで出かけても、見つかるわけないですよ。兄上に資料を調べてとは言いませんから、もう少しがまんして待っていてください」
「俺にも何かやらせてくれよ。じゃあ持って行く物の準備でもしようか。食料や武器など・・・」
「武器の用意はして構いませんが、食料の用意は今回は僕がします」
食料については僕はボロミアには任せたくなかった。前に二人で家出した時、ボロミアは持っていくパンや果物、チーズやベーコンなどをかなり前から袋に入れっぱなしにしていた。だから実際にそれを食べる時には、パンは固くなり、果物は乾いてかさかさでそれぞれかなりひどい状態になっていた。これでも食べられないことはないと言って、ボロミアは平気で食べていたが、正直いって僕にはかなりつらいことであった。細かいことには気にしない豪快な性格のボロミアが好きだけど、僕が気をつけていないとまたとんでもないものを食べさせられるに決まっている。
「二人で家出した時のことを思い出したのか」
「そうです。僕は兄上と違って何でも食べられるわけではないですから・・・」
「それはまた随分な物言いだな。あの時は俺がお前を背負って歩いてやった」
「もう、兄上に背負われたりはしません」
「いや、まだ俺はお前ぐらいは平気で背負える。試してみようか」
「やめてください、兄上、これでは全然本が読めません。兄上は別の場所に行って武器の手入れでもしていてください」
「そんなに嫌わなくてもいいだろう。俺はお前のそばにいたいんだ、な、もうじゃましないで静かにしているから」
「わかりました」
まったく困った兄である。ミナス・テリスを離れて遠征に行っている時は数千人の兵士を率いて戦っているはずなのに、僕の前ではどうもそんな様子は見られない。兄の視線を感じながら、僕は再び本を読み始めた。
いろいろな本で調べて、エレンディルの船はゴンドールからかなり北のほうにある灰色港の近くにあるらしいということがわかった。数千年前の船がそのままの形を残しているとは思えないが、灰色港はエルフの船が出港する場所、エルフたちに守られた土地だから、何か手がかりとなるものが見つかるに違いない。灰色港まではどうやって・・・
「ファラミア、何かわかったか」
「どうしてわかったのですか」
「俺はお前と違って人の心はよく読めないが、お前の考えていることはすぐにわかる。いまなにかひらめいたようだった」
「兄上には決して隠し事はできませんね。そうです。なんとか手がかりが見つかりそうです。まず始めに北の灰色港まで行ってみましょう」
「あそこはゴンドールの領土ではない。父上が行っていいと言うだろうか」
「北方のアルノールはその辺りに建国されました。今は滅びてしまいましたが、いつの日かまたゴンドールが北方の国もまとめて統一する日がくるでしょう。その時のために北方のことも調べておきたいと言えば父上もお許しになるでしょう」
「なるほど、お前は頭がいいな。そうやって堂々と父上に話せばいいのだな」
「でもあんまり大げさにはしたくないから、父上にだけ話して、こっそりと出て行きましょう。見送りなどされては大変ですから」
「そうだな、まだ宝が本当にあると決まったわけではないからな」
2日後の夜、僕たちはミナス・テリスに無数に作られている地下通路を通って、城壁の外に出た。父上にはちゃんと話してあったが、城門をあけてもらって僕たちが外に出ればそれだけで大騒ぎになってしまうから、そこを通るのが正解だったと思う。食料や武器、着替えなどを持つと荷物はかなり重くなったが、僕たちの心は軽く、うきうきしていた。もちろん食料は僕が選んで、すぐに食べる新鮮なものと、何日経っても悪くならない保存食とに分け、1日分ずつきちんと分けて袋につめておいた。ミナス・テリスから歩いてオスギリアスまで行き、そこの守備兵に話して船を借り、アンドゥイン川を下る。アンドゥイン川の河口、海の近くのドム・アムロスには僕たちの叔父にあたるイムラヒル大公がいるから、そこからは叔父に話して船を出してもらい、灰色港まで行けばいい。僕の計画はざっとこんなものであった。
無事にオスギリアスに着き、船を借りてアンドゥイン川を下る頃には、辺りはうっすらと明るくなっていた。ボロミアが船をこいでくれ、僕はそれをぼんやりと見ている。一晩中寝ていないのでだんだん眠くなってくる。
「少し寝ていてもいいぞ。ドム、アムロスまではまだだいぶかかる」
「大丈夫です。兄上は、ドム・アムロスに行ったことあるのですよね」
「ああ、一度だけある。母上と一緒に船で行った。もっとずっと大きな船だったが、5歳の俺は船酔いして大変だった。母上が心配して、一晩中俺を抱いていてくれた。あ、母上の話をお前にしてはいけないかな」
「いいえ、続けてください。僕は母上のこと何も覚えていないけど、兄上からこうして話を聞いていると何か思いだせるような気がするのです」
「初めて海を見た時、俺は怖くて泣いてばかりいた。母上がそんな俺を見て笑っていたよ。しかたないだろう。毎日海を見て暮らしていた母上と違って、俺は初めて見たのだから。お前は海を見るのは初めてだな。俺と同じように泣き出すかもしれない」
「僕はもう15です。初めて見る海が怖いと言って泣いたりはしません。母上がずっと見ていた海を僕も見られるのですね」
「そうだよ」
まだ見たことのない海、怖がって泣いている小さなボロミアと、うれしそうに笑っている母の姿。ぼんやりとしか見えないそんな光景を頭に思い浮かべている間に、いつのまにかぐっすり寝ていた。
僕とボロミアは5日間船で生活をした。川幅は広くなり、流れもゆるやかになってきた。かもめの鳴き声も聞こえる。もう海が近いらしい。叔父のイムラヒム大公にはミナス・テリスでは何度も会ったことがあるが、ここでは初めてだった。いきなり僕達が訪ねていったら驚くに違いない。その時、一艘の大きな船が僕たちの船に近づいて来た。帆にはドム・アムロスの紋章が大きく描かれている。豪華な衣装を着た一人の男が僕達に話しかけてきた。
「ボロミア様、ファラミア様、ようこそドム・アムロスへ。私はこの土地で主に貿易の仕事をしているギヤマンドラという者でございます。イムラヒム大公のご命令を受け、ここまでお迎えに参りました。大公の城まではあとわずかですが、少しでもこちらの船でおくつろぎください」
「それはうれしい。すぐにそっちへ行く」
「兄上、待ってください。どうして叔父上は僕達がここへ来ることを知っているのでしょう」
「父上が知らせたのだろう。父上は口に出しては言わなくても、いつもそうやって俺達のことを心配してくれている。早くこっちの船に乗れ、船酔いもせず、快適だぞ」
「でも、この男の名前は聞いたことが・・・」
「何を疑っている。商人の名前などいちいち報告するか。それにこの船にはドム・アムロスの紋章がついている。叔父上の許可を受けた商人の船しかこの紋章はつけられない」
「ボロミア様、ファラミア様、早くこちらの船にお乗りください。そちらの船はロープで縛って一緒に運べるようにしましょう」
「わかった、すぐ行く。おい、ファラミア、急げ」
「わかりました」
僕達はギヤマンドラと名乗る商人の船に乗った。その船はあちらこちらに宝石や彫刻が飾られ、船とは思えないほどの豪華さであった。
−つづくー
後書き
この話は「欠けたものの行方」の5年後の話とイメージしているので、兄弟の家出話やミナス・テリスの地下通路が出てきます。それにしても相変わらず無用心な兄弟、知らない人の船に乗ってしまって大丈夫なのでしょうか?ギヤマンドラっていかにも悪者っぽい名前ですよね(笑)
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