第三章
初期砂村新田所有者に関する考察

絵図概要

 【砂村新田内割絵図(とその裏書)】がいわゆる堀江家文書の一つとして首都大学東京図書情報センターに所蔵されている。その複写は堀江家ゆかりの地にある中野区立歴史民俗資料館にある。この絵図の存在は関係者の間で有名である。しかし今まで、絵図の内容について詳細に分析されたことがないので、筆者がそれを試みた。

 筆者は実際の絵図を確認するとともに、やはり保存されているマイクロフィルムから拡大コピーをとって、その詳細な分析を試みた。絵図はおよそ縦三尺×横四尺の大きさで、ちょうどA3大の和紙九枚(3×3)を張り合わせて、その上に描かれている。裏には出入(訴訟)の経緯と結論(裁定)が書かれている。延宝五年(一六七七年)に書かれたものであるが、私はこの絵図はどうやら後の時代の写しのようであると考える。その根拠は以下の通りである。

 この絵図は裏書にあるように延宝五年(一六七七年)の訴訟結果の土地権利状態を示したものである。新左衛門の死(寛文七年)の約十年後、その子孫である新三郎と新四郎の出入があり、砂村新田における権利を二人で等分したことが裏書に記されている。当時の関東郡代伊奈半十郎(忠常)の裁定によるものである。新左衛門の生前、砂村一族が開発した新田としては武蔵の砂村新田と相模の内川新田が主なものであり、両新田の開発に当たっては、新左衛門が総監督、新四郎が砂村新田の開発リーダー、新三郎が内川新田の開発リーダーを務めたらしいのだが、どうやら土地相続に関する遺言があいまいだったらしい。砂村新田における出入の二年後、延宝七年(一六七九年)に内川新田においても同様の出入が発生している。その結果としてやはり絵図と裏書が作られたらしいのだが、残念ながら絵図は行方不明である。【御絵図面御裏書之写】によると砂村新田での出入同様に、内川新田の所有権を新三郎と新四郎で二等分している。こちらは当時の走水奉行大岡次郎兵衛(直政)による裁定である。すなわち、新左衛門の死後まもなく、子孫(別家)である新三郎家と新四郎家が砂村新田、内川新田をそれぞれ半分ずつ相続したのである。なぜこのような出入になってしまったのかについては定かではない。筆者は、「新左衛門は新三郎と新四郎で新田を仲良く分けるよう遺言していたが、具体的な分割方法を明示していなかったので、後になって両家でもめてお上の裁定を求めた」という程度の出入だったと考えている。新左衛門は「新左衛門家」を誰かに継がせるようなことはしなかった。どちらかを主要な後継者・相続人にするのなら、「新左衛門」を名乗らせて「本家」として扱ったはずだからである。つまり、平等な別家を二つ作ったと見るのが妥当ではないかと思っている。

 裏書の全文は以下の通りである。伊半十とは当時の関東郡代伊奈半十郎のことである。隣接する村々の名主が立ち会う形で、砂村新田をちょうど半分ずつに別けて新三郎(青地)と新四郎(黄地)の名義にしたことが説明されている。

l       三百三十年を経ている割には、虫食いや傷みがほとんどない

l      裏書に当事者(新三郎、新四郎、伊奈半十郎)の捺印がない

l       一部に「文字不祥」の朱書(二箇所)がある

 しかし、これが初期の砂村新田の状況を伝えるもっとも詳しい資料であることには違いない。また「文字不祥」とされていることから、可能な限り忠実な複製を作ろうとしたものであり、贋物を作ろうとしたのではないということが伺えるので、たとえ後世の写しであっても史料としての価値は十分に認められる。恐らく絵図がぼろぼろになったので後世の人が作り直したのであろう。

裏書

武州西葛西領寳六嶋砂村新田場新四郎新三郎と出入ニ付度々逐僉議其上於内寄合御勘定奉行衆御僉議之上右新田場双方江半分宛被仰付候依之地面無甲乙可致内割由申付同領本所村名主六郎左衛門須崎村名主伊兵衛海辺新田名主平右衛門久左衛門新田名主長左衛門亀戸新田名主治郎兵衛右五ヶ村名主共并當人双方立会而絵図之通地面無甲乙割、其上高井清兵衛為検使遣之相改境内等無相違雙方申分無之段為致書物絵図黄地之方新四郎青地之方新三郎可請取旨申渡之候後日ニ無双論ため絵図境目墨引に加印判双方江相渡置之条不可違背者也

 延寳五巳年閏十二月十四日    伊半十

                     砂村 新四郎

                     同  新三郎

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目次 
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第四章 
第三章 
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あとがき 
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