4、捕虜

狭い部屋の中、ボロミアはうろうろ歩いている。船はまだかなり揺れているから、へたに歩くとバランスを崩して倒れてしまう。

「兄上、少しじっとしていてください。こんな場所で立っていると危険です」
「お前はよくじっとしていられるな。俺は落ち着かない」
「まだ、船はかなり揺れています。座っていてください。僕が危険・・・」

船が大きくゆれ、ボロミアの大きな体が僕の方へ倒れてきた。僕はとっさによけた。ボロミアは悲鳴を上げ、まともに倒れていた。

「ファラミア、お前はひどいやつだ。俺が倒れそうになった時、お前よけただろう」
「兄上の体の重さは僕の2倍以上あります。もし、兄上の下敷きになったら、僕が怪我をします」
「そんなに重くはないはずだ。ああ痛い。ファラミア、腰が痛くて起き上がれない。助けてくれ」
「まったくもう。兄上は大将として今までに多くの敵と戦ったではないですか」
「海の上で戦ったことは一度もない。こういう揺れる場所はきらいだ」
「きらいでもなんでも、僕達はいま船の中にいるのです。しかも海賊に捕まえられて・・・しっかり状況を判断してそれにあった行動をしてください」

ボロミアの手を握って助け起こす。大きな力強い手。この手にいつも守られてきた。ボロミアが強く手を握り返した。

「ファラミア、怖がらなくてもいい。俺が絶対助けてやるからな」
「どうやって助けてくれるのですか」
「それを考えるのがお前の役目だ」

「へ、手なんか握り合って、うわさどおりの仲良し兄弟というわけか」

いつのまにかギヤマンドラとその部下のバラバ、ゴントが立っていた。

「お前達。こいつら二人に何か聞きだそうと思ったら、そっちの大きいやつには手出しするな。かわいい弟をちょっと目の前でいたぶってやれば、なんでもしゃべってしまうよ。慎重に鍵をあけて、小さいのだけ外に出せ」
「ファラミアに何をする気だ」
「兄上、静かに。僕にいい考えがあります。言われた通りにしてください」

僕は鉄格子のついた牢屋の外に出されたが、両手を強く押さえつけられている。

「これから俺の聞くことには正直に答えてもらおう。もし答えない場合はどうなるかどうなるかわかっているだろう」

ギヤマンドラは手に持った鞭で床を強く打った。鋭い鞭の音がして僕は目をつぶってしまった。

「やめろ!ファラミアの代わりに俺を鞭で打て」
「待って、ボロミアがいる前では本当のことは話せないよ。別の部屋に連れていって・・・」
「今、何て言った」
「僕はギヤマンドラの耳元で小さな声で言った」

「ボロミアの知らない秘密を知っている。聞かれたくないから、別の部屋に連れて行ってくれ」
「そうか、こいつは何も知らないのか。よし、お前達、弟だけ連れて行け」
「ファラミアに何をする気だ!」
「ちょっと話をしたいだけだ」




 僕は両手を後ろに縛られ、目隠しをされて歩かされた。階段をのぼり、長い廊下を歩く。また階段をのぼり・・・随分長い距離を歩かされている。そんなに大きな船だっただろうか。これは僕をだますために、わざわざ同じところを何回も歩かせているのかもしれない。暗い地下室から明るい場所に出たらしい。目隠しをされていても日の光を感じる。海の匂いもする。まだ見たことのない海。まさかこんな形で初めて海を見るとは思ってもみなかった。食堂に連れてこられたのだろうか?様々な食べ物の匂いがする。

「よし、目隠しをとって手も離してやれ。ここは海の上だ。どっちみち逃げられはしない。それにこいつはかしこいから何も食べてはいなかった。腹も減っているだろう」

僕は目隠しをはずされた。思ったとおりそこは食堂だった。まだごちそうはたくさん並んでいる。

「遠慮しないでなんでも食べろ。この中にはもう薬は入っていない。そのあとで話はゆっくり聞かせてもらうとしよう」

僕は出されたご馳走を遠慮なく食べた。はじめの時は用心してほとんど何も食べていなかったし、これから先何があるかわからない。食べられる時に食べておいた方がいいだろう。それにその方が彼らを安心させられる。ボロミアにはちょっと悪いが、目的の場所に早く安全に行くためには彼らを利用した方が手っ取り早い。

「何!ヌメノールの秘宝の隠し場所を知っているのか」
「そんなに大きな声を出さないで下さい。他の人に聞こえてしまいます」

食堂にも甲板にもたくさんの人がいた。みんな海賊の仲間ではあるが、宝があるなどという話をきいて、下手に仲間割れでもされたら、僕達の命も危ない。秘密を話すのはギヤマンドラと一番の手下であるらしいゴント、バラバの二人で充分だろう。あまり大勢に知られてしまうのは危険だ。

「まだはっきりその場所がわかっているわけではありませんが、エレンディルの船を見つければ、何か手がかりがあるでしょう。ボロミアには宝の話はしていません。ただ一緒に北方の国へ探検に行こうと誘いました」
「なぜ、兄に宝の話を隠しておいて、俺たちには話す」
「エレンディルの船を捜すためには、このように海のことをよく知っているあなた方の力を借りるのが一番です。当然見つけた宝は分けることになりますが、もしボロミアに話せば見つけた宝は全部取られてしまいます」
「お前達は仲のよい兄弟ではなかったのか」
「見かけはそういう風にふるまっています。実際ボロミアは僕のことをかわいがってくれています。でもいくらかわいがってくれても、執政の跡継ぎはボロミアただ一人、弟の僕は何一つ継ぐことはできず、せいぜい国を守るために危険な場所に行かされるだけです。それだったらいっそうのこと、ゴンドールを離れ、滅びた北方の領土に新しい国を作りたい、そう考えて自分でいろいろ調べました。ボロミアには何も話していません」
「そうか、そういう事情があるなら、俺たちも協力して、その船を捜しに行こう。ただし分け前はたっぷりもらうからな」
「もちろんです。ヌメノールの秘宝はこの船にある美術品すべてよりも数十倍の値打ちがあるかと思います」
「お前はこの船にあるものの値打ちまでもわかるのか、大したやつだな」
「僕は執政の跡継ぎとして育てられてはいません。その分自分でいろいろ勉強しました。話はこれぐらいでいいですか。あんまり長く離れていると、今度は兄に疑われます。ボロミアがいるところに戻してください。さっきと同じように目隠しをして縛られた方がいいと思います。あと兄に食べ物も届けてください。あの人は空腹になると機嫌が悪くなって、僕に八つ当たりをしますから・・・」




僕はまた目隠しをされ、両手を縛られて、ボロミアがいる牢屋に戻された。ボロミアのために食べ物も運ばれた。僕は乱暴に突き飛ばされて中に入れられ、すぐに鍵をかけられた。

「ファラミア、大丈夫か。ひどいめにあわされたのか」
「僕は大丈夫です」

彼ら3人がいなくなったのを確かめてから、僕は小声でボロミアに話した。

「いいですか、僕の言うとおりにしてください。彼らをだまし、エレンディルの船があるところまで連れていかせます」
「だますってお前・・・」
「大丈夫です。兄上は宝のことは何も知らないふりをしてください」
「何も知らないって、俺たちは宝を探すために・・・」
「だからふりです。演技です。彼らをだますにはその方が都合がいいから」
「演技って、俺はそんなことは一度もやったことがない」
「うーん、だからもう・・・いいです。じゃあ兄上はとにかく口をつぐんでいてギヤマンドラと何もしゃべらないでいてください。それでもういいですから」
「なにをそんなに怒っている。俺はお前のことが心配でしょうがなかった。痛い思いをしていたらどうしようかと・・」
「兄上、大丈夫ですから、ここは僕に任せてください」

ボロミアの気持ちはうれしいが、僕が何を考え、どう行動しようとしているのかうまく伝わりそうもない。しょうがない、ある程度はボロミアもだましながら、僕は目的地に向かおう。



                                         −つづくー

後書き
 どこまでもまっすぐで単純(失礼)な兄と見かけによらず(?)したたかな弟では同じ状況に置かれても考えることが随分違うようです。








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