8、北の野伏
僕達の宝探しの旅は幸運に恵まれている。最初、海賊達に捕まってどうしようかと思ったが、結果としていち早く北の海まで行き、エレンディルの船を見つけることができた。僕達二人だけだったらとてもあんなに早くあの場所までは行かれなかっただろう。ボロミアは窮屈な思いをして機嫌が悪かったが、それも仕方がない。エレンディルの船から無事地図や隠し場所のヒントになるような本も持ち出した。でも宝というものはこれですぐに見つけられるような簡単な場所には隠されていない。もし地図に宝の場所をはっきり書いてしまえば、すぐに誰かが見つけて掘り出してしまう。だから宝物の隠し場所はいつの時代でも複雑で、宝探しには困難もつきまとう。
宝物の隠し場所は、北のアルノールと南のゴンドール、手がかりは二つの国に分かれているようだった。アルノールは滅びてしまい、今この土地でヌメノールの血を引いているのは、ドゥネダインの野伏の人だけである。その人たちにすぐに出会えたのだから、本当に運がいい。彼らの隠れ家に案内される途中、リーダーらしいハルバラドがいろいろ僕に話しかけてきた。
「ファラミア、野伏というものに逢ったのは初めてか」
「この場所に来たのは初めてです。でも僕達の国、ゴンドールにはイシリアンという場所があって、そこは野伏の人達が守っています。兄のボロミアに連れられてそこまで行ったことがあります」
「イシリアンの野伏か。よくうわさには聞いている。今は誰がそこの大将だ」
「マドリルという名前の人です」
「イシリアンの野伏は何人位いる」
「200人ぐらいだ。お前ファラミアから何を聞きだそうとしている」
ボロミアが不機嫌そうな声で答えた。
「兄上、彼らはこの土地の野伏なのです。怪しい者ではありません。どうしてそんな言い方をするのですか」
「見た目は充分怪しい。イシリアンの野伏と違ってそろいの服も紋章もつけてなく、黒ずくめの格好だ。盗賊の集団のようにも見える」
「イシリアンと違ってここはどこの国にも属していない。だから紋章もなく服装もバラバラだ」
「でも、服装が違っても、あなた方もイシリアンの人もよく似ています。歩き方や話方、身のこなしなど・・・あとドゥネダインの人は普通の人間とは年のとり方が違うと聞きました。あなた方の年齢はいくつぐらいですか?」
「いくつに見える」
「30代ぐらいですか」
「俺たちはみな50代、族長のストライダーは60を超えている」
「ストライダー、初めて聞く名前ですね」
「早足という意味だ。本当の名前は別にあるが、俺たちはみなそう呼んでいる」
「その人に会うことはできますか」
「今は別の国に行っている。残念だが会うことはできない」
「それは残念です」
僕は50代だという彼らの顔をよく見た。どう見ても50代には見えない。特にハルバラドなどは20歳の兄ボロミアとそう変わらない顔立ちをしている。まあボロミアは年齢の割りに大人っぽい顔をしていると、いつも言われているのだが・・・ヌメノールの血を引く人というのはみなこうなのだろうか?
「静かにしろ!お前達は追われている」
「え、どこに」
「さっきから、ずっと後をつけている者がいる。あの歩き方は陸の者ではないな。海の上で長く生活している」
「海賊だ!」
僕とボロミアは同時に叫んでしまう。
「ギヤマンドラにバラバ、ゴント」
「兄上、すごいですよ。よくその名前をスラスラ言えますね。僕は名前なんかすっかり忘れていました」
「あんな思いをしたのだ。名前を忘れないように何度も繰り返して唱えた」
「追っ手を巻くために二手に分かれよう。この先の分かれ道で俺とファラミアは右へ行く。ボロミアは他の仲間と左へ行け」
「ファラミアと別れ別れになるのか」
「別にこれっきりという訳ではない。すぐに隠れ家で会える。ただ追っ手を巻くためには別の道から行った方がいい」
「お前とファラミア二人っきりになるのか」
「ファラミアであいつらをおびき出してうまく巻いてやる。俺はこのあたりの道は誰よりも詳しい心配するな」
「ファラミアにもしものことがあったらただではおかないからな!」
「兄上!もう海賊たちがすぐ近くまで来ています。僕は大丈夫ですから言う通りにしてください」
「走るぞ!」
ハルバラドが合図をした。彼は僕の手を握って走り始めた。後ろからボロミアの声が聞こえる。
「おい、ファラミア!本当に大丈夫か」
「兄上!そこで立ち止まってないで、早く向こうに走ってください!早く!」
僕はボロミアの走っていく方角を見た。ボロミアは体は大きいし、荷物をいろいろ持っているので走るのはあまり速くない。
「向こうは大丈夫だ、俺達の方がしばいをする。お前は速くは走れないふりをしろ。充分こっちにやつらが近づいたところで、走り出して逃げる。いいな!」
「どうして僕の方を選んだのですか?」
「二人を見ていればどっちをどう使ったらいいか、すぐにわかる」
ハルバラドはおかしそうに笑う。僕はわざとぐずぐずした歩き方をする。海賊達の姿がすぐ近くに見える。ギヤマンドラ、バラ・・・名前はどっちでもいいや。とにかく彼らの目を引き付けなければ・・・思ったとおり彼らはボロミア達の走っていった方は振り向きもせず、僕達に近づいてくる。もう少しで捕まる、と思った瞬間、ハルバラドは僕の手をつかんで走り出した。彼は僕の手を引きながら巧みに森の中を走っていく。これが野伏というものなのか、ただ速いだけではない、木の間をすり抜け、坂道を登り、まるでけもののようなしなやかな動きで森を駆け抜ける。僕は遅れないようしっかりその手をつかんで夢中になって走った。
−つづくー
後書き
野伏というのは日本の忍者のようなものなのかな、などと想像しながら書きました。ボロ兄は力は強いけど、こういう森の中をすばやく動くのは苦手そう、やっぱり野伏としての才能があるのはファラミアの方でしょうか?
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