7、追跡

「おい、ファラミア、宝はどこに隠してあるかわかったか?」
「ちょっと待ってください。今地図や本を見ていろいろ考えているところです」
「なんだ、宝の地図が手に入ったから、すぐに見つかるのではないのか」
「そんなに簡単に見つかるものなら、もうとっくに誰か他の人が見つけていますよ」

広い海の上、ボートに乗ったまま7日が過ぎた。最初のうちはこれも珍しい体験と喜んだが、7日も同じような生活が続くと少しあきてくる。それにボートを漕ぎ続けて手も痛い。最初のうちはファラミアも自分が少しは漕ぐ気持ちでいたらしいが、できないとわかると俺に任せるようになった。かしこい弟なので、無駄なことはしない。そして地図や本をずっと眺めていた。

「そろそろ陸に上がって、何かまともなものが食べたい。固いパンばかりでは飽きてくる」
「もうすぐ上陸する予定です・・・北方の王国アルノールはこの近くだと思います」
「なんだ、まだアルノールのところか、ウサギかシカでも捕まえて食べるか?」
「人が住んでいる村もあると思いますよ」
「アルノールはとっくに滅びている。ゴンドールとはまったく違う。人が住んでいてもまともな食べ物は手に入らないだろう」
「でもその土地にはドゥネダインが住むと言われています。そこに重大なヒントがあるかも知れません。エレンディルは書いてあります。宝を見つけるにはゴンドールとアルノール、二つの国の協力が必要だと・・・」
「アルノールは滅びた。それぐらいのことは俺でも知っている」
「そうです。だからドゥネダインに聞けば何かわかるかと・・・」
「なんだ、そのなんとかダインて」
「ドゥネダインはヌメノールの血を引く人々で、普通の人間よりもずっと長寿を約束され、人の心を読んだり、予知能力があるなど、様々な力を持っています。北方のアルノールが滅びてドゥネダインも今ではごくわずかしかいません。しかも敵に見つからないように、普段は野伏のスタイルで、別々の場所に広がって暮らしているそうです」
「へえ、お前は本当にいろいろなことをよく知っているな」
「いまのこと、5年前の試験に出たはずです。もう忘れたのですか?」
「とっくに忘れた!」

俺は疲れて少々腹も立てていた。自慢じゃないが、俺は試験の内容など1ヶ月前にやったものでも忘れている。毎年落ちているから、最後の方はファラミアと同じ問題の試験を受けていた。5年も前のことまで、事細かに覚えているこの弟はどういう頭を持っているのか・・・

「兄上、もっと速く漕いでください」
「うるさい、お前が試験の話などするから、俺は今機嫌が悪い」
「また海賊に捕まります」
「どこに海賊がいる」
「ほらあそこ、遠くに船が見える。僕達のこと追いかけてきたのですよ」
「あいつらもう出てきたのか。もっとたくさん氷の塊を置いておけばよかった」
「このままでは追いつかれてしまいます。もっと速く漕いでください」

もっと速くと言われても、これでも精一杯速く漕いでいるつもりである。

「ファラミア、お前は手伝わないのか」
「僕が手伝っても、かえって邪魔になるだけです。兄上一人だけの方が、よっぽど速く動きます。兄上のこぐ力でこっちに進み、僕がこっちへ漕いでしまったら前に進む力と・・・」
「もういい、黙っていろ!」

こういう場合、たとえ無力であっても一緒にやってくれるというだけで、うれしくなるのだが・・・ファラミアも昔はそうだった。できないとわかっていながら、俺のやることはなんでも真似したがり、いつも俺のあとばかりついてきた。それがどうしてこう生意気で理屈ばかり言う弟になってしまったのだろう。

「ボロミア!手を止めないで!それに周りをよく見ないとぶつかる!岸が見えてきました。よさそうな場所を見つけて上陸しましょう。彼らは大きな船があるから、陸地までは追いかけてこないでしょう」
「そうだな、だけどこのボートはどうする?」
「そうですね。少し運んで、森にでも入ったら隠してください」
「俺が運ぶのか」
「もちろんです。兄上は力がありますから」

ファラミアはすました顔で言う。まったくこいつは俺がありあまるほどの力を持っていて何をしても疲れないとでも思っているのだろうか。そうこうしているうちに、陸地が近づいてきた。俺は慎重にボートを漕ぎ、陸地に上がった。海賊船は俺の目にもはっきり見えるほど近くに来ていた。俺はボートをまた頭に担いで走り出した。



どれくらい走っただろうか。海岸近くの草原を抜け、森の中に入った。海賊達が追いかけてくる気配はない。

「ボートはこの辺りに隠しましょう。この木を目印にして茂みの中に・・・」
「わかった」

ボートを隠してからは少しゆっくり歩くことにした。追っては来ていない。それに暗くなってきた。

「今夜は森で野宿か」
「そうですね」
「ウサギかシカでもと思うが、なかなかいないな」
「無理ですよ、僕達は狩人ではないのですから。足音がして、動物は逃げてしまうのでしょう」
「そうだ!お前達はここの者ではないな!どこへ行くつもりだ」

いきなり5、6人の男に取り囲まれた。全員剣を構えている。俺もあわてて剣を抜こうとするが、腰につけていた剣も短剣もいつのまにかなくなっていた。

「戦では負けを知らないゴンドールの白の大将も、森を歩いている時はずいぶん無用心だな。このあたりは盗賊がよく歩いているし、オークだって出る。ミナス・テリス近くの森を散歩するのとはわけが違う」
「なぜ、俺がゴンドールの大将だとわかった」
「剣の紋章を見ればすぐにわかる。剣を取られても気がつかなかったのか」

相手の言うとおり、俺は剣を取られたことも、彼らが近くにいることも全く気づいていなかった。

「あなた方はドゥネダイン、北方の野伏ですね。おっしゃるとおり僕達はゴンドール、執政家の者です。あなた方に会いたいと思ってここまできました。怪しい者ではありません。どうかその剣をおろし、ボロミアの武器を返してください」
「ほう、お前は体は小さいが、なかなか知恵も勇気もあるようだな」

1人の男がファラミアの肩に手を置いた。

「無礼者!ファラミアから手を離せ!ヌメノールの野伏だかなんだか知らんが、俺たち二人はゴンドール執政家の人間だ。下手なことをしたら、ただではすまされない」
「兄上、僕達の方がここでは侵入者です。怒らないでください」

それまで怖い顔をしてにらみつけていた男達が笑顔になった。ファラミアの肩に手を置いた男が俺の前に手を出してきた。俺はしかたなくその手を握った。

「わるかった。この土地に新しく来る者は、怪しい者ばかりだから、ついそのように振舞ってしまった。俺の名前はハルバラド、ドゥネダインだ。お前達も何か目的があってここまで来たのだろう。こんなところで話をしていては危険だ。俺達の隠れ家まで来い」
「あなた方がドゥネダインというなら、その証拠となるようなものを見せてください。知らない人間についていって殺されるというのはいやですから」
「メルロン、これでどうだファラミア」
「わかりました。確かにあなた方はヌメノールの高貴な血を引いている方です。案内してください」

男達は先に歩き出した。俺にはなにがなんだかよくわからない。ファラミアにそっと小声で聞く。

「ファラミア、なんださっきの言葉は」
「メルロン、エルフ語で友達と言う意味です。普通の人間や盗賊などはエルフ語なんて知りませんからそれで信用したのです」
「お前が頭のいい弟で本当に助かった」
「この言葉は6年前の春の試験で出ました」
「・・・・・」


                                        −つづくー



後書き
 頭のいい弟は試験の内容も事細かに覚えていますが、兄は試験という言葉だけで拒絶反応を起こしてしまうようです。いままで南方、イシリアンの野伏ばかり話に書いてきたのですが、北方にもなかなかよさそうな人がいるので、今回登場させてみました。もちろん名前だけ借りて後は適当にでっちあげていますが・・・(笑)